付録:かつて15歳だった爺から、今15歳のあなた方への読書案内
15歳から、何を読んでいったらいいだろう?
僕が15歳の時は、ライトノベル漬けだった。一般文芸なんて読む気がしなくて、手に取ることもなかったです。
時代としてはライトノベルが認められる前で、どこで読むにしても書皮をつけて読んでいました。
ということで、15歳からの読書案内として、いくつかの作品をやさしいだろう順番で並べてみる気になったので、ここに付録として、年寄りの冷や水として、書き連ねておきます。
これは簡単な僕の来歴にもなるかもしれないですが。
○ウォーミングアップとして
「ソードアート・オンライン」川原礫(電撃文庫)
これは非常に良いライトノベル。第1巻はその一冊で一区切りになるので、何冊も読まなくて良い。それとアニメ化されているので、アニメを見てから小説を読んでも良いし、小説を読むのが難しくなったらアニメで確認しても良い。
○少し長い話を映像の助けを借りて呼んでみる。
「魔法少女まどか☆マギカ」虚淵玄(星海社文庫)
これは薄めの文庫二冊で、お手頃な長さです。こちらもやはり原作でわからないことがあれば、アニメを見ることで補完できます。というか、アニメを見たことがある人の方が多いかもしれないので、小説を読むことの方が確認かも。
ちなみに星海社文庫は栞紐が独特で、それだけでも僕はテンションが上がります。
「Fate/zero」虚淵玄(星海社文庫)
こちらも同じ作者、同じレーベル、そしてアニメ化もされていて、長さは少し長めの文庫で6冊です。
僕は「Fate/stay night」の知識がほとんどないまま、この外伝を読みましたね。
○少しだけ難しい文章に挑戦する。
「空の境界」奈須きのこ(講談社文庫)
文章が難しいというよりは、クセが強い。しかしこれがハマるとズブズブと沈んで、心地よくなります。
こちらはもアニメ化されてますが、原作の味や、独特の文章から作品世界を作り上げるのがオススメなので、アニメより先に原作を読みたいところ。
「Missing」甲田学人(電撃文庫)
これはかなり古い作品ですが、良作です。電撃文庫とはいえ、かなり本格的な文章。ホラー作品なのですが、じわじわと恐怖が迫ってきます。
どうやら最近、新装版が出ているらしい?
○ライトノベルと一般文芸の境界線に立ってみる
「氷菓」米澤穂信(角川文庫)
これは良いミステリ。学園ミステリで、静かな世界観です。人も死なない。そして青春。こちらもアニメではなく、原作から読者自身が作品世界を構築するのがおすすめ。
「折れた竜骨」米澤穂信(創元推理文庫)
こちらは特殊な世界観でのミステリ。はっきり言って名品です。ミステリの底力、というか。
「砂糖菓子の弾丸はうち抜けない」桜庭一樹(角川文庫)
今の10代の人にはよく分からないかもしれませんが、この作品は半ば伝説です。ミステリですが、それよりも心情描写、心理描写が卓抜。
最初はライトノベルのレーベルで、表紙のイラストも可愛いのですが、内容は全く別です。名作です。
この本は一部で話題になりましたが、その後、桜庭一樹さんは「私の男」で直木賞を取ることになります。ライトノベル出身者が直木賞を取るなんて、信じられない! 凄い! と思った記憶があります。
「スカイ・クロラ」森博嗣(中公文庫)
この小説は非常に観念的で、六冊のシリーズですが、第1巻の「スカイ・クロラ」だけでも飲み込まれるものがある。
ちなみに第2巻の「ナ・バ・テア」の切れ味は凄まじい。全く無駄がなく、鮮やかです。
「機龍警察」月村了衛(ハヤカワ文庫)
至近未来のSF警察小説。メインキャラクターはみんな個性的で、パワードスーツの設定や描写も本格的。
仲間内の人物の関係だけではなく、警察内部の対立や縄張り争い、さらには国際的な世界観もあって、先に進むたびに加速度的に、とにかく複雑になる。
○ライトノベルに非常に近い小説たちを読む
「すべてがFになる」森博嗣(講談社文庫)
このミステリは知識があれば楽しめる部分がありながら、何も分からなくても読める。とにかく終盤の二転三転は凄いです。
この作品を読むと「天才」とはどんな存在か、ちょっと混乱します。
「十角館の殺人」綾辻行人(講談社文庫)
このミステリはほとんど金字塔で、叙述トリックの最高峰です。とにかく読むしかない!
「探偵ガリレオ」東野圭吾(文春文庫)
良い具合のミステリ。最初は短編なのでサクサク読めます。物理学者の湯川の発想がとにかくユニーク。
「虐殺器官」伊藤計劃(ハヤカワ文庫)
ゼロ年代を代表するSF小説の金字塔。
あまり考えたくないですが、今の15歳の方々は9.11のことをリアルタイムで知らない、それ以前の世界を知らないと思うと、この小説の何が凄いかは、うまく伝えられません。
この小説は「テロとの戦争」がいきなり出現したことで生まれたのですが、今の15歳は、「テロとの戦争」は当たり前でしょうか。
○一般文芸にシフトしていこう
「1973年のピンボール」村上春樹(講談社文庫)
これは村上春樹さんの初期の四部作の二作目。短いので読みやすいですし、独特の世界観です。僕の中での村上春樹さんの作品で一番好きな一冊。
四部作の二作目でありながら、あまり全体的な進捗はありません。ただ、「風の歌を聴け」から読むのがやはり王道かも。
この一冊は村上春樹世界にしては濡場が少ないのが安心安全。
「額田女王」井上靖(新潮文庫)
この作品は男女の機微が面白い。和歌について先に調べておくと面白いかと。
額田女王と中大兄、大海人の三人の人間関係、恐ろしい。
「チェーザレ・ボルジア 〜あるいは優雅なる冷酷〜」塩野七生(新潮文庫)
この作品はまさに「人生を駆け抜ける」というストーリー展開。野望は成就するのか、ハラハラする。
「戦闘妖精雪風」神林長平(ハヤカワ文庫)
日本のSF小説の最高峰の一つ。第1巻は刊行から20年以上が過ぎても全く古びません。SFオタクはこの小説が完結するまで死ねません。
○長い話に挑戦する
「剣客商売」池波正太郎(新潮文庫)
お爺ちゃん剣士がめちゃくちゃ躍動するユニークな時代小説。作中で着実に時間が流れるのもいい。
「銀河英雄伝説」田中芳樹(創元SF文庫)
これはおそらく日本のSF史に刻まれた名品。キャラクター小説であり、思想の啓蒙書で、とにかく全てが詰まってます。
登場人物の名前が初見では分からないのは当たり前なので、とりあえず最後まで読んで、もう一回、頭から読んでください。お願いします。
○とんでもなく長い本を読む
「ローマ人の物語」塩野七生(新潮文庫)
これは走り始めると止まらなくなるシリーズです。第1巻、第2巻でのんびりした内容かな、と思うとその次がもうハンニバルとスキピオのエピソードの始まりで、そこから少し行くとユリウス・カエサルになり、もはや手を止める理由はありません。
「水滸伝」「楊令伝」「岳飛伝」北方謙三(集英社文庫)
この三作品を通して読むのは、最高の娯楽です。死ぬまでに読むべし。とりあえず「水滸伝」を読んで漢たちの生き様を見てみるべし。
全巻揃えるための支出を考えてはいけません。ゲーム機を一台買ったと思えば買えるぞ!
○海外小説に手を伸ばしてみる。
「鷲は舞い降りた」ジャック・ヒギンズ(ハヤカワ文庫)
第二次大戦末期を舞台にした、非常にハードな世界観の名作。
中盤から緊迫した展開で、どこにどう落ち着くのか、何も見えない。
終盤の劇的な転換点は胸を打つ。
「ニューロマンサー」ウィリアム・ギブスン(ハヤカワ文庫)
古典といっても良い、サイバーパンクの逸品。全部読んでから巻末の解説を読んでタイトルのダブルミーニングについて知ったとき、愕然とした。
「百年の孤独」ガルシア・マルケス(新潮社)
疑いようのない20世紀の最高傑作。
何もないところに作られたマコンド村と、そこで生きる一族の話で、何が何だか分からないほど、縦横無尽にマジックリアリズムが繰り出される感じです。
最後の最後は、思わず脱力する結びです。
「楽園への道」バルガス・リョサ(河出文庫)
ゴーギャンとその祖母をダブル主人公として、それぞれの時代を交互に描いた作品。副読本としてサマセット・モームの「月と六ペンス」も読もう。
○エッセイで一休みしよう
「須賀敦子全集」須賀敦子(河出文庫)
この人のエッセイはじわじわと染み入ってきます。全集の第1巻の「ミラノ 霧の風景」、「コルシア書店の仲間たち」がすごく良い。
須賀敦子さんが過去を振り返って書いているからか、どことなく「失われたもの」という気配が漂う。
「桜庭一樹読書日記」桜庭一樹(東京創元社)
僕の中でのある種のバイブル。僕はこのエッセイから読書の手を伸ばしていきました。
とにかくジャンルレス、ボーダレスにありとあらゆる本が紹介されるので、大変。全部が面白そうに見える。
ちなみに第1巻の一番初めに紹介される本は、伊坂幸太郎さんの「砂漠」です。これも面白い小説。
◆◆◆
といったあたりが、すぐ思いつくおすすめ小説です。
15歳の方々に向けて、爺が語ってみましたが、どこかで何か、気づいてもらえると良いなぁ、という気持ちです。
それではみなさん、良い読書を。
あまり強いことを言わないで…… 和泉茉樹 @idumimaki
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