第3話 ギャンブルで勝てるけど、つまらない

 前回のあらすじ:ガチガチ素炉平、童貞卒業

 ※残酷描写有り、性的描写有り

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 *ネー視点*


 素炉平を最初に見たとき、きれいな食べ方をする人、と思った。

 指がゴツゴツしているのに、食べ物をそっと触っていたのを、すぐに思い出す。

 皆、自分の頭を食べ物に近づけるのに、素炉平は食べ物を頭に近づけて食べていた。

 勉強してない、みたいな話があったけど、最初から話ができたみたいで、変だった。


 結婚したら手を繋ぐ人ばかりなのに、素炉平は繋いでくれなかったのが、ちょっと不満だった。

 結婚したとき、凄く喜んでるように見えたのに。

 生命の営みを見学したとき、私も素炉平も息を荒くして興奮してたのに、素炉平が私から離れたので、私に魅力無いのかな、なんて思ったりもした。


 でも、素炉平と生命の営みをするときに、ゴツゴツした顔を青くしながら、小さな体を怯えてさらに小さくしているのを見て、キュンとした。

 ただ、恐がっているだけなのかな、なんて思ったから、優しくした。

 そうしたら、私の胸のあたりから、へばりつくような大きな目で見上げられて、ゾクゾクした。

 私を求めてるのが、ガンガン伝わってきて、嬉しくて、興奮した。

 キスしようと言われて、喜んだ。

 そのあと、素炉平が泣いて、やっぱり私じゃ嫌なのかな、なんて思ったけど、素炉平も嬉しかったみたいで、良かった。

 そのあと、素炉平がゆっくり近づいてきて、待ちきれないけど、こっちから近づいたらまた恐がっちゃうかな、なんて思って、うーうー悩んでたら、素炉平のゴツゴツした顔がふわふわになって、きゅっとした。

 そこにキスされて、もう心臓がバクバクで、痛いくらいになっちゃった。

(すろへーのことが、好き。)

 そのあとは、素炉平に夢中になった。

 こっちを見て、何度も話して、体も、心も、何度も繋がって、素炉平を抱きしめた。


 子供は、3人産んだ。

 女の子が2人で、男の子が1人だった。

 子供の名前は、素炉平が話してくれた、素炉平と私の名前を合わせる、というのが気に入ったので、スーネー、ローネー、ヘーネーにした。


 朝になって、笑ってる素炉平の寝顔を見て、にこにこした。

「もう、恐くないよね、すろへー」

 素炉平が起きるまで、頭をなでなでしていた。


 *素炉平視点*


 ふと、頭がさわさわして、目が覚めた。

 一瞬、虫が体中を覆っていた経験を思い出したが、ネーの手だと感じて、安心した。

 起きてすぐ、ネーの笑顔を見れて、自然と俺も笑顔になった。

「おはよう、すろへー」

「おはよう、ネー」

 …何年ぶりだろう。起きたときに、おはようと言える家族が居るのは。

「…ありがとう」

「…?うん。ありがとう」

 ずっとあった、寒さが無くなっていた。


 体を起こして、子供たちを教育部屋に連れていく。

 結婚をした。子供もできた。

 それでも、足りないものがあった。

(…ギャンブルがやりたい)

 ギャンブルが、やりたくなった。ギャンブルで勝ちたいと思った。

 …誰も、ギャンブルをしていないようだが。

(…ギャンブルを作るところから、か)

 そして、子供を教育部屋に連れて行った後、余り部屋に向かった。

 子供が生まれれば、後は何も言われないから、余暇を過ごす部屋があるようだ。

 …余暇に生命の営みをして過ごす人の方が多いらしいが。


 余り部屋には、エロの技や言葉の探求者、エロの絵描き、エロの道具職人が居るらしい。余り部屋に着くと、必要なものを求めて、訪れている夫婦が大勢居た。

「命木の大きさについて相談したいのだが、誰に聞けばいいだろうか」

「それなら、あっちの奥の、彼女に聞くといいよ」

「ありがとう」


「命泉の調子について相談したいのだけど」

「それなら、おいらが詳しいよ」

「じゃあ、お願いします。最近調子が悪くて…」


「すまない。緑について相談したいのだが。」

「…はい。こっちよ。ついてきて」


「青」

「…こっち」


「前のやつだと、もう妻が満足できないから、次に進みたい」

「わかった。どれくらいだ」

「指5本よ」

「…そ、そうか」

「指5本」

「よ、よし。ちょっと待っててくれ」


 …本当に、色々な人が居るようだ。ギャンブルに使う道具が欲しいから、目的地は決まっていた。

「うん。道具が作りたいから、道具職人の方に行こうか」

「…えっと、優しくしてね?」

「…?…!違うよ。生命の営みに使うわけじゃないよ」

「…じゃあ何に使うの?」

「ギャンブル」

「?」

「えっと、2人とか、3人とかで、色々な人と一緒にやることで…」

「…結婚は遊びじゃ駄目だよ?」

「いや、結婚とかは関係なくて…生命の営みに関係なくやることで、勝ち負けがあるんだ。運の影響が大きいギャンブルが多くて、運が良いと勝って、運が悪いと負ける、ということも多い」

「ちょっと話を聞かせてもらってもいいかな」

「え?」

 突然、知らない人に声をかけられた。


「私は探求者で、生命の営みの深淵に挑んでいる。君の話にあったギャンブル、というものをやると、幸運だと勝つ、という話があっただろう?ならば、最も善行を積んで幸運になっている者が、一番勝つ、ということだな?」

(…ああ、そうだった)

「………はい。そうなります」

「そうか…ならば!

 そのギャンブルをすれば!!

 誰が一番善行を積んでいるのか!!!

 確認できるじゃないか!!!!」

 ギャンブルについて、やけに大声で確認された。

 …そして、ざわざわとし始めた。


「えっ、そんなのがあるのか?」

「…やってみたいな。愛の深さの証明になるだろう」


「…もしかして、勝つ人は生命の営みが凄いかも?」

「それ、気になる」

「子供と結婚させるのも、勝つ人にした方がいいかな」

「そうね」


「僕と妻で、どちらが勝つかな?負けるわけにはいかないな」

「私が勝ちますよ」

「いや、僕が勝つ」


 ギャンブルがやりたい人は多いみたいで、良かった。

 …大声で宣言されて、逃げ道を塞がれた、とも言う。

「…さて、ギャンブルをやってみたいのだが、教えてもらえるかな」

「はい。…えっと、今回は運の影響が大きいものにした方がいいですよね?」

「そうだ」

「わかりました。今回は、丁半ができるように、ダイスを作ります」

「丁半?ダイス?」

「まあ、ちょっと必要な道具を用意してから説明しますね」

「わかった」

 とりあえず、材料はあちこちに落ちている石で作ることにして、集めた。

(…有るかな?)

 そして、俺の左目に右手を突っ込み、槌を取り出した。

 じゅぼっ!!

「えっ!?すろへー大丈夫!?」

 どうやら、ガチガチ家の男児が全員、先祖から受ける呪い、固定の槌【理視】は、異世界の俺の体にもあったようだ。…ネーを心配させてしまった。

「大丈夫だ。ネー。俺の家系の男性は、眼が槌になるんだ」

「いや、よくわかんないよ?…大丈夫なら、いいんだけど」

「…ふむ、眼が槌になるのは初めて見るが、体は何ともないのかね?」

「はい。大丈夫です。ダイスを作ります」


 また、ざわざわとしていた。

「…えっ?なんで眼が槌に?」

「…よくわかんない」

「…子供もかな?」

「…うーん」


【理視】の骨でできた部分を手で握り、指のすぐ上に来る眼の部分で、石を打った。

 発動した【ギャンブル鍛冶】により、確率で勝手に完成品ができるはずだが…どうやら善行による幸運の影響で、全て成功した。


「おお?石が小さくなった?」

「他の職人だと、割ったりするけど、小さくすることもあるのか」

「手で握ればできる、あの圧縮か?」


 1から6の目まである6面ダイスを、10個作った。

 丁半用の壺は、ノビーの繊維で作ろうと思い、【理視】で打つと、ノビーの繊維で編まれた壺ができた。


「ええ?」

「どうやったのかまるでわからん」

「そうはならないだろ…」


(まあ、そんな反応になるか…親父にも「お前の作品を、お前以外のやつがいじくるところが気に入らない」と言われるような能力だからな)

 理想郷で【ギャンブル鍛冶】を使ったときは、俺の運の悪さでよく失敗していた。

 異世界では、全て成功する。

(…ああ、確かに。今ならはっきりわかるよ、親父。こいつは気に入らねえ。俺の運をいじくられるのは、体が勝手に機械に改造されて、冷たい部分が広がって、オレがおれでなくなっていくみたいだ)


「どう使うんだ?」

 声をかけられて、ハッとした。

 どうやら考え込んでいたらしい。

 頭を振って、意識を切り替える。


「このダイスは、1から6の目があり、ダイスを振る度に目が変わります。このダイスの目が運次第です」

 ダイスを数回振って見せる。6,1,3の目が出た。

「なるほど」

「丁半というのは、2つのダイスを使います。2つのダイスの目の合計が2,4,6,8,10,12の偶数なら丁です」

 1と1、1と3、2と2のように、偶数になる目を見せる。

「ダイスの目が3,5,7,9,11の奇数なら半です」

 1と2、1と4、2と3のように、奇数になる目を見せる。

「そうか…丁か半か当てる、ということか。そして、当てた方が運がいい…そうだな?」

「はい…あっ、この壺も使います」

「?…どう使うんだ?」

「この壺の中にダイスを入れて振って、ダイスの目が見えないように床に置きます」

 そうやって、壺の口側を床向きに置く。

「そして、ここで丁か半かを賭けて、壺をゆっくり上に持ち上げます」

 ゆっくり、壺を持ち上げる。

 今回は、3と4の、半だった。

「お…おお。なんだかわくわくしたぞ」

「それもありますが…先に目が決まってから賭けてもらうことで、後から目が変わったりしないようにするものです」

(…本当にそうなるのか?運をいじくられる感じがしたのに?)

「そうか…ん?このダイスを直接振って、目を比べてもいいのではないか?」

「それもいいですよ。ダイスを3つ使って、目を比べるチンチロというものもありまして…」


 その後、いくつかギャンブルを教えた後、俺はダイスや壺、トランプ等を作り続けた。

 実際に行われたギャンブルは、明らかに変なことになっていた。

 丁半は、賭けた人数が多い方の目になることが多かった。壺を持ち上げるときに、目が変わることがよくあった。だから、賭ける人数を同数にしてやると、今度は片方のグループだけが勝ち続ける。幸運の上下で、絶対に勝てないと感じた人が、やらなくなっていく。

 チンチロは、全員がピンゾロを出し続けて、まともにできないため、誰もやらない。

 ポーカーは、毎回最初に配られた手札で役が揃っていて、全員が勝つ、または幸運な人が勝ち続ける。何度シャッフルしても、風が吹いたりして、カードが勝手に並び変わる。カード交換をしても役は揃わない。幸運の上下で、絶対に勝てないと感じた人が、やらなくなっていく。

 ブラックジャックは、親が常に負け続けて、まともにできないため、誰もやらない。


 他のギャンブルも、大事なランダム性が失われていて、楽しめない。


「なんだこれ」

「まともにできないんだけど?」

「おい、もうちょっとまともなもん作れよ!」

「はい負けー。負け―。負け―。…はぁ」

「ずっと負ける…善行を積まなかったから何なんだ?そんなに善行を積む必要があるのか?」

「ふふふふふ。勝てる!勝てる!!勝てる!!!技で勝てなかったあいつにも勝てる!」

「…ずっと勝ち続けているが、私が善行を積んでいたから何だと言うんだ?」

「俺は、こんなに勝つくらい、善行を積んでるよぉぉぉ!!!」

 勝つ人と負ける人が分かれていて、それが全く変わらない。

 それどころか、まともにできないギャンブルがある。

 ギャンブルとして成り立つことすら、許されないのか。

 まともにギャンブルをやってもらえれば、面白いのに。

 どれだけ強い人でも、負けることがあるから、面白いのに。

 どれだけ弱い人でも、勝つことがあるから、面白いのに。

 俺が知っているギャンブルの面白さは、伝わりそうになかった。


「勝つやつって、生命の営みの時間が長いやつじゃないか?」

「…確かに」

「生命の営みに励むとしよう」

「善行を積もう」

 …そうじゃない。そうじゃないんだ。

 生命の営みをしたから幸運になり、勝てる、なんていうのはおかしいんだ。

 カードが風で勝手に動いたり、ダイスの目が風で勝手に変わるのは、不正なんだ。

 ギャンブルっていうのは、運次第なところはあるが、それだけで全部決まるわけじゃないんだ。

 生まれ持った運は確かにある。

 でも、それに加えて、自分の選択で結果が変わることもある。

 はったりとかもある。相手の分析とか、駆け引きもある。

 ギャンブルは、そういうものでいいはずなんだ。

 ギャンブルの要素を運だけにして、さらにその運は、ギャンブルとは関係ないところで善行を積んでおけば、必ず勝てる?

 八百長じゃないか!!!!!

 ………そんな風に考えているのに、声に、出せない。

 この世界の、善行により幸運になる、というルールが追加されただけだから。

 ただそれだけで、ギャンブルがつまらなくなっているのが、もろすぎて、何を言えばいいのか、わからない。

 本当はギャンブルはもっと面白いと言うのか?

 いや、この世界ではつまらない。負け続けた果てに、勝つことはないから。運以外の要素で、駆け引きもできないから。それが、ギャンブル内では変わらないから。

 どう頑張っても、つまらない。どうすればいいんだ?

 俺は、ギャンブルで勝ちたかった。確かに、善行を積めば、勝てる。でも…八百長がしたいわけじゃなかったんだ。不正をして勝ちたいわけじゃなかったんだ。生まれ持った不運を、幸運と釣り合う程度にできれば良かったんじゃないか?

 今更、そんなことを思っても、変わらない。

 もう、この世界で生きていくしかない。


「つまんない」

 ふと、そんな声がやけにはっきり聞こえた。

 声が聞こえた方を見ると、ローネーが居た。俺の、息子が居た。そして、俺の息子がギャンブルをして、「つまんない」と言ったんだ。

「は」

 ……………………はあ?

 ギャンブルがつまんないと、ローネーに言われた!

 他の人にもギャンブルがつまんないと、言われた!!

 ギャンブルで勝ち続けてる人の中に、ギャンブルが面白いと言っている人は居るけど、八百長を面白いと言われても、イライラするだけだ!!!

 俺も、この世界のギャンブルはつまらない!!!!


「ふざけてる…」

 …ギャンブルがつまんないと、ローネーに言われて気づいたけど、この世界で俺が死んだ後も、つまらないまま受け継がれていくのか。

 そんなことは、許せない。

「ギャンブルは、面白いんだ」

 ギャンブルは、面白いんだよ。善行により幸運になるとか、つまらなくする要素は、変えてやる。

(ダイスに、【ギャンブル鍛冶】で善行による幸運の影響を受けないようにすれば、できるか?…まあ、やってみよう。)

 そうして、石を打って、善行による幸運の影響を受けないダイスを作ろうとした。

 …失敗した。

「………あれ?」

 もう一度試した。

 …失敗した。

「こ、れは…」

 …まさか、善行により幸運になるルールを変えようとすることは、悪行か?

 神様が、邪魔をしているのか?

 神様に邪魔されるなんて、どうすればいいんだ?


「素炉平」

「…ん?なんだ?」

 ローネーに声をかけられた。

 …そして、色々な人に見られていることに気づいた。悪口は悪行だから、悪口を直接言われたりはしない。でも、大勢の人に睨まれていた。…俺が目を向けると、目を逸らされたけど。


「それ、なんだ」

「それ?…!」

 俺の右手に持っている、【理視】のことを聞かれていた。だから、ガチガチ家の男児が全員、先祖から受ける呪いについて説明した。

「…じゃあ、僕も?」

「そうだ。壊れないし、劣化しない良い眼だ。視ようと思えば色々視え…!!」

「?」

【理視】で、運について視ながら石を打った。

 …思った通り、一つの方向から、何かの力を受けているのがわかった。

 方向は、横からだったため、おそらく歩いて行けるところに、神様は居る。

「ありがとう。ローネー」

「?…どういたしまして?」

 ローネーは、よくわかっていないようだった。

「…僕、鍛冶をやる!」

「おう」

「ギャンブルより、面白いの作る!」

「…おう」

 今のままでは、何を言っても言い訳にしかならないのが、つらかった。


 ギャンブルを面白くするためには、もう、神様に直接お願いするしかない。

 …だから、神様に会おうと思った。

 ネーに、「行ってきます」と言ってから、ノビーの外に出た。

 ネーが寂しそうにしていたから、早めに帰って来よう。


 歩いて行けるなら、何の問題もない。

 気になる場所は、ある。

 城があったはずだ。あの城に居るかもしれない。

 石を【理視】で打って、神様が居る場所を確認しながら、歩いた。

 …いや、早く帰るために、走った。

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