第12話マユの疑い

 俺がマユのところに向かうと予想通り、マユは服屋さんで服を見ていた。


「マユ、悪い、遅くなった」


「ううん!全然大丈夫!夫を待つのも妻としての──」


「ああ、はいはい、それはわかったから!」


 なんていういつもの常套句から始まる。そして俺は服を見ていたマユの姿を見てとある重大なことに気付く。


「そういえば明日どんな服装で行くか決めとかないと誰が誰だかわからなくないか?まあ、俺たちみたいな一般人になりすますような奴いないだろうけど…」


「えっ、あー、うーん。そ、そうだね…」


 と、マユはどこかぎこちない感じで言った。


「ん?どうしたんだ?」


「ううん、別に…」


「いやいや、何かあるんだったら言ってくれ」


「……」


 と、マユは少し間を開けてから話だした。


「ねえ、本当に私がどんな見た目でも嫌わないでいてくれる?」


「またそれか、だから何度も言ってるけど俺は見た目で人のことを判断したりしない!まあ、さすがにものすごく巨漢な男とかが出てきたらビビるけどとにかく俺は見た目なんて気にしないって!マユはマユだろ?」


「…それって本当?」


「ああ、もちろん!もし俺がマユを見た瞬間に逃げたりしたらもう俺に人権なんてないと思って遠慮なく何をしてくれてもいいぐらいだ!」


「…わかった」


 と、マユは納得したように言った。それにしてもまた見た目の話か…なんでそんなに気にするんだろう。っていうか別にマユの顔が整ってなくても俺はマユのことを嫌ったりなんてしないのに…もしかして俺って信用されてないのか?


「……」


 いや、そうじゃないか。何かを信じるためにはまず疑ってこそだ。疑わずに「信じる」なんて言ってもそんな信じるは`軽すぎる`。

 マユは俺と本気で恋愛するためにまずは疑ってくれてるんだ。なら俺もそれに答えないといけない。


「で、マユはどんな見た目なんだ?」


「あー、うーん。マトくんに髪型の名称とか言っても伝わらないだろうからわかりやすく説明するね?」


「あー、た、頼む。」


「まず髪の毛の長さは肩よりちょっと長いぐらいで、服は上半身が白色で下は紺色、服の生地とかも多分わかんないだろうからそれぐらいかな♪」


「な、なるほど…」


 なんか若干バカにされてる感は否めないけど、まあわかりやすい説明だったからよしとしよう。


「あっ、あと胸の大きさはCとDの──」


「そんなことは聞いてない!!」


 と、いつもの調子でふざけるマユに俺はツッコミを入れた。


「クスッ、冗談だって、じゃあマト君はどんな見た目でくるの?」


「えーっと…」


 どうしよう、どんな服を着るかお互いに言おうとは言ったけど翌日の服を前日から決めるなんてほとんどしないからパッとは出てこないな。


「もしかして浮かんでこないの?」


「あ、いや、そ、その…」


「じゃあ別にいいよ!」


「えっ…」


「多分実際にマトくんと会ったらわかると思うから!」


「いや、俺の服装もわからないのにどうやってわかるって言うんだ?」


「……」


 と、またマユは間を開けてから話した。


「会ってみたらわかるんじゃないかな?」


「そ、そうか?」


「うん…」


 そして俺たちは明日に備えるべく今日は特に何もせずに眠りについた。


「大丈夫…誠くんを信じよう…」

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