第71話修羅場

 …さて、これまたどうしたものか。

 家に帰ってゲームにログインすると、すでにマユとルナがログインしている。

 …当然俺が優先すべきは彼女であるマユだけどそこにルナがテレポートでもしてきたら浮気を疑われてしまうかもしれない。


「…はぁ」


 困ったな、ルナとは特に何時に遊ぶとかって言うのは決めてないけどマユとは暗黙のルールで大体いつも7時ぐらいから遊ぶというのが決まってしまっている。…とりあえずマユのところに行こう。

 俺は長考の末にそう結論付け、マユのところにテレポートした。


「あ、マトくん!」


 するとマユもすぐに俺に気付いたのかこっちに近づいてきた────


「マト…お買い物、行こ…」


 と同時、ルナも俺の真横にテレポートしてきた。


「マト〜!よかったらクエスト────」


 と同時、ユリもルナの反対側の俺の真横にテレポートしてきた。


「ねぇ、私がマトくんと遊ぶんだけど?」


「…マト、私と、遊ぶ…」


「は?別にマトは物じゃないでしょ?」


「……」


 …なるほど、これが修羅場か。

 アニメとか見てて可愛い人たちに囲まれてるんだったら別にちょっとの代償として修羅場ぐらいあっても別に問題ないしむしろお釣りが来るぐらいだろ、とか思ってたけど今はその時の俺を殴りたい気持ちでいっぱいだな。

 …って、そうじゃなくて、落ち着け俺、そもそもなんでユリがここに来たんだ…?今日は遊ぶ約束はしてなかったはず。

 …いや別に友達と遊ぶのにいちいち約束がいるわけでもないか…


「マトくんは私の物なの」


「うっわ、人を物扱いするとか最低っ!」


「物って机とか鉛筆とかの道具とかと同じ定義で使ってるんじゃなくて比喩表現って言わないとわからないかな?」


「マトの、前で…そんな、言い争い、する、なら…消えて」


「…っていうかこの人前私のことキルした人だよね?」


「…私のこともね」


「…それ、が…?弱い人が、殺られる、あれ、そういう、緊急、クエス、ト…」


「……」


「……」


「……」


 ふむふむなるほど、ここでもう一つわかったことがある。

 こういう状況になった場合男である俺に何かを言う権利は────無くなる。

 ここで俺が誰かを擁護するような発言をしても、残った2人が俺のことを責めてくる。

 こういう時に優先するのは彼女であるマユなんだろうけど、ユリはともかくルナはもし俺がそんなことをすれば現実で自分の体を傷つけたりするかもしれない。

 それがわかってて誰か1人にだけ見方をするのは非常に難しいものがあるため、俺に何かを言うことはできない。


「ねぇマトくん、私間違ってないよね?」


 あぁ…ここで俺に話を振ってくるのか…いやまぁマユからしたら当然そうなるか…


「あ、あー、そ、うだな、うん」


「だよね!じゃあ────」


「で、でも、た、たまには複数人で遊ぶのもいいんじゃないか?」


「…え?」


 マユは引きつった顔を見せたが俺はこの勢いのままこの場を収めることのできる唯一の方法を提案する。


「ほ、ほら、複数人でしか行けないクエストとかもあるだろ?」


「…他の女の子とも遊ぶってこと?」


「え、ま、まぁ、そういうことになる…けど、浮気なんてしないからそこは安心して欲しい」


「…ほんと?」


「本当だ」


「…嘘だったら?」


「嘘だったら…ゲームの世界でできることならマユの言うことをなんでも一つ聞く、っていうのはどうだ?」


 ちょ、ちょっとリスクが高いかもしれないけどそもそも俺は浮気なんてしないし、ゲームの世界でできることならそんな大したこともないだろう。


「…わかった、マトくんを信じるよ」


「そ、そうか!ありがとう」


 こうしてなんとかこの修羅場を鎮めることができた。

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