第2話 異世界に着いた
前回のあらすじ:結婚したいから異世界行くぜ!
※残酷描写有り、暴力描写有り、性的描写有り
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俺は、寝ていたらしい。
もう、漂っている感じはしないため、おそらく外の世界に着いたと思った。
なんだか、体の上を、何かがあちこち駆け回っているような、こそばゆい感じがした。
体を覆っているものを感じないため、もしかしたら、俺は裸かもしれない。
目を開けたら、何かがたくさん蠢いていた。
足がたくさんあって、黒い甲殻を持つ体で、俺の目に向かってくる、虫だった。
「うおおおお!?」
慌てて起きて、少し虫を踏んでぐちゃりとした。
なにか、まずいことをした気がした。
「すまん」
周りを見渡しても、黄色くて何もわからない。
ギチギチ、ばちゅばちゅ、ぎゃあぎゃあ、等と常にうるさい。
時々、ドッ、という爆発のような音も聞こえる。
「何だ?どんな世界に来たんだ?」
足元は、さわさわさわさわと虫が移動している感触がある。足に何か触る度にぞくぞくする。
「とりあえず移動、ごほんっ!」
むせた。周りにある黄色いのは粉かもしれない。
目に異物感があり、涙が出てくる。
「ん?」
足元のさわさわした感触が無くなった。
ドッッッッ
上に昇る感じがして、下に叩きつけられた。
「なんっ!?だぁっ!?」
上に昇り続け、周りから黄色い粉は無くなった。
驚いて、心臓がバクバクする。
「はぁ…はぁ…」
体を起こすと、周囲の状況が確認できた。
まず、俺の足元は緑で、ちょこちょこ葉っぱらしきものが一瞬見えて、下に遠ざかっていくので、恐らく植物だろう。
横を見ると、あちこちに、緑色の植物がそびえ立っているのが見える。
そして、植物の端から下の方を見ると、黄色い粉だらけで、地面は見えない。
…いや、雷や竜巻があちこちで起きているのが見える。竜巻に黄色い粉が吹き飛ばされて、黒いものが見える。…恐らく虫だ。
(…こんなに遠くが見えたかな?)
そう思って、遠くを見ると、キラキラしたものが見えた。
「…氷、か?…形は城かな」
やはり、かなり遠くまではっきり見えた。以前は、遠くがぼんやりしていたのに。
「…うーん。どうしようか」
まだ、植物は上に昇っている。
寒いと感じるが、体はまだまだ大丈夫そうだ。何の不調もない。
(…おかしい。)
俺の体はそんなに強くないはずだ。
体の強化、治療や、寿命の延長等は頼まずに、ギャンブルに願力を使っていたのだから。
…願力財布が使えなくても、それらの【能力】なら使えるだろうか。
そう考えていると、雲に突っ込んで
バリバリッ!!
「あばばばば!?!?」
しびれた。
いや、感電した。
意識は、はっきりしたまま、ザクザクする痛みを、何時間も感じた気がした。
気づけば、雲を突き抜けていて、もう痛くないような、まだ痛いような感じで、心臓がバクバクうるさかった。
そして、植物から、俺の体が離れる感じがした。
「…ぁ…」
俺の体は、空を飛んだ。
体がしびれて、何もできなかった。
…どうやら、植物は昇るのを止めたらしい。
そんなことをしたら、俺が放り出されるだろ?
「ナンテコトシテクレルンダー(棒」
ちょっと時間が経ったら、体が動くようになった。
なんとなく、死なない気がした。
…でも、俺の勘って7割くらいしか当たらないからな…。
…やっぱり恐くなった。
「…なんてことしてくれるんだあぁぁあぁぁ!?!?……」
体をじたばたさせるが、ぎゅるぎゅる高速回転して気持ち悪くなった。
その状態で、他の植物に、腹からぶつかった。
「ぐえっ」
巨人に、上半身と下半身を引っ張られて、ちぎろうとされるような感じで、必死で腕と足に力を入れて、踏ん張った。
体はちぎれたりしなかったが、植物の表面はつるつるしていて、また雲に落ちて、感電した。
「がああああ!?!?」
痛い。痛いっ。痛いっ!痛いっ!!
また、痛かった。
今度は、よく分からない間に終わっていたらしい。
「おええええ」
吐いた。
胃液だけ吐いて、体がしびれて、ぐてっとしたまま、落ちる。
「おええええ」
なんもできない。
吐いて、ちょっとすっきりするけど、頭がぐるぐるする。
吐きたくなる臭いがして、また吐くのが、とてつもなく嫌だ。
そして、俺がぐてっとしているところに、何かが横からぶつかってきた。
「ぐえっ」
わざわざ、腹にぶつかってきた。
「おええええ」
腹に何も無いのに、さらに吐いた。
まだまだ、腹にぶつかってくる。
「おぶうっ!?げえっ!?」
腹にぶつかってくる何かは、終わる気配が無い。
いい加減、ひどい状態に慣れてきたので、吐きながら状況を確認する。
「おえ」
キラキラして細かいひし形の鱗と、尖った口先、ギョロリとした目を持つ、魚が腹にぶつかってきていたようだ。
「おえ」
下の方に小さな竜巻が頻繁に起こり、そこから飛んできているので偶然…ではない、明らかにこちらに向かってくる。
「おえ」
何もしないと腹にぶつかってくるので、手を伸ばして、魚を掴もうとして、べしっ、と叩き落とすような感じになった。
「おえ」
どぼん!!という音が聞こえたので、魚は水に落ちたらしい…黄色い粉で見えないが。
「おえ」
その後も、向かってくる魚を叩いて落としたり、掴んで落としたりしていたら、竜巻が起きなくなり、魚も向かってこなくなった。
「おえ」
そして、俺は水に落ちた。
どぼん!!ごっ!!
幸い、水たまり…いや、川の深さは浅かった。
もう、具合悪い状態で体を動かすのに慣れていたので、頭がぐるぐるで体はバキバキでも、すぐに起きてこけて、吐きながら川岸に倒れた。
「おえ」
そして、落ち着くまでしばらく休んだ。
「…」
川のぴちゃちゃ、みたいな水の音を聞きながら、寝転んでぼーっとしていた。
(…いつもこんなもんだったか)
勘は良いのに、運が悪かった。
ギャンブルするとき、負ける、という確信を持ちながらやっていた。
それでも、勝つと、嬉しくて、やめられなかった。
自分の不運に、勝った気がして。
「…」
願力で、自分の運を変える気にはなれなかった。
変えたら、自分の不運に負ける気がして。
「…」
それなのに、ギャンブルで勝てる、なんて異世界を選んで、どうしたかったのだろう。
そんな異世界で、ギャンブルは楽しめるのだろうか。
…もう、自分の不運に負けを認めたような気がした。
「…」
(…結婚したい)
結婚のために、異世界を選んだから。
結婚相手を探すために、体を起こした。
そして、口と体が臭かったので、水で流した。
…何故か白髪赤目になっていて、顔のシワが無くなり、20歳頃の見た目まで若返っている気がしたが、考えてもわからないので放置した。
川沿いに人が居るかな、と考えて歩くと、つるつるして、落ち着く匂いがするものに触れた。
色は緑で…俺を吹き飛ばした植物と同じように見えるので、ちょっと後ずさりしてしまった。
…特に何もなさそうなので、植物を手で押してみると、さらりと飲み込まれる。
「よし」
もう、大抵のことでは死なないとわかったため、そのまま植物の中に進むと、ふっと通り抜けた。
「ん!?」
そうしたら、頭から足元まで、一枚の布のようなもので覆われていた。頭の辺りが邪魔なので引っ張ると、すんなり破れた。
体を確認すると、布の色は緑で…植物の皮に、首から上を通すための穴を開けただけ、みたいなものを着ていた。
植物の内部には、黄色い粉は無く、空間があった。上を見ると、皮が厚くないところから光が入っているらしく、明るかった。
「おっ!?何だ?お前、外から来たな?」
俺の着ているものと同じようなものを着た、筋肉質で短髪の人に声をかけられた。
(人だ)
人に会っただけなのに、感動した。
「はい。外は黄色くて何もわからないので、ちょっと入らせていただきました」
「すごいな。外は死ぬから出ちゃ駄目なのだが。生きてるなら、勉強はしたか?見た感じ、生まれて1日は過ぎてそうだが」
(…うん。あんなことがずっとなら死ぬよな)
「勉強って何のことです?」
「あー、言葉と、神話と、生命の営みだが、どこまでだ?」
「ごめんなさい。全部無いです」
「そうか。…そうか?どうやって話してる?…まあ、いいか。まず勉強だな」
「あーあー!あーあー!」
と言いながら、とたたたっ、と子供が走っていった。
そして、途中で他の人が、走っている子供を抱えて部屋に入るのを見た。
「あーあー!あーあー!」
俺の隣の人も、あーあー言った。
「おっ?お前、今のもわからんのか?今のは生命が誕生したことの祝いの歌だ」
「そうなのか?…あーあー!あーあー!」
「おう!そうだ!あーあー!あーあー!」
あーあー言いながら、肩を組んで勉強部屋、というところに入った。
先程の子供が入った部屋だった。
膝位の背の高さの子供が居て、なんだか辛そうな人が話をしていた。
そこで、言葉、神話、生命の営みについて話を聞いた。
驚いたのは、この世界の人が7日しか生きられないことだった。話をしてくれていた人が目の前で死んで、身につけた植物の皮に包まれて、内部に空間がある植物…ノビーに飲み込まれた。
俺を雲の上まで吹き飛ばしたこの植物は、ノビーという名前だった。俺達人間を、内部に住ませて、繁殖させて、死体を食べるらしい。
そのあとは、他の人が話を引き継いだ。
どうやら、死が近い人が子供に話をするらしい。
死んだ人に対しては、「くー!くー!」という別れの歌を歌った。
言葉については、何故かすぐ覚えた。
…こんなに物覚えはよくなかったはずだが、他の人もすぐ覚えているらしく、異世界に来るとき、俺もこの世界の人になっているということかもしれない。7日で死ぬと考えておいた方がいいだろう。
…やけにエロ関係の言葉が多かったが、生命の営みで相手を悦ばせるために使うらしい。
神話は、3柱の神がいて、悪神と運神が結婚してたけど、悪神が運神に嫌がることをして離婚後、善神と運神が結婚して幸せに暮らした、というものだった。
だから、結婚相手が悦ぶ善行をすると幸運になり、結婚相手が嫌がる悪行をすると不運になる、という話だった。
…善行をすると、食べ物が手に入るらしい。悪行をすると、死ぬらしい。
この話を聞いて、虫を踏んだからひどい目にあったのか、と思った。
…でも、死んでないから、ちょっとわからなかった。
そして、生命の営みの話を聞いた。
生まれて、食べ物を食べて生き、結婚して、生命の営みをして、子供を作って、死ぬ、という話だった。
その話の時に、生命部屋に移動して、上から落ちてくる食べ物を食べた。食べたのは、焼き魚や、焼き鳥、焼き獣、果物、野菜等で、甘味が強く、塩味、油の旨みとかもあった。
水は、ノビー内部のあちこちで飲めた。
そのあと、結婚した。
俺は、股間から男性だと確認されて、女性と結婚した。
結婚は、相手と一緒に「結婚する」と宣言するだけでよかった。
結婚相手の名前は、ネーだった。
この世界の人は1日で大人になるため、生まれてから1日経つまで生命の営みはできないが、ネーは生まれてから2日目のため、本日生命の営みができる。
(…結婚できた!)
この世界に来てからひどい目にあったけど、結婚できた喜びを噛み締めた。
生まれてから1日経っていない子供は、次の日に結婚するらしく、出産とかの手伝いをするそうだ。
また、結婚相手がいなくて余った場合は、結婚済みの男性、または女性が、結婚と離婚を繰り返し、生命の営みをするそうだ。
俺が結婚したあとは、生命の営みの見学をした。
注意として、最初は女性が痛い場合があるので、男性は女性に確認するまで動かないように言われた。女性も男性を動けないようにする話があった。…女性が痛がるのに動いた男性は、色々なものが頭にぶつかってきて、ひどいと死ぬ場合があるらしい。気をつけよう。
生命の営みの内容としては…まあ、食べて飲んで、生命の営みをして、食べて飲んで、生命の営みをする、というものだった。
愛を囁いていたり、腕や頭が複数に見える動きをしていたり、速すぎて溶けて融合してたり、ダンスを踊っているように見えたり、指先一つで女性が生命の熱狂を吹き出していたり、指先一つで男性が生命の情熱を発射していたりした。
ただ体を動かすのではなく、相手にどう感じたかを聞きながら、相手を悦ばせる技を磨くように話があり、皆でほうほうと、興味深く聞いた。
女性のお腹の中に子供ができると、女性がすごくお腹が空くため、男性が食べ物をどんどん女性に渡し、女性は渡された食べ物をとにかく食べ続ける、ということをしていた。
子供が生まれるときは、女性のお腹が膨れて弾け飛び、お腹から子供が走って出てきた。
「あー!あー!」
女性は目をぎゅっとつむり、痛みを堪えていたが、そのあとお腹の弾けた部分は治った。
…壮絶だった。他の人達も、生命の営みを見てるときは口を開けて息を荒くしてたけど、出産を見てるときは口を閉じて静かに見てた。
俺も、静かに見てた。出産は、何かすごくて、叫びたくなって、皆で「あー!あー!」と祝いの歌を歌った。
聞くべき話は終わった。
そして…ネーと、初めての生命の営みをすることになった。
「よろしくお願いします」
ネーは、細い目を緩めて微笑んでくれた。
「は…は、は、はい!よろしくお願いします!」
心臓が、痛い。
そもそも、女性の肌に触れたこともない。
理想郷の教育は個人の意思が尊重され、絵本、映画、ドラマ、漫画、アニメ、小説とかで好きなように知るだけだったから。
自由に話したいンダーは、一方通行で、いくらでも逃げられたから。
「はっ…はっ…」
人と心をやり取りするのが、人と深く関わることが、空を飛ばされたときよりも、恐ろしい。
心臓がばくばくし、何も考えられない。感電したときよりも、何もできない。
そこで、両頬に手を当てられた。
「大丈夫です」
ネーの手は、あったかい。あったかいんだ。
「…ああ」
少しずつ、落ち着いた。
まだドキドキするけど、いつの間にか目に力が入って、閉じていた目を、開けた。
柔らかくて、あったかいネーの手を、傷つけないように緩く握りながら、透き通ったネーの赤い目と、目を合わせた。
「…っ!」
(…きれいな目だ)
ネーの目を見て、またドキドキが強くなった。
でも、ネーが俺の手を握ってくれて、頬をさすってくれる。俺のことを想ってくれるのが、わかったから、目は離さない。
「…」
「…」
ただ目を合わせて、ゆっくり落ち着くまで待とうとするけど、全然落ち着かない。
「…」
「…っ」
だんだんと、ネーの頬が赤くなってるのが、わかる。俺の頬も、熱くなってるのが、わかる。
薄赤くて、ぷるぷるして、柔らかそうな唇に、目が吸い寄せられた。
(キスが、したい)
「キス、しよう」
「…はい!」
ネーが、嬉しそうに笑って答えてくれて、受け入れてくれて、俺は嬉しくて、自然と涙が溢れる。
「あっ、泣いて、私とは嫌、ですかっ?」
「いや、違う。嬉しいんだ」
「!…私も、嬉しい!」
お袋は、俺が小さい頃に出ていって、よく知らない。親父は鍛冶一筋で、俺のことなんて眼中に無くて、俺が【ギャンブル鍛冶】の能力を習得したあと勘当されたから、よくわからなかった。
他の人に受け入れられることが…こんなに嬉しいことなんて、映画とかで見ていたのに、見ると体験することはこんなに違うと、知らなかったんだ。
(受け入れてくれる相手と、キスができるのって、嬉しいなあ。)
ネーの顔に、俺の顔を、ゆっくり近づけていく。
「…はっ…はっ」
「…はぁ…はぁ」
自然と、お互いの息が荒くなって、ネーの熱い息が、俺の肌に触れて、ドキドキする。
俺がゆっくり近づくのがもどかしいのか、ネーはくねくねしている。
それがなんだかおかしくて、目元から力が抜けた感じがした。
「あっ」
ネーが、何かに驚いたような顔をしていたけど、構わずキスをした。唇と唇を触れ合わせるような、優しいキスをした。
「んっ」
ネーの顔がくにゃっとして、かわいくて、すごく愛おしく感じる。愛おしさが溢れて、止まらなくて、口から出てきた。
「好きだ」
「好きです」
「俺の方が好きだ」
「私の方が好きです」
「…はっ、はははっ!!」
「…あははっ!」
俺とネーは、愛を競うようなことを言い合って、おかしくなって、大声で笑い合った。
…もう、ネーと深く関わるのは、恐くなかった。
「…ネー」
「なに、すろへー」
「俺は、もう大丈夫だ」
「うん」
「だから、繋がろう」
「…うん!」
ネーの白くて、光に当たるとキラキラする髪の毛を、さらさらと撫でながら、またキスをした。
何度もキスをして、だんだんと、世界に俺とネーしかいないような感じになっていく。
いや、もうネーしか見えなくなっていた。
「ネー」
「すろへー」
ネーと見つめ合って、ネーの目がとろんとしてるのを見ながら、ネーの小さな鼻と俺のはっきりした鼻をくっつけて、頬と頬をこすったりする。
「えへ」
「ふふ」
くすぐったくて、調子が外れた変な声が出た気がした。
それから、ネーの全身のすべすべの肌をさすって、「焦らさないで」と言われた。…足の指と耳が特に反応が良かったな。
ネーの全身をなめて…特に足の指と耳を重点的になめたら、生命の熱狂がすごかった。ネーがくねくねしながら「もうっ」と言って、俺を指でつついた。…胸がぽよぽよするのが、見ていて楽しい。
ネーの体に生命の川ができていたから、準備できたと思って、ネーと繋がり、生命の営みをした。うまくできなくても、ネーと手を繋いで、にぎにぎしてたから、恐くなかった。
ぎゅっぎゅ~
どくんどくん
ネーと繋がって、ぎゅっとして、熱狂と情熱の渦に飲み込まれた。
想いをぶつけ合って、お互いの熱で、相手を熱して、熱して、生命の営みをたくさん…たっくさんした。
俺、ガチガチ素炉平は、異世界に着いて、ネーと結婚し、童貞を卒業しました。
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