第3話 季節がらお体に気をつけて

もうすぐ6月だというのに急に寒くなり、

仕方なく押入れから毛布を引っぱり出した。



窓の外はずっと雨が降っている。

私は部屋にこもり、ずっと雨の音を聞いて過ごしている。

テレビもラジオも音楽もガチャガチャしていて煩わしい。


和がいなくなってから、静けさが苦手になった。

家の中に独りでいるときに聞こえる、シーンという静まりかえった音が耳が痛いほどに感じる。シーンというあの音はどこから聞こえてくるのだろう。耳をおさえてみても止まない孤独な静けさがあるということを知った。


テレビもラジオも音楽も捨てた私には、雨の音や風の中にいるような音がちょうど良い。


いくらでもぼんやりしていられるのだけれど、1日ぼんやりした日の夜は眠れない。

眠れないのは辛いものなので、空が明るい間はなるべく動いておこうと思っている。 


最近は在宅ワークにも慣れた。

会社に行くのは隔週で、もうひとりの事務と交代で出社している。

家では朝ノートパソコンを立ち上げて出勤入力。ほぼメールでのやり取りや書類整理、集計作業で仕事が終わる。夕方5時半には退勤入力。

同僚から聞かされる家族の事や、子供との旅行の話しや、半分自慢のご主人の浪費について…の雑談に付き合わなくて良くなったし、会社帰りに飲み会に誘われしかたなく時間を無駄にしなくて良くなった。

結婚しないのかとかも聞かれなくなって。

このまま私は 〔同棲中の彼がいて結婚にはこだわらない〕 という女のまま凍結されるだろう。



ふと、和の足音が聞こえた気がして、そちらに向かって「なんか、寒いね」と声にしてみて短い返事をしばらく待ってみたけど、一人ぼっちの部屋には雨の音しか聞こえない。



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