ゲート出現
理不尽な出来事だった。
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快晴、天気はところにより曇り。
「あら、今日はもう二階なの。」
午後6時30分、パートから帰ってきた母が荷物を置きながらそう言うのが聞こえた。
「藍ー?」
「おかえり。」
「ただいま。それより・・・ねえ、ちゃんとカラスの食事出してあげた?」
「ああ、あげたよ。」
キーを操作しながら(ゲーム)目もくれずに返事をする。
「あら、おかしいわね。さっきからずっとせっついてくるのよ。餌の方に。」
「・・・ハァ?」
カラス。
もとはといえば数年前、彼が拾ってきた捨て猫。性分だとしかいいようがない。冬のさなか、路地にうずくまっていたところを、自分で責任をもって飼うからと家族を、特に父を散々説得して、部屋におくことを赦してもらったのだ。名前も自分でつけた。なぜか手を噛まれたが、それは恥ずかしさゆえの甘噛みだと彼は認識している。
しかしその猫、餌の時以外は微塵の可愛げもない。だからといって放棄する、というのはやはり彼自身のポリシーに反するのであり、結局は半ば腐れ縁として、飼うだけの存在になっている。
目を離したすきに敵の攻撃を受け、味方のダメージと報酬を消失したのだからこちらも相当、ゲージがたまっている。
最近この猫が、特に「調子」が悪いのだ。
重い腰をあげガンガン音を立てて階段を降りると、しらばっくれているカラスのもとに顔面を近づける。
「おい猫。」
「藍!」
母親が注意するが耳にはとどいていない。
そのとき、急にカラスがブワっと毛を逆立てた。
ダダダダッ!
驚く暇もなく突然玄関に向かってダッシュし、そのまま―
バリッ
嫌な音がする。
「あ」
「やだ、窓、網戸にしたまんまだったわ。」
母が手を口に当てるが、傍観している場合ではない。
「畜生!行ってくる!」
「こら、言葉が汚いわよ!」
携帯をパーカーのポケットに入れ、飛び出した。
いくら不機嫌とはいえ、家財を壊してまで外に出る手癖の悪さは初めてである。
外に出ると、首輪につけておいたGPS機能をたよりにせまい道を歩き出す。
それにしても―
「変な空だな。」
夕焼けが妙に蒼黒い。空一面に雲が、縦に筋を描いている、
道行く人も時折空を見上げつつ、また何事もなかったかのように歩いていく。
天気予報にも異常はなかったはずだ。
知らなかった。
知らされなかった。
地震が多くなっているのは、別のプレート、来る北西海地震の前触れではない。しかしいづれ来るであろう大地震のために備えは必要。
そのための予備知識、集団行動・・・
このとき世界では異常であった。
人の希薄な世界で確実に起こっていた。
他人事。
それは予測していないことにされていた。
20分が経過。
さっきまではそんなことなかったのに、風が冷たくなりだした。
ズ ゥ ゥ ゥ ゥ ゥ ゥ ゥ ゥ ゥ ン
地鳴りが響く。
「どこへ行きやがったんだ。」
悪態をつき、携帯で位置を確認しながら北の方角に向かう。
山に近づいている。
田んぼで鳴きだしたカエルの声とともに電灯がついていく。
部活帰りの自転車がにぎやかに過ぎ去る。
7時
このままでは今日は諦めるしかない。
ゥ ゥ ゥ ゥ ゥ ゥ ゥ ゥ ゥンン ・・・・・
一瞬、地面がうねったのかと錯覚した。
バチッ!
そのとき、強烈な電波が走る音がして、
ド ガガガァ ァアア ァ ァ ア ア ア ン!!!!!!!!!!!
世界が一変した。
気がつくと頭から地面にいったらしい、口の中に血の味を感じながら、ようやく立ち上がる。
「うう・・・」
これで五体満足であることに妙な誇りを覚えつつ、ふと顔をあげ、愕然とした。
辺りを見れば、見渡す限りすべての建物が倒壊し、向こうの地平線が
「夕焼け・・・?」
否。
それはじわじわと、着実にこちらへ迫ってくる。
やばい。
やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい
と
、
ザザザザザーーーーーーー!!!
どしゃぶりの雨が降り出してようやく我にかえる。
ここからの避難地は・・・神社だ。
冷めたようにふらふらと歩きだす。歩くしかない。今は、 歩け。
山道を辿るとすぐに静謐な雰囲気の木造が見えてきた。
彼が通ってきたのは裏道のため見かけなかったのだが、割と多くの人々が集まっている。子供や赤ん坊の泣き声が聞こえる。
中には息子らしい名前を叫んでいる老婆もいる。
母さん・・・・・
ここはまだ、屋根が崩れたくらいで済んでいる。ただ、
神社の木が・・・・中心からバッキリと裂けていた。
「なんじゃなんじゃ!・・・っまさかお告げが!いや、でも・・・・まだだ・・・早すぎる」
「お告げ、」
「ああ、お告げが!」
口々にお告げと言い出す古株の人々のもとに、何だ何だとまだ、新しい、慣れない人たちは戸惑うしかない。
「静かに。」
声が響いたのは神社の奥からだった。
若い、女性の巫女さんが姿を現した。長い前髪で両目が見えない、スッと長く伸びた黒髪を後ろで束ねている。
「どうなっとるんですか!」
「これはとうとう― !」
「来てしまった。」
澄んだ声でそう、重く告げられた。
「とにかく怪我人と子供を先に!」
案外設備は整っていた。しらない間に頭に包帯が巻かれている。すすめられた水を一気に飲み干す。のどが渇いているからではなく、食事も会話も、何もしたくなかったのだ。
『緊急速報です!』
アナウンスの声に一同が釘付けになる。まだ電波がつながっているらしい、ザ、ザーとノイズが走りながらも動いている。
女の人が現れた。せききったように、しかし精一杯の平静を装いながら話し出す。
『午後19時0分、北極海に彗星が衝突しました。繰り返します、今入った情報です。午後19時0分、北極海に彗星が墜落しました。この墜落により、世界的に甚大な被害が出ています。気象的に予測不能の事態です。何が起こるかわかりません。このあとの予想はまた後ほどお伝えします。今は食料の備蓄をしてください。できるだけ協同、協調し、落ち着いて行動してください。』
非常時に呼ばれたのだろう、顔を赤らめ髪も整えず、息もあがったままの様子が、事の大きさを表しているように思えた。
また、次の瞬間、耳を疑うような言葉が聞こえた。
『引き続きお伝えします。この事態により、世界各国で異常な電波の乱れが確認されています。それは若干流動性がありますがおおよそ長方形の形をしており、・・・・・・え? ゲート?!』
周囲がザワめいた
『・・・失礼いたしました。今、世界中で「ゲート」と呼ばれる現象が、起こっていますこれは・・・日本でも、確認されています。中央構造線に沿ってこのように・・・少し地面から浮いて波打つように存在しています。しかし決して近寄らないようにしてください。・・・異次元の通路である可能性があります。そこから現れた何者かによって死傷者が出ているといった事例も報告されています。』
「はぁぁーーー!?ついに頭逝っちゃった?」
「これで政府も地に落ちたわね、この似非公!」
「はいはい分かってましたよ。私はね。」
不満諸々が駄々洩れになるが
「似非ではない。」
戸口に現れたさきほどの巫女さんがなにやら長い巻物をもって立っていた。
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