第4話 俺のダイスの目は揺らがない

 前回のあらすじ:ギャンブルがつまらないから、面白くするために神様にお願いしよう

 ※残酷描写有り

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 走り続けて、でこぼこする坂道を上った。そして、黄色い粉が無い、円状の窪地の端に出た。窪地内部を見ると、蒸気が充満して視界のほとんどが白かった。

 その中で青く光っているものがあった。青い城…のように見えるのは上だけで、城の下に塔がくっついたアンバランスなシルエットだった。空を飛んだあのとき見たのはこれだろう。

 城は水たまりの中心にあり、水からは蒸気が上がって周りはよく見えない。

 水たまりはどうやらただの熱湯のようで、足首くらいの深さだが、熱かった。

「ぐぅううううううぅ!!」

 ただの熱湯なら別にいいやと思って、熱湯の中を呻きながら走って、青い城の塔部分に入った。どちらかというと、熱湯の下にある地面の方が熱かった。

 ………素炉平が城の中に入った後、水たまりから顔を出した色々な生物が、蒸気を抜け、穴の外に出ていく。生物たちは、水たまりの深さからは考えられない大きさをしていた。


 城の中は、迷路のようになっていた。あちこちに出入り口があり、神様は城の上の方に居るようだ。

 上る途中、水が上から下に向かって、穏やかに水が流れていた。その水は、直前の熱湯との落差で、氷のように冷たく感じた。

 そして、上り続けた果てに、神様を見つけた。青い壁に、椅子に座るような形で、めり込んでいた。

 神様は、泣いていた。ずっと、泣いている。涙が、下まで流れていたようだ。

「神様…ですか?」

「…………………」

 何も、答えてくれなかった。

 肩くらいまでの長さで、艶があってくねくねした黒髪に隠れて、表情は見えない。

「神様!神様!!」

「…………………」

 何も、答えてくれない。

 寝てるかもしれないと思って、起こすために、歩いて神様に近づく。

 …よく見ると、神様の黒髪の毛先は全て、赤、紫、青、水、緑、黄等の、様々な色の髪だった。

 さらに神様に近づこうとすると、やけに風が吹いて、それ以上近づくことができなくなった。体が強くなっているはずなのに、1歩も進めない。それどころか、何故か何もない場所で何度も転ぶ。

「ぐっ、目の前に居るのに…!!話しかけても答えてもらえないし…!!」

 目の前に居るのに、ちょっと調整してほしいだけなのに、届かない。

 もどかしくて、イライラして、焦りばかりが募る。

「くそっ!!」

 数十分程度、回り込んだり、城の破壊を試みたり、色々やって、どうにもならなかった。この城の材料が何なのか、まるで見当がつかない。地割れを引き起こせる程のこの体で蹴っても、びくともしない。【ギャンブル鍛冶】は、神様の力で邪魔されて、駄目だった。

「……………」

 少し落ち着いて、神様の力を思い出した。

 神様の力について視ようとしながら、神様に近づこうとしてみた。

 風に、神様の力が働いているのが視えた。さらに、自分の体にも、神様の力が働いているのが視えた。…ついでに、神様の髪の1本1本から線が上に伸びて、どこかに向かっているのも視えた。その線の色は、毛先の色と同じだった。

「…これか」

 神様の力で、神様に近づけないようにされていた。

 神様に話しかけても、何も答えてくれない。

 神様に何とかしてもらえなければ、ギャンブルはつまらないままだ。

「嫌だ」

 神様のルールは、嫌なんだ。

 神様のルールを、変えてほしいんだ。

 けれど、神様に直接会って、変えてもらおうと思っても、そもそも話もできない、交渉もできないなら…どうすればいいんだ。

 もう、どうにもならないのか。

「くっそおぉぉぉぉっ!!」

 この、神様の力がある限り、神様に近づくことはできない。

 神様にどうにかしてもらおうと思って、神様に何度声をかけても、答えてくれない。

 もしかしたら、この風が、神様に声を届かせられないようになっているのかもしれない。

 神様と交渉するためには、神様の力に打ち勝たなければならない。

 神様の力に打ち勝てるなら、そもそも神様と交渉する必要が無いのに。

 神様に勝てないと思ったから、神様と交渉しようとしたのに。

「………………やるしか、ないのか」

 たとえ神様と戦うことになっても、ギャンブルがつまらないままなのは、受け入れられなかった。

「………やるしか、ないんだ」

 神様の力に、勝つしかないのか。

 …神様に、勝てるのか。

「勝てるとか勝てないとかじゃないんだ。勝つしかないんだ」

 神様に勝たないと、ギャンブルがつまらないままだから。

 ギャンブルは面白い、ということを譲れない。

 ましてや、勝手に不正が強制されるギャンブルなんて、嫌なんだ。

「やるぞ…やるぞ!やるぞ!!」

【ギャンブル鍛冶】で、運の影響を受けないようにするんだ。

 既に試して、失敗しているけど。

 それでも、やるしかないんだ。

「……はぁ………はぁ…………………っ!!」

 自分の胸を、【ギャンブル鍛冶】を使って槌で打った。

 自分自身が、運の影響を受けないようにするために。

「ぐっ!?……………はぁ………はぁ……」

 神様の力を受けて、失敗した。

 それでも諦めずに、何度も、何度も、自分の胸を、【ギャンブル鍛冶】を使って槌で打った。

「ぐっ!?…ぬっ!?…ふぐっ!?…がっ!?…」

 ただ打っているだけでは、意味が無いと思っていた。

 神様の力で0%にされているだろうから。

 それでも、諦めるわけにはいかなかった。

「っ!?…っ!?…っ!?…っ!?…」

 数分、数十分、数時間、と時間が経過していく。

 だんだんと、色々なことがぼやけていく。

 ギャンブルが面白いと伝えるために、【ギャンブル鍛冶】を繰り返すうち、理想郷でやっていたギャンブルを思い出していた。

 何度も、ダイスを転がしていた。

 何度も、ガチャを回していた。

 何度も、スロットを回していた。

 何度も、ルーレットを回していた。

 色々なものが、ぐるぐるぐるぐると、自分の周りを回っているような気がした。

 いや、自分が、色々なものの周りをぐるぐる回っているような気もする。

 けれど、一つだけ確かなことがあった。

 俺は、何度も何度も何度も何度も負けても、続けていた。

 勝つまで、続けていた。

 勝つまでやれば、勝つんだ。

(わかってたんだ)

 いざというときに、神頼みをしている自分が居たんだ。

(わかってたんだ)

 まだ技を磨けるところがあるかもしれないのに、諦めていたんだ。

(わかってたんだ)

 自分で何かをすることを止めていたんだ。

(わかってたんだ)

 ずっとギャンブルで神様にすがってたんだ。

(わかってたんだ)

 でもそれじゃ、駄目なんだ。

(わかってたんだ)

 俺が、やるんだ。

(下らない自分に、終止符を打とう)

 神様から受けている幸運を捨てて、もう一度自分の不運と向き合う意志を込めて、自分に向かって槌を振り下ろす。

(俺のダイスは、俺が振る。そして…)


「俺のダイスの目は揺らがない」


 何かをノックできた感触があった。しかし、びくともしなかった。

「こ、これは…?」

 今までに無い感触だった。びくともしなかった。しかし、何かをノックはした。

 確かに、何かに届いた。でも、このままではどうにもならないということもわかっていた。まだ、何かが足りないんだ。

「なんだ…何が足りないんだ…」

 まだできることがあるかもしれないのに、諦めることは止めた。

 神頼みを止めて、自分でやるという覚悟は決めた。

 どうあがいても逃げられないものと、向き合う覚悟は決めた。

 そして………俺は、何のためにやるんだ?

「………」

 神様と交渉する理由は、ギャンブルが不正無しでもできるようにするためだ。

 そして、不正無しになったギャンブルで、ローネーにギャンブルの面白さを教えたい。

 ネーを、楽しませたい。

「………」

 素炉平は、わずかに口の端を上げて、微笑んで言った。

「俺のダイスの目は揺らがない」

 どこかから、バキン、と聞こえた気がした。

 そして、願力が使えるという確信があった。

 というか、使った。

 そして、失敗した。

「…そうだったのか」

 願力が使えるようになって、やっとわかった。

 願力は、とても使い勝手の悪い力だ。

「失敗した。かっこわるう…」

 ちょっと膝から力が抜けて、四つん這いになって落ち込んだ。

 願力は、本当に望んでいる願いを実現する力だから。

 使えばすぐ勝つようなことを望まない俺の場合は……………0%を0.001%とかにする程度だった。

「クソガチャだよ。笑えるね」

 そして、クソガチャに挑んだ。


 ~15時間後~


 願力が使えるようになってからも、ずっと【ギャンブル鍛冶】を繰り返していた。

 もう、両手に槌を持って、腕をぶるぶる痙攣させて回数稼ぎをしつつ、自分の胸部をドラミングしてた。

「…俺のダイスの目は揺らがない。俺のダイスの目は揺らがない。俺のダイスの目は揺らがない…」

 ぶつぶつ呟きながら【ギャンブル鍛冶】を繰り返し続けて………ふと、成功した手ごたえがあった。

 やっと、できた。

「………………………疲れた」

 体は汗だくだし、腕もぷるぷるしている。

 槌を握った手が、握ったまま固まって、指が動かない。

 それでも、できた。

「よいしょ」

 全身がガチガチで、ちょっとストレッチをした。

 左手の槌は、右目に戻した。

「よし」

 改めて、神様に向かって歩いた。

 風は吹いてきた。

 しかし、風が吹いてきたとしても、槌を前に出し、風を切り裂くようにして、無理やり前に進んだ。

 そして、神様の両肩をつかんで、耳元に大声で叫んだ。

「神様あああああああああ!!」

 神様がビクッとした。そして…

「…ぅ、るせえええええええええええええええ!!」

 神様はブチ切れた。

 ドオオオオオオオオオンンンンン!!

 その直後、吹き飛ばされた。

「う、おおおおおおおおお!?」

 どうやら、城全体が上に吹き飛んだようだ。

 何故わかるのかというと、城の外に吹き飛ばされて、絶賛スカーイダーイビーング中だからである。

 城を吹き飛ばしたのは、目の前の赤い奴…噴火である。

「…また空の旅か~」

 そして、あちこちに溶岩がまき散らされており…体を動かし、地面を流れる溶岩の上に、どうにかこうにか足で着地した。

 ジュゥッ、ボコポコポ

「あ゛あぁ゛あぁ゛」

 足が、焼け溶けた。

 ジュジュジュウゥゥゥゥ

「うぅう゛う゛う゛」

 皮膚が焼け、肉が焼け、骨に達した。

 それでも何とか立ち続け、そして……………骨は焼けなかった。

「…ぐっ…ふっ、ふぅ…!!」

 骨が焼けず、足が死んで痛みが減り、何とか落ち着いた。

 素炉平は自分の状態を確認し、膝の高さまである溶岩の海に、二本の足で立っていることにほっとした。

 膝まで黒くなっている足を動かすと、感覚はないが歩けた。

 じりじりと溶岩の熱に炙られて、黒くなった足の痛みと熱さに朦朧としながら、

 沼地をぬたりぬたりと進むような速さで歩いた。

 なんとか溶岩の無い場所まで歩き…ふと気づいた。

 膝から下が骨だけになっているのに、二本の足で問題なく歩けていることに。

 足の骨も、何故か足の指まで、関節の部分が繋がっているようだ。

 よく見ると………骨と骨の隙間が、黒く見えた。

「これは………いや、これが先祖代々の呪いか」

 父親の言葉を思い出した。

『生涯に一つ、自らの全てを懸けた武器を作るまで、続く呪いだ』

 ちょっと、笑ってしまった。

「………骨になっても、鍛冶をやれというのか」

 だから、骨だけの足で歩けるのかもしれない。

 だから、目が槌になるのかもしれない。

 そんなことを考えていたら、

 ズン!!

 ………上から降ってきた数mの岩塊に叩き潰された。

 しーん………

「………どりゃっ!!」

 素炉平は、体の上の岩を投げ飛ばし、立ち上がる。

「だぁ…運が悪いねぇ、全く」

 上から何度も岩が落ちてくる。

 ドンズンドドズン!!

 あちこちに落ちる岩を、素炉平は避けた。

 ドッズン!!ドドズン!!ドォン!!

 やけに自分めがけて落ちてくるのを、ぴょこぴょこ動いて避け続けた。

 ………素炉平の足元には、ポタポタと血が流れていた。その血は、止まる気配が無かった。

 そうして避け続けていると、空が明るくなってきた。

「…なんだ?」

 この世界は、いつも薄暗い空だった。

 今日は、地面に流れる溶岩や空に噴き出す噴火の光が影を強めて、空がいつもより暗いと感じていた。

 その空が、急に明るくなったのだ。

 …つまりその光はとても強く、目に痛い。

「まぶしっ!?」

 素炉平は、目を細めながら空を見上げた。

 …何かが、起きた。

 素炉平以外の人々も、ノビーの外に出て空を見上げた。

 ノビーの中に居てもわかるほどにとても強い光で、子供たちが興味を惹かれて外を目指し、それを追いかけて大人たちも外に出た。

 雷ならば、一瞬だけ光ることがある。断続的に光ることがある。

 しかし、この明るさは、一瞬ではない。長く、長く、長く、明るい。


 人々は明らかに、何かがと感じた。

 そして、人々はを目撃した。


 噴火の上、煙や雲で隠れているはずなのに、はっきりとわかる光が有る。

 その光は、気高く、神聖で、なにものにも負けず、全てを吹き飛ばすような、鮮烈な煌めく青だった。

 いつも、空は雲で覆われていた。

 その空に、雲に穴ができた。

 そして、穴から周りの雲にひびが走る。

 ギュルギュルギュルギュル

 丸く丸く、円形に、雲が割れていく。いや、ワイパーで窓を拭くように、綺麗に雲が無くなっていく。空の全ての雲は消え去り、青い空に変わる。

 ………そう、まるで

 ノビーの中の狭い世界しか知らなかった人々は、その空の青さと大きさに、驚いた。

 青い光が照らす地上の広さに、ワクワクする者が大勢居た。

 それを…奇跡を目撃した人々は、神がもたらした奇跡と信じた。

 人々は、神が外に出ろと教えてくれたと思い込んだ。

 神を拝み始める者も居れば、外を走り回る者も居た。

 人々は、ノビーの外で暮らし始めた。


 空の青さも、地上の広さも、知っていた素炉平は、そんなに心は動かなかった。

 青い光を見て、綺麗だとは思ったが、あそこに神様が居るのか、と考える程度だった。空の上にはどうやって行こうか、と悩んだ。

 上を向いていたら、めまいがして、足がふらふらした。体に力が入らない。

 ぐぅううううう、とお腹から音が鳴る。

 胃袋が、ぎゅうぎゅうと何度も握りしめられているような、腹を足で踏まれてぐりぐりされているような、そんな圧迫感がある。喉もガラガラで、頻繁に唾を飲み込もうと動くほど、乾いている。瞼が重い。頭痛がする。体にピリピリとしたしびれのようなものが走っている。呼吸をするのが億劫だ。心臓が動いているのか、止まっているのか、よくわからない。

 体の調子が、おかしい。

 考えてみれば、昨日は夜に出発したのに、空の青さから見て、おそらく昼になっている。

 飲まず食わずで、寝ていないから。

 体がまともに動かないのも仕方ないかもしれない。

 それでも、無理をする。

 この世界のギャンブルを、面白くするために。

 面白いギャンブルで、ネーを楽しませるために。

 …そんなことを考えていると、悲しい音色の音楽が、どこかから聞こえてくる。風に乗って聞こえてくる。金属や鉱石を振動させているような高音と、空間に風を通したような音で構成されている。どこか透き通っていて、それでいてじわじわと心に染み込んでくるような、神聖な響きをしている。

 …空の上の、あの青い城から聞こえてくる。噴火で空の上に打ち上げられ、全貌を現した青い城は、笛のようにも見えた。

「………もしかして、あの城は楽器だったのか」

 そこで、地鳴りのようにあちこちから、キィキィという耳障りな合唱が聞こえてくる。

 麓の方から聞こえてきたため、振り向くと、この山を囲うような黒い壁が見えた。

 いつもあった黄色い粉は見当たらない。はっきり見える。黄色い粉は噴火で吹き飛ばされたのだろうか?

 そんなことを考えている間に、火口に向かって黒い壁が、来る。

 素炉平の方に、向かってくる。

 ぞくり、と背中に悪寒が走った。

「?…??」

 何故悪寒が走ったのか、自分でもわからなかったが、黒い壁が近づいてくるにつれて、理由が分かった。

 虫だ。

 あの黒い壁は全て虫だ。

 何の感情もない数多の目が素炉平を見つめてくる。

「…え?…は、ははは…」

 素炉平の足は、動かなかった。

 瞬く間に近づいてきた黒い壁に、虫の濁流に素炉平は飲まれた。

 虫が暴れまわる。素炉平の体にぶつかり、素炉平を後ろに押し流していく。

「ぶっ!?ぐっ!?ばっ!?」

 素炉平の体に虫が噛みつく。肉が噛み千切られる。傷は治らない。

(痛い痛い痛い!!痛くない?痛い痛い!!痛くない?)

「がっあ!?は…」

 体がどんどんどんどん減っていく。

(痛いところと痛くないところがある…これは、知ってもいいことだったのか?)

「…あ」

 左目の空洞から虫に入られて、頭の中を嚙み千切られる。

「あああああああああああ!!」

 頭の中にコンコン、キシキシ、ビチビチと、音が反響する。

 おぞましい音で、頭の中がいっぱいになる。

「う、あ、ああ、あ」

 頭の中がぐちゃぐちゃになって、何も考えられなくなっているはずなのに、頭の中の冷静な部分が考えて、気づいた。

(…この虫たちは、俺のことなんて眼中に無いんだ)

 …虫たちは素炉平を避けようとしたが、密集しすぎていて避けようが無かったから、素炉平の体の肉を噛み千切ってどかし、通っていただけだった。

 ただそれだけで死ぬ生き物も居るが、それを考えてくれる生き物は少ない。ほとんどの生き物にとって、他より自分達を優先するのが当然であるがゆえに。

 ふと、この世界に来た時の、危険なところから逃げる虫たちを思い出した。

 そして、虫たちが向かってきた方向から、音が聞こえた。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 その音は、下から聞こえる。

 ピシッ

 なにか、致命的な音が聞こえた。

 バキィッ!!バキバキバキッ!!

 素炉平の足元まで、地面にひびが入った。

 その次の瞬間、地面が割れた。

 素炉平は、深い深い地割れに飲み込まれた。

 虫たちは、地割れから逃れていた。…素炉平の体に引っかかった虫を除いて。

 キシキシキシキシ

 地割れの中に、深く深く落ちていく。

「あああああああああ!!」

 素炉平は体を動かして足掻くが、地割れは横に広がり手が届かず、上から落ちて来た岩が体にぶつかり、どんどん地割れの底に…底の赤い溶岩に向かって落ちていく。

 素炉平の体から虫が飛んで逃げようとするが、強風に煽られてくるくると変な回り方をしてそのまま落ちていく。

 ドブン

 素炉平は、虫とともに溶岩の中へ落ちた。

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