前兆
キーンコーンカーンコーン
さびれたチャイムの音とともに、授業が終わりを告げた。
ガヤガヤと教室から出ていく生徒に紛れ、靴箱に向かう。
今日もいつもどおりだったなぁ。
くそ暑い緑と、廊下の生ぬるいにおい。うるさい靴の音。
フツーの日常。
フツーの会話。
フツーのパリピ勢に陰キャ。
フツー。
フツーフツー・・・
いつもいつも、知らない間に時間が過ぎているのは精神の失神に近いせいだと彼は思う。
気だるいあくびがもれる。早くも校庭から準備運動の声がきこえる。が、帰宅部には関係ない。
この校舎は珍しく木造校舎で、火をさけるための特別なのりが塗装されている。
というのもこの地形にはヒノキが大量に生育し、名産含めブランド化されている。その一環として、また景観としての保護により。
3階建てで一昔前の学校のようである。ただ真ん中にポッカリ正方形の中庭がついている以外は。
校門を出るといつもの道を歩く。
じりじりと気の早いセミが近くで鳴いているようだ。しかし暑い。
(来やがった。)
木の陰に隠れて、あるいはコンビニの手前の車付近で。
アイスを食べて誤魔化しているがあれは、「強襲」の前触れだ。幸い気づいていない様子の彼らを一瞥し、あらかじめ目を付けていた別の道を歩き出す。
こういうとき(万が一)のために、というのは言い訳で、鞄にはいつも宿題のプリントとそれに必要な教材以外なにも入っていない。教科書は全部、机やロッカーに収めてある。最近その間から体操着が抗議の表情を見せているが。回避能力が上がってきている(本人曰く面倒くさい)ためかトラブルの頻度も減少傾向になりつつあり、もとのズボラな性質がではじめている。苛々している彼らはゲーセンで時間をつぶすことが多くなっているようだ。
木陰にそって田んぼの脇道を辿っていく、点在する家々のなかの、それと変わらない2階建てのオートロック(どこにでもある)。
「ただいまー。」
玄関を開けると、涼しい風があたりにたちこめた。相変わらず誰もいない。
「今日は唐揚げか。」
テーブルには「レンジでチンしてね」というメモとともに今日のご飯が置かれてある。
ふと、机の上でパソコンがチカチカ光っているのに気づき、あけた。
ピコン、と音がして、昨日作成した女の子のアバターが鎌でメールをさす。
一通のメールが届いていた。
〈 見ろよ!これは世紀末だぜ! 〉
「・・・またかよ。」
思わず苦い顔をする。
届け主はyuki-sawatari.
沢渡 由紀。姉である。26歳で働き盛りの彼女は、今は遠い場所で・・・何をしているのか分からない。ちなみに独身である。
前に郵送で届いたサルと蛇と天使の羽の合体したようなトーテムポールがまだその空気を失わず、玄関で異彩を放っている。
いわゆるあやしさ全開のオカルト趣味ということは間違いなく、今度はもう一か月前から続いている変な写真シリーズの最新を送ってきた。
▼を押すと、茶色い大地と淡い水色の湖が映っている。しかし、湖の真ん中に大きな地割れができ、水が中になだれこんでいる。
地下世界に続く滝のてっぺんを見ているようだ。
はあーと思わず声が出る。
このような地割れは何度も見せられた。
からかってんのか?と
最初は思った。でも地方では結構なニュースになっているらしく、ネットで見る海外の新聞でもたびたび話題になっている。嘘とは思えない。
もう一枚ある。
一面青い空にポッカリと岩、が浮かんでいる。
「ラピュタ・・・にしては規模が小さすぎるな。」
見るたびに、日常を疑ってしまう。偽造かとも思ったがあのド正直な姉にそんなことできるはずがない。
ズドォーーーン!!!!
ビクッとして思わず机にしがみつく。地震。少しきつい揺れだったようだ。これも最近多い。
テレビをつけると震度2弱とでている。絶対ウソだろ。でかかったぞ、今の。・・・さいわい被害は出ていないようだった。
4chなんかみると自称アンドロイドを名乗るやつなんかが、凶兆の前触れだと騒ぎ立てているが。
はぁ~
宿題でもすっかな。
椅子から立ち上がると、何かにズボンの裾を引っかけられる。
足元に黒い猫がいた。じっと彼を見つめている。
「おい、カラス。」
カラスと呼ばれた猫はこれもギニャーと至って不機嫌な声でエサを催促した。
彗星墜落4日前ー
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます