エイプリルフール。

 この日ばかりは、どんな嘘をついても許してもらえる。なぜか理由はよく知らないけれど、とにかくそんな日だ。


 だから僕は彼女に嘘をつく。


「先輩、ニュース見ました?先輩が好きだって言ってた△△△△、解散しちゃうらしいですよ」

「知ってます?今日、季節外れの大雪が降るんですって」

「実は昨日買ったスクラッチクジで一等当たったんです。何か欲しいものがあれば言ってください」


 彼女は毎度、冷ややかな顔で僕を見る。


「そんな嘘、誰が騙されるか。くだらない事言ってないで、仕事しなさい!」

「はいはい。…先輩には全然嘘がつけないなぁ」



 それは嘘だ。

 僕は、ずっと前から嘘をついている。

 仕事一筋な先輩は、今日も明日もこの先も絶対に僕のこの嘘になんて気づかない。いや、逆にもし気づかれたら、きっと先輩は僕から離れていってしまうだろう。

 臆病だとは思うけれど、僕は今のこの距離感を失いたくない。だから当分ネタバラシは出来ないけれど。

 でもいつか先輩の期待に応えられる仕事ができたら、もっと僕に自信がついたら、その時は—。



 ◇◇◇◇◇



 何言ってんの、と私は思う。

 嘘がつけないのは私じゃなくて君の方。

 話しかけられると舞い上がって、いつもの自分を保てない。子供じゃないんだからと思っているけれど、こんな気持ちには慣れていなくて、正直どうしていいか分からない。

 多分君にはもうバレているんだろう。そうと知っててこの態度は、やっぱり揶揄われているんだろうか。

 そう思うと悔しいけれど、やっぱり君といる毎日は楽しい。



 ◇◇◇◇◇



 同僚は皆、何も言わずにそれぞれのデスクで仕事をする。

 またやってるよ、という雰囲気に気づかないのは当事者のみだ。面白いのでそのまま放っておこうと、既に皆で口裏を合わせている。



 嘘つきな彼と、嘘がつけない彼女。

 嘘のすぐ傍にある真実に気づくのは、果たしてどちらが先になるのか。その答えが分かるのは、まだまだ当分先のこと。

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