コモレビのうた
「おはようございまーす!沢渡さーん、入りますよー?」
朝になると看護師さんが容体を看に来る。カラスが対応してくれているようだ。だが、遠くからそんな声(現実)が響いてきてもこの悪夢は終わることがない。
俺は・・・
当初、治療を終え医者らが身体の検査をしようとしたところ、俺は悲鳴を上げて暴れ回ったそうだ。損傷緩和のため拘束をつけられて大事には至らなかったようだが。
2週間程度の治癒でおさまったのは、ゲートにより回復力が上がっているからだそうで、それがなければ最低3カ月、あとここに残らなければいけなかったらしい。今回の件は右肩の骨折、内臓への損傷というだけあって痛みも相当なものだったが、同時に精神への影響もきたしてしまった。
矢継ぎ早にノイズが飛び交い、胸を掴まれ、庇った腕を殴られる。抵抗できない影にはさまれて、治ったはずの傷が焼けるように痛い・・・
―「ぐう・・・はッ、ハアッ!」
「おはよう。珈琲でもどうだ?」
ベッドから身を起こし、のんびりとコーヒーを飲むカラスを睨み付ける。
「いらない!」
夢から自力で起き上がれるのは回復の兆しだとカラスが言っていたが、そりゃ毎回毎回同じ明晰夢だもんよ・・・。
「生意気が戻ってきたな(笑)」
「・・・っ!うるさい!猫のくせに!あ、いや・・」
命の恩人だった・・・じん、と痺れた感覚がして、右肩に思わず手をおく。
「痛むのか?」
「全然。たまーに疼くだけだよ。」
「あまり気にするな。これ食べろ。そのあとに散歩でもしよう。」
「ああ。」
差し出されたホットドッグにかぶりつきながら、タンスを開ける。
歩けるようになって、最近では付近の探索をするのが日課になっていた。
備え付けの布の衣服に着替え、スニーカーを履く。服屋なんてもちろんない。
緊急で手配されたものは、どれも簡素なものばかりだ。
バサリとテントを開け放つ。
生温い風がわずかに髪をなでる。広々とした平地にテントがいくつも見える。AM7:00。
朝の光は一番遠い森の奥からちらちらと零れてくる程度で、今がちょうどいい。
ここは、いうなれば小さな「村」。通称「流れ者の地」。全体が南北に延びる楕円形で森に囲まれていて、一部開けた川を境にギルドへの道が続いている。橋の手前には何も見えないが、結界と呼ばれる魔除けが施されているという。
診療目的だけではなく折り畳み式雑貨や調理、食事場なんかも用意されていて、誰もが利用することのできる公共の場所。数々のテントは貸出し。どれも小綺麗なたたずまい、カラフルで、ただ、中には落書きと思わしきガチャガチャの線が引いてあったりする。新しいカオが追加されている。
子供のにぎやかなお喋りや、たしなめる様子をよそに、だいたいはひっそりとしていて、のんびりと街道を踏み慣らす。
「ギャハハハハ!」
背中から突然笑いが聞こえてきた、
現実は悪夢だけじゃない。心臓が跳ね上がり、いつの間にか拳が震えている。警戒心の強いウサギ。こんなはずじゃなかった。
俺は、脆かったんだ。
なにかが聞こえてくる
「うただな」
「うた」
「吟遊詩人がときおり、ああやって笛を吹いてるんだと。こんな月夜じゃそろそろ寒くなるだろう、
「どこか物悲しいな。」
「月よりはましだろう。」
「慰めにもなってないや(笑)」
「違えねぇ(笑)」
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