離別

「―――時間がないんだ。失礼するよ。」


AIは無慈悲だった。

誰も彼も、仰天した目を閉じることができない。なぜなら、気性荒くもつかみかかろうとする一人だけでなく、連中を傍らにあった剣で薙ぎ払い、得体のしれない術式を放ったからだ。もっとも剣の方は足元を転ばすだけの一撃ではあったが。


「な、ふざけ」


少年が叫びかけるが遅い。足元に浮いているいくつものキューブは彼らを取り囲むように妖しい光を放ち、結界のように結びついていく。

蒼い目が一層無機質になる。


「それは、「不発弾」と同じくらいの効力があるから。近づかないでね。」


どよめきが起きるが、微笑し、さっそく外へでようとする。


「ま、待てよ、そこのアンドロイド!何が証拠だっていうんだ!このままで済むと」


「そうだ、証拠を出せ!」


「早く行かないと、連中の計画通りになる。」



「聞いてんのかテメェ!!」


先ほどの少年とは思えぬ一言が彼の背中を制止させる。眉間に皺をよせ、目が血走っている。腹の底からどす黒い声を震わせた彼はもはや同じ人格の持ち主とは思えない。

含めて周りの関心を寄せていた。何人かがギルドに報告しに行ったようだ。遠くで慌ただしく動く従業員の姿が見える。

―ああ、なんてことを。

早くも後悔しかけている。自分が言うのもなんだけど、これじゃあ自ら「このチームは異常です」と言っているようなもんじゃないか。いきなり見ず知らずの人を捕らえるだなんて。まずい。これは、AIだけに厄介だ。


「証拠・・・、ああ。」


「「!」」


「あとで持ってくるよ。前菜としてこのデータを置いていく。先日徴収したものだ。」


「待って。こいつはAIよ。嘘をついてる可能性だってある。」


「あの、皆様。一旦IDカードの確認をさせていただきます。」


駆けつけてきたスタッフ2人の説得に


「なら、君達が持っているそのカード。それは偽造だろ?」


今度こそギルドは沈黙した。



____________しかし、そううまく事は運ばない。


「まぁ、間合いが悪いよな。お前さんは。」


少女を自宅まで送り届けた。部屋で改めて荷物を整え直し、夕刻に迫ろうとしていたときだった。カラス、エサは現地で収集するんだぞ。回復薬とかに紛れてこっそり「〇ュール」を投入しようとするんじゃない。まぁ少しは大目にみてやるが。


「少し急ぎすぎたかも。」


ユーリはユーリで例の剣以外に持つものがないのか、ベッドに座り込み頭を搔きながら言うが、微塵も感情がのってないことくらいは分かる。ちっとも反省していないのだ、このアンドロイドは。


集会所からさほど遠くない宿屋。日帰り仕様の部屋で飛び込みだったせいか、窓の端際に追いやられた小さな部屋だが腰を下ろすには十分だ。壁に広告(観光用)のパネルはいらんな。チャンネルは変えられるがそんな余裕はない。聞いたところによると、今から「人(?)助け」にいくのだから。


「ていうか、そんなに「重要案件」なのか?んなマズいもんと関わるなんて御免だからな、特に人間じゃ。あと「チーム」として!」


一歩間違えればリョナ〇ロ以上のナニモノでもない現実より、魔物とか、ファンタジーに近かったもののほうがまだやさしい。そんな夢を見ていたかったのかもしれない。


「いいや、これは前から起きていたことのつながりだよ。今回はそれが一部露見しただけだ。しかも相手はバラバラになっている。今しかないんだ。」


「どうしてそこまで助けたいんだ。」


が改悪されたらどうする?生物兵器になって私利私欲に使われたら?ってそれだけだよ。」


どこまでもAIに近い何か。


「人情がねぇのはともかくとしてその相手っつうのがよ、どんなやつなんだ。」


しばらくの沈黙に振り返れば珍しく苦笑している。


「ないわけじゃないんだけどね。相手は見てみないと分からない。おおよそ人間だろうとは思う。」


「はぁ、」


そして宿屋を出た矢先のことだった。詳細にいえば、路地裏のそばで。



「やってくれたね。僕の弟たちに。」



なめらかな声が響いて思わず身が退く。振り返れば長身の全身青いフードに身を包んだ、男性。だが性別不詳の声。


「自分たちのことを「情報」呼ばわりする。いや、キレーな目して怖い怖い・・人間からするとマトモじゃないねぇ。」


「・・・ここは異世界じゃないんだ。お互い人間に被害が出るのは避けたいだろう。」


「へえ、これでもまだ言える?」


あくまでも冷静に徹しようとした。マントから出た両腕に「彼女が」眠っているのを見るまでは。


「「「!」」」


「全く、”マスク”をつくるのも労力が要って大変なんだよねぇ。で、どうするの、AI。君は今、「目の前にいる人の命」を救うのか、それとも」


意地の悪い笑みがねばりつく、邪悪と称するべき密度が辺りに重くのしかかる。人質だ、認知するとともにカラスの動きは人を超越していた、かのように見えた。


「猫よ、邪魔だ。」


「!?」


はじき返されたときに見えたのは「サイボーグ」の、腕?


「まさか・・・!!」


「観念する?」


言い放ち、受け身をとったカラスに蹴りを放つ。今度は際どい。間違いない。金属製の足、

次の襲撃は・・・狂気にも似た笑みとともに捕らえられた、


「・・・っ!?」


ドン!


「!」


「・・・、え?」


一瞬何が起きたのか分からなかった。見えたのは、「俺の代わりに攻撃を受けた」カラスが反動で例のゲートに吸い込まれて―――



なんで



大声で何を叫んだのかも覚えていない。男は嗤い続けていた。


「おっと、追跡が来る。」




「・・・・・その女の子は置いて行ってもらう。」


「!なにをッ――」


「電波を干渉させている。その神経はもはや



もう彼らが、何を言っているのか聞こえなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る