6ページ目 きれるもの
6-1
犯人なんじゃないか、自殺志願者だったんじゃないかっていう僕への疑いが全てなくなり、骨となってしまった人たちは色々調べて、無事に家族の元へ帰ったそうだ。
あのタクシー運転手のところにも、娘さんが帰っていったのだろう。
今後の生活に平和が訪れることを祈るばかりである。
そして、僕の生活への平和もやってきてほしい。毎日祈っているけど、結局訪れてはいないのだ。
「先生」
「なんだ」
恒例の朝食タイム。
僕はありきたりなトーストとコンソメスープだけど、先生は甘いホットケーキ。さらにメープルシロップを好きなだけかけているから、血糖値が心配になる。
二人がそれぞれ食べながら、やっと疑問に思っていたことを聞いてみる。
こういうとき……ご飯のときでないと、先生は部屋にこもりっきりだから聞きたいことも聞けない。
ましてや偏食の先生だ。一日三食しっかりとっているかと言えば、そうでもない。朝と夜は必ず一緒に食べているけど、お昼は食べたり食べなかったりする。
要は先生と顔を合わせてちゃんと話を聞ける時間が少ないってことだ。同じ家で暮らしているというのに。
「先生。僕って何ですか?」
「……ついに頭がいかれたのか。動物病院はここの近くにねえぞ」
ポカンとした顔で、口にホットケーキを運ぶ手を止めた先生。メープルシロップがぽたっとお皿に落ちていく。
先生は僕を犬扱いする言い方をする。それも慣れたものだけども。
「これでも真面目に聞いているんです。だって、この前の
あの妖怪たちが僕に向けて放った言葉は、今でも気にかかっている。
どういう意味なのか。
なんで僕のことを、そう呼ぶのか。
考えても答えの出ないことだけど、先生なら知っているかもしれない。そう思ったのだ。
「あっそ」
真剣な僕の問いに、先生は変わらないつまらなさそうな反応を返す。
「先生、ちゃんと僕のこの目のことを調べてくれていますよね?」
「やぁーてるってーの! 俺を馬鹿にすんじゃねぇよ!」
「……だったらいいですけど」
イマイチ信用しにくいから聞いているというのに、先生に苛立った声を返された。
怒りたいのは僕の方なんだけど。
質問にも答えてくれないしさ。
「ごち」
先生はシロップたっぷりかけた甘いホットケーキをぺろっと食べきると、そそくさと二階へと戻っていく。
足音が遠くなり、聞こえなくなったところで、僕は「はぁ」と深くため息をついた。
「先生の馬鹿。結局何もわからないじゃないか……」
先生と出会ってから早半年以上経過している。それでもまだ、僕自身のことについて一切合切教えてくれない。
妖怪が見えていいことはない。僕にしか見えない理由を知りたいのに。
両手で顔を覆って、湧いてくる不安をどうにか抑え込むしかない。
大丈夫。きっと先生はちゃんと調べてくれている。そう思っておこう。今だけは……。
「ああ、洗濯物を干さないと……」
時間は僕を待ってはくれない。今日は天気がいいし、早く洗濯物を干しておこう。
僕は半分ほど残っていたパンを食べて、すっかりぬるくなったスープを飲み切ってから、残っている家事をこなした。
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