第29話誠と真冬は友達として

「……」


 き、気まずい。元カノと同じ学校でハチ合うなんて本当に気まずい。俺はしばらく硬直したが、その沈黙を破ったのは張本にである真冬だった。


「…その子、新しい彼女?」


「えっ…?」


 その子って…もしかして花龍院のことか?そんなわけがない。


「は、はぁ!?ちちちち、違うし!そういうのやめてくれる?ほ、本当に違うから!べ、別にこんなやつ好きじゃないし!」


 花龍院さんがかなりオーバーリアクションを取った。おいおい、そんな激しい反応したら余計に怪しまれるだろ!


「…へえ、そうなの?誠くん」


「も、もちろん、付き合ってるわけが────」


 …いや、待てよ。別に真冬とはもう別れたんだし弁明する必要はないんじゃないか?花龍院さんと付き合ってると誤解されて噂にされるのは困るけど真冬はそんな意味のないことはしないだろうし、むしろここで弁明したら付き合っていた時と同じだ。…よし!


「ま、真冬には関係ない」


「……っ!…そう、そういうこと言うんだ…」


 真冬が落ち込むように言った。ちょっと罪悪感はあるけどこれからの真冬の新しい恋愛のためにも悪いところを反省してもらうのは大切なことだ。


「……」


 真冬が花龍院さんと俺のことを交互にじっくりと観察した。


「…なるほどね」


 そう言って真冬は文字通り胸を撫で下ろした。な、何がなるほどなんだ…?今ので何がわかったんだ。

 …そういえば、好奇心で聞いてみたいことがあるんだった。ちょっとこの機会に聞いてみよう。


「ま、真冬は新しい彼氏とかできたのか?」


「ん〜、新しい…っていう言い方が合ってるのかもわからないし付き合ってる…っていうのかも微妙なところだけど…一応できたんじゃないかな…?」


 よかった、どうやら真冬は新しい人を見つけたらしい。真冬は俺なんかに構うような器じゃない。もっと高いところを狙えるだけの素質を持っている。

 そして俺は、恋愛としてでなく、友達としてなら真冬はかなり良いと思っている。友達なら連絡先を管理されたり、尾けられたりもしないし、監禁されることもない。真冬の悪いところが全部なくなるからだ。


「ねえ誠くん、よかったらまた連絡先交換しない?友達としてでもいいから」


 俺が考えていることと酷似したことを真冬が言ってきた。俺としても友達としてでもいいのであれば断る理由はない。


「ああ、大歓迎だ」


 そして俺と真冬は、連絡先を改めて交換した。


「私無視しないでくれる〜?」


 1人状況がわかっていない花龍院がとうとう痺れを切らし話しかけてきた。


「あ、そうだ、狛神、ついでに私とも交換する?」


「えっ…」


 俺はちらっと真冬の方を見るも、真冬は笑顔で返してくれた。本当に友達としてでいいらしい。


「わかった」


 こうして俺は花龍院とも連絡先を交換した。


「じゃ、早く帰ろ〜」


 そう言って後ろに真冬を残したまま、花龍院はまたも俺の腕を引っ張った。


「───っ!?」


 俺はばっと後ろを振り返る。そこには手を振っている真冬の姿だけがあった。…気のせい、か?今ものすごくゾッとしたような…


「……」

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