深夜

 日付が変わる少し前に漸く家に帰り着き、僕はソファに倒れ込んだ。

 留守番をしていた猫が喉を鳴らしながら飛びついてきたので、帰りが遅れたお詫びに気の済むまで撫でてやる。

 最近はこんな状況が続いている。

 唯一とも言える趣味の小説投稿も滞ったまま。



 せめてこのまま深く眠ってしまえばいいのだろうけれど、逆に寝付きはどんどん悪くなっていた。

 暗闇の中、自分は一体何のために生きているのかと考えて、その答えが見つからないまま煩悶し幾度も寝返りを打つ。

 漸くうとうとしかけたところで目覚ましが鳴る、そんな毎日。



 今夜も体の重さに反し、頭は妙に覚醒している。

 ため息を一つ吐き、僕は諦めてベランダに出た。

 まだ肌寒さは残るけれど、耐えられない程でもない外気温。

 どうせ眠れないのなら、何をしていても同じだ。





 晴れた夜空に月は見えないけれど、星はいくつも瞬いていた。

 その美しさに見惚れてから、片手のスマホに視線を移す。

 こんな時には煙草が似合いそうだけれど、生憎僕は煙草を吸わない。

 その代わりではないけれど、遠ざかり気味のカクヨムを開いた。

 書けなくとも、読むことはできる。

 フォロー中の作品の更新や、話題の作品を読むうちに、僕はどんどんそれらの世界に惹き込まれていった。



 そこには、悩みながら生きる者がいた。

 戦いながら真実を求める者がいた。

 何気ない日常をかけがえのない友と過ごす者がいた。

 頑張らなくても良いと、僕に手を差し伸べてくれる者がいた。



 全てはきっと、作者の命そのもの。

 この小さな画面の先はそんな多くの命と繋がっていて、僕は確かにその輝きに触れ、その想いを受け取った。

 素晴らしい作品達に、羨ましいと思うより、ただ感動した。



 この夜空の星のように、僕を照らしてくれたことに星を。

 僕の心を捉えて離さない、その魅力にハートを。

 少し震える手で送ったけれど、僕の想いはあなたに届いているだろうか。

 その作品に救われた人間がここにいることを、どうか分かって欲しい。

 これからもその素晴らしい世界を僕に見せて欲しい。

 そして—僕もいつか、僕のような誰かを救えるような、そんな話が書きたい。

 それがきっと、あなたへの恩返しとなるはずだから。





 ふと顔を上げれば、東の空の端が薄らと明らんでいた。

 静寂の中少しずつ、でも確実に闇が溶かされていく。

 この世界にまた、朝が来るのだ。

 そこには昨日までと何ら変わらない日常がある。

 けれど僕は、幸せな気分でその美しい光景を眺めていた。

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