災難と無理解

「お願い!助けて!!おねが、」


周囲も異常に気付いたらしい、騒然とし始めたのをきっかけに、急に少女の目から涙が溢れてくる。


「「あの子」がさらわ、れちゃって・・・!変な、黒い服を着た人がっ!」


しゃくりあげて拭う手は傷だらけだ、足も裸足。急いで出てきたのだろう。おそらくそう遠くはない場所で事態は起きたのだ。


「分かった。」


だが一人で行こうとする彼を当然見逃せない。


「おい、一人でいくつもりかよ?」


「なんだなんだ。厄介ごとか?」


「彼女とは知り合いでさっきも「助けた」ばかりだ。だいたいの予想はついてる。君たちはここにいて。」


「助けた」? 静かに席を立ちあがり、荷物も持たない彼を引き留めたのはやはり俺だけではない。


「手伝うよ。こんなときに人攫いだなんて!」


ドンと剣の柄を地面に置いて立ち上がる女性や、


「おう、一応警察に連絡しといたからな。」


「か、回復なら僕が。」


学生服の少年が杖を以ておずおずと進み出てくる。


「居場所は?うちの魔物(こ)、嗅覚が鋭いしそのあたりなら使えるかも!」


「相手はどんなやつなんだ?」


「兄ちゃん、説明してくれよ。なあ?」



状況を整理するためにも当事者の意見は必要だ。


「アンドロイドの少女が誘拐されたんだ。助けに行ってくる。」


しかし、それ(対象)が「人間」であれば、の話だった。




「「「アンドロイド???」」」




沈黙が流れた。


「寝覚めが悪いから俺は行くぞ。」


カラスがぼきぼきと腕を鳴らしながら爪を出した以外は何も起きない、空気が重い、というか深としている。



「あ、あたし・・・やっぱあれだね!こういうときはきちんと行政の管理力に任せた方がいいんじゃない?かなー、と。」


「ぼ、僕は・・・・」


「悪いことは言わん、やめときな。得体が知れねぇ・・いや、兄ちゃんはよく知ってるんだろうがな。あんたらを悪くいうつもりはないんだが、その、だな。」


「てか万が一人災になったりしたら・・・。」


「いったんギルドの方に報告しよう?話はそれから―――」


冷たい一言で遮断されるまでは。


「もう遅いかもしれないけど、ギルドに内通者がいる。」



「「「内通者・・・!?」」」



「どうやって分かったんだ?!」




「ターゲットのことはよく知っている。君達の命が優先だ。僕と、そうだな、そこの猫ちゃんだけでいい。」


なぜ、とは言わない。ロボットは所詮ロボットで、


「・・・・はぁ、」


「き、気をつけてくれよ。相手が相手だからな。」


「あたし、ごめん。」


人間以下にすぎないただの愛玩具。でも、


「お、俺は・・・」



「君は駄目だ。」


あっさり引き離されたのが案外にショックで。


「ゲートの力を借りれば!」


「惨事を大きくしかねない。特に君の場合は精神的なショックによるものだろうけど。人が足元の蟻を気にしないのと同じように、まだ”弱者”として甘んじているほうがメリットがあるんだ。もっともそれは誤解だけど。」


「やっぱり、酷いことを言うんだな、お前。」


睨む。こいつは酷いやつだ。どこまでも他人ごとにさせようとして、


「あんた、俺がリーダーなら俺のチームの一員ってことも忘れてるわけじゃねぇよな?」


ああそうだ。こんなにイライラするのはきっと、疎外感のせいだけじゃない。闘うチャンスさえ与えられないからだ。とてつもなく悔しい。気迫なんて期待しちゃいないが、俺は前に立ちはだかる。諦めたようにため息をつくのも、もう気にしない。こいつは、理解できてない。


「・・・もし役割があるなら、証拠検出(カメラを渡す。)」


「動画を撮ってほしいんだ。僕がこのレンズから(目を指して)データに拍をつける。エネミーのデータをね。君は「何も知らない、たまたま通りすがっただけの一般人」、これで通して。証拠が取れたら即、逃げる。いいね?」


「・・・・・・。」



見下されている、それは偏見だと分かっている。AIがそこまでとは思っていなかった。というより、むしろ芸術だなんてカモフラージュのなかで踊らされていたんじゃないか。フェイクも真実と見紛うほどに。


「でもまず、「下っ端」からのお相手かな。」


「は?」


そんなに複雑な事情だったのか、と問う前に、彼の視線の先で、静まりかけた喧騒のなかから「彼ら」が現れた。狒々色のマントを羽織った人々。金髪のポニーテール、16歳くらいの少年が穏やかに話しかけてくる。


「ねーお兄さん。さっきまでの騒動ってお兄さんが原因?ちょっと気になったもんだからさ、俺らにも聞かせてほしいなーって。」



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