旅立ち編
―闇あれば光あり光あれば闇あり闇も光もなくばそれすなわち闇あり光あり全である 全は一なり―
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昔、どこかの世界で戦争が起きた。
時同じくして人質にされた女がその「夢」を見る。
牢獄の中で彼女は叫んだ。
「扉が開く!終わりのない業のはじまりが・・・!神さま!おゆるしください!おゆるし下さいっ!どうか、ッ!おゆるしを・・ッ!!」
門番が声に気づいて行ってみると、すでにこと切れていた。
当然大事にはならなかった。門番も、そのあとにかけつけた主人も、誰も彼女の言葉を聞いていなかったのである。
亡骸は始末され、人知れぬ野原に捨て置かれた。やがて一年後、「国境(くにざかい)の野原に女の幽霊が出る」と噂された時も、うつむきながら何事か呟く様も、身分違いの男に捨てられた哀れな女の戯言として誰一人注目しなかった。
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世は鎌倉、戦乱の時。とある廃寺に逃げ込んだ落武者が捨てられた奇妙な赤子を見つける。
それは凶兆の啓示。
「鬼が来る。西に気をつけよ。これ天地の災いなり。人間が天を忘れる時に。」
言い残して骸となった妖を川に流し、しばらく意味を考えていたもののどうにもぱっとしない。戦乱など常時起きている。なにを今さら。
だが・・・言いようのない感覚が我が身を襲って離れない。彼は僧となり、その「村」に住み始めた。そして生涯身を明らかにしなかった。隠しつつも伝聞として起きた出来事を、子々孫々に受け継ぐことにした。
異変が現れはじめたのは江戸のころである。
その日、先祖はいつものように経を読み、付近の山野で薪や野草を取りに行っていた。とれた薬草を洗いに川をみると大きな老婆の顔が映っている。
――また物の怪か。
厳しい視線をうつむけ、いつものように無視を決め込もうとする。
「出るぞ、来るぞ♪」
上?
反射した老婆の顔がゆっくりと笑う。指で空を指さしながら。
家に帰った男は出てきた少女が何か握っているのに気づいた。「何を持ってるんだい?」少女、彼の子供は「うん!」と言いながら右手をひらいた。そこには緑に光る石があったという。
「ほう、どこから拾ってきたんだい?」
「門のなかの人にもらったの。」
「門・・・?」
「ちゃんと帰ってきたでしょ?」
夢の話だと気づくのに時間がかかってしまった。
「ありがとうって言ったらね、いつでもおいでって言われちゃった。」
それっきり、彼女は目覚めなかった。
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「似非ではない。」
もう一度、確かめるように言った巫女さんの手には、長い、古い巻物がある。事実自体はさすがは古典というべきか、どれもおぼろげなものだが、
ごわごわとした巻物の重さは、彼らが子々孫々に渡って思想してきたであろう世界の行く末というものが描かれている。絵と文にまじり、奇妙な紋様が彫られている。たぶん、まじないか何かだろう。
「――その「子孫」が我々だった。」
閑散とした空気の中、巫女が目を閉じた、ように見えた。
「じゃあ、つまりその娘ってのは。。。」
「今も地下で眠っている。」
騒然とし出した周りの声をよそに、見せてほしいという要望が相次いだ。
そこで何人かが地下に行った。証人は青ざめている。
なに馬鹿言ってんだい、と次々地下に行くたびに死人のような顔をして戻ってくる。結局全員が見に行って、間違いなかった。
彼女は木箱のなかで安らかに眠っている、ようにみえた。腰まである黒いまっすぐな髪。紅のさした頬。
ミイラになっているだろうという予想をはるかに超えて生者とかわりない。
まるでその口元から今にも寝息がもれてきそうな静かな安らぎだった。
「このさき、「ゲート」の付近で集会所が増える。生き残った者は、あるいは「この世界」にとどまり、異変の終焉を待つことになる、だがもう一方は「生きるため」その先を歩むことになるだろう。そう、「稀人(マレビト)」の存在として。」
話に正当性が加わったところで、巫女が見渡す。
「結末はまだ分かっていない。ただ、「新しい世界」は私たちを誘うだろう。それは天国かもしれないし、あるいは・・・地獄かもしれない。」
「でも、実際何者かに襲われたって話じゃない!私たちがそんな、バケモンに立ち向かえるって!?」
ニュースに向かって「地に落ちた」などと悪態をついていた女性が口をはさむ。
「門は異界と現世をつなぐ。現実が曖昧になり、潜在意識や個性が能力を与えたとしてもおかしくはない。」
だまりこむ民衆。
「・・・一つ言えることがある。幸か不幸か。この門がひらかれし時、異界がひらく瞬間、私たちの意思は数多ある選択のうちによりその両者を選ぶ権利をすでに手にしている。なぜならその先にあるものは、それもまた現実という可能性のある道なのだから。」
直後にボソッと呟く。
「もし、あの子が「向こう」の世界で生きていれば、あるいは解決の糸口がみつかるかもしれない。」
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次の日:
「うわ・・・」
外に出れば、そう呟くしかなかった。
辺りは騒然とし、潰れた建物とガレキの残骸で見る影もない。田んぼもぐちゃぐちゃで、あそこらへんに学校があったんだろうか。それもない。地平線まで見渡せる景色。大空が陣取る風景。
辺りに立ち込めた朝日が世界のはじまりだと言わんばかりの鮮烈な光を浴びせてくる。
すすり泣きが起こり、声やこえ、誰かを呼びに行く人々の音で溢れかえり、あっという間に自分の周りから人が散っていった。
「家、帰るか。」
ボソボソと濡れた靴で淋しさと虚無の間をすり抜けていく。
パラパラパラ
飛行機が何機も飛んでくる。遠くで救急車の音が聞こえる。はやくも自衛隊の人たちが活動しているようだ。
――――――――――――――――
「母、さん・・・」
家は当然のごとく、全壊していた。呼んでみるが返事はない。
「・・・っ! 母さん!母さん!!」
汗ばみながらガレキをどけ、どかしきれない家具の間を入っていく。いない、いない
どこにも
「母―」
途端、視界の端に異様がみえた。思わず背を伸ばす。遠くで誰かがこっちを見てる。二人、あいつらは確か、学校の同級生だった。
睨み付けてやると、おいそれとばかりに向こうへ行ってしまった。口の端が楽しそうに笑っている。
暇な奴らもいるもんだな。と、ボソッと言い放とうとした。
・・・
「ハハっ、あはははは!!」
壊れたように噴出した笑いが。なんでだ、止まらない。
こんなときに、いやこんな時(非常事態)にまで、
俺は知っている。昨日の夜だってそうだ。
近所の人がこっちをみてコソコソ話していたのを。
何人か知っているやつが嫌悪の目を向けてきたのを。
そうだ、どうせ俺は「一人」だ。
帰ってもたとえ生きていても居場所なんてない。 親友、彼女、なんて間違ってもありえない!ありえないありえないありえない、「友達」だって俺の前からは消えていく、「一人」なんだから!
「ははは、・・は」
そうしてまた「普通」に戻っていく。慣れただけの発作。呆然と立ち尽くしていると、偶然にも飛行機がおりてきて捜索してくれた。しかし、ぼんやりとしか覚えていない。分かったのは誰も見つからなかったこと。
・・・
もうスマホも携帯もない。でもどこかできっと生きてる。悲しいはずなのになぜか希望が湧いてくる。おかしい、けど信じるしかない。いや、信じたい。母さん。
どうか無事で。
しばらくの沈黙の後、歩き始めた。
もうここに用はない。
あの巫女にも。俺はもう二度とここには来ない。
「君!」
「ちょっと、」
そう制止しようとする大人たちを全てなぎ払い、店から無料で配布されている食事をリュックにめいっぱい詰め込んでいく。
水、水、そして食料。重たい。でも、こんな思いよりもはるかにマシだ。
ザッと土の音を立てる。
さよなら、
「ニ”ャ―」
「・・・・・ッ!」
カラスがいた。こんなところにいたのか!こみあげてくる感情が、しかし
「・・・相変わらず不細工な顔してんな。」
途端にガリガリとズボンの袖を引っ掻きはじめる。
「やめろ、やめろ!やめてくれってば!!」
疲れてたせいか、妙にそれが心地よかった。自然な笑いに戻る。
歩いている後ろを真っ直ぐについてくる。だぶんエサ目的なんだろうが、今はそれでもいい。
行こう。
――――――――――――――――
「兄ちゃん、どこ行くんだい?」
そうかけられたのは歩いて歩いて、ずいぶん歩いてきた先の田舎の道。
国衛の制服を着ている。この車もそうなのだろう。
「ひょっとして冒険希望者?」
・・冒険?
「・・・どこでもいいです。」
そろそろ夕暮れが近づいている。近くに寝られるところがあれば、雑魚寝でもするつもりだった。あの村から出た時点で、どこに行こうが関係ない。
「そうかー」
運転手の男が頭をかく。茶の短髪が帽子の中からのぞく。
「俺ら今から「ギルド」ってとこ戻るんだけどさ、もしアレなら乗っていかない?そこなら食事もあるし、迷子なら無料で宿を提供してもらえるよ。俺らから伝えとくから。」
・・・ギルド?
「あの、ギルドって」
「ん、ああ!」
思いだしたようににこにこしだす。
「まだ「伝わってない」のか!国が早くも「冒険者」を募り出したんだ、ほら、あの「ゲート」のさぁ!まあ危急存亡ってことだからだろうけど。ただ、なんでもゲートに近いほど誰でも「特殊能力」がつくみたいなんだ。すごいよね!こう、アチョー!って感じでさ!いやあまさか現実になるとはねえ、僕らの世代、絶対歴史にのるよ、これ!」
「。。。」
「悪い、話が脱線したな(笑) こう見えても国衛だからねぇ、君を助けたいんだ。何も冒険者になれってことじゃない、こっちの方は歓迎するよ?じゃなくて、どうする?乗ってく?今からだと明日には着く。今日はこの車でお泊りだけど、安全は保障させてもらう。」
バッジがキラリと光った。
「・・・お願いします。」
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