第27話ユリ

「…ねえ、今日は1人なの?珍しくない?」


「珍しくないって…昨日たまたま会っただけじゃ…?」


 結局フレンド申請された理由も端折られたままだし、本当にそこが一番大事なところなのに何端折ってくれてるんだっていう感じだ。


「…まぁいいや、じゃあ暇だし一緒にクエスト行かない?」


「いきなり!?」


 本当に調子が狂うな。


「何、嫌?」


 なんだこの感じ、やっぱりどこかでこの感じの雰囲気を体験したことがある気がする…それも俺が通ってる高校で、だ。


「嫌っていうか…う〜ん…」


 それはともかくとしてマユの知らないところで他の人とクエスト行ったら怒るかな〜…いや、仮に1人だったとしても勝手にクエストに行ったら怒るか…でもそれは危険だから怒ってるわけで、戦闘系じゃなかったら問題はないはず。


「じゃ、じゃあ薬草集めのクエストとか…?」


「えっ!?いいの!?いくいく!」


 テンションの振れ幅が激しい!あと女子でしかも高校生ならあんまりこんな公共の場…って言っていいのかわからないけど結構人がいるようなところでいくとかあんまり言わない方がいい気がする。…俺の考えすぎか。

 …そういえば今日は視線を感じないな。


「…えっ、あんたその装備で行く気?」


「…え?」


「見た目以外ほとんど初期装備のままじゃん…」


 た、確かにマユの手前見た目を重視してたのは否めない。


「そういう君こそ───君…?」


 そう言えばこの人は名前なんて言うんだ?

 俺はフレンド欄を開いて、『マユ』と書かれている下の欄に目を通す。


「えーっと、『ユリ』さん…?」


「えっ、ちょっ、ちょっと…いきなり名前で呼ばないでよ、狛神───こほんっ、こほんっ」


「ご、ごめん」


 咳…?このゲームにそんな咳するような要素なかった気がするけど…


「じゃ、じゃあ私はマトって呼べばいいわけ?」


「ま、まあそれでいい」


「マト…?あー、なるほど…本名の間のこの文字を取ったってこと…私と発想が似てるかも…」


 何をぶつぶつ言ってるんだ。


「じゃあ、薬草探しに行こっか」


「…あ、ああ…?」


 俺はマイペースなユリのペースに困惑しながらも、ユリと同時に『クエスト開始』の文字をタップした。

 もう三度目と言うこともあって、慣れてきた光がやがてなくなっていき、周りはとても絵になりそうなお花畑になっていた。


「わぁ…綺麗〜」


 こう言うものをちゃんと綺麗って思える女子ってなんか…いいな。


「……」


`ボコッ`


「は、はぁ!?何やってるの!?」


 俺は今の感想が気持ち悪すぎたことを反省し、俺は自分の顔を殴った。痛い…


「まあ…このぐらいならすり潰された薬草でいっか」


 そう言ってユリは俺の頬にオイルのような、ジェルのような緑色の薬草を黙々と塗った。

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