第3話初めてのクエスト開始

 俺たちが『クエスト開始』の文字をタップした瞬間に周りが宇宙空間みたいになって眩い無数の光の線が俺たちと逆流に流れていく。そしてやがて──


「うわっ…」


 俺はいつの間にか木の枝の上にいた。


「いたたっ…」


 いや、痛みとかは設定で有り無しを設定できて俺は痛みを感じないようにしてるから別に痛くは無いんだけどなんとなく衝撃的なやつは感じるから反射的に言ってしまう。


「っていうかここどこだ?遺跡洞窟を選択したはずなのに…」


「あれっ、マト君!どこー!」


 と、マユの声が木々の揺れる音に紛れて聞えてきた。どうやらここは森の中みたいだ。


「ここだ!」


 俺が大声で叫ぶと下にいたマユが俺に気付いた。


「あっ、マト君!えっ、それ大丈夫?」


「んー…まあなんとか降りてみる」


 俺はどうにかして木に張り付いてコアラのように木を伝っていき下に降りた。


「ふう…」


「大丈夫!?」


 と、マユはなぜか本気で焦っている。


「あ、ああ…大丈夫だけどそんなに焦ることでもないぞ?ゲームなんだし」


「じゃあマト君はこの世界で私が腕を引きちぎられてモンスターに食べられても良いって言うの?ゲームだから」


「いやっ、そういうわけじゃないけど…」


「そういうことっ!だからゲームでも現実でも一緒なのっ!わかった?」


「わかったわかった」


 俺はこの時適当に流してしまったけどまさかこの言葉が‘ああいう意味‘

だったとは気づけ無かった。


「でも、ここはどこなんだ?遺跡洞窟に行くはずじゃなったのか?」


「うん、それなんだけどなんかこれも演出の一環らしくて、すぐ近くに遺跡洞窟があるらしいよ?」


「なるほど…」


 そういうことか、かなり凝ってるな。いきなり遺跡洞窟に連れて行くんじゃなくて道中まで再現するなんて…これも人気な理由の秘訣の1つなのか…?


「じゃあ森デートしよっか♥」


「なんでだよ…」


 なんて簡単なやり取りをしながら俺とマユは遺跡洞窟に向かった。


「ここが…」


 なんか本当にザ・遺跡みたいな感じの見た目だ。グレーの石材がベースでところどころにコケが生えている。


「マト君をこんなところに入らせるのかあ…」


 と、一瞬落ち込んだマユに俺は励ますように言う。


「ま、まあまあでも楽しそうじゃないか?」


「うーん…マト君がそう言うならそれで良いよっ!」


 と、こんな感じでいつもマユは俺のことを否定せずに常に優先し続けてくれる。それはありがたいんだけど、たまに思うことがある。


「なあ、無理してないよな?嫌だったら別に──」


「嫌だなんてとんでもないよっ!マト君と一緒に居られるならどこでも天国だからね!もう絶対に手放さないからねっ!」


「そ、そうか?なら良いんだけど…」


 もう絶対に手放さない…?ちょっと引っかかるけど、とにかく別に無理はしていないようで安心した。


「じゃあ入るか」


「うんっ!」


 そして俺たちはとうとう遺跡の中に足を踏み入れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る