確実な一歩。
アメリカ人は基本的に外国語を学ぼうとはしない。海外旅行に行ってさえ英語が通じないなんて!と現地に|難癖をつけ《ディスるくらい。だからスペイン語が通じる同士は仲良くなる。いや、スペイン語圏の連中であるメキシコ人、ドミニカ人、キューバ人、コロンビア人またプエルトリコ人が民族的に陽気すぎるのだ。
ただ俺はそこまで陽気な
「うちのチームからも二人も出るんだ。もう一人は捕手のタイラーさ。」
あー。今デズと喋ってる人か。タイラー・フラワービル氏。打てる捕手だ。
「ま、俺も健も外国人だから、同じ外国人チームだな。デズとタイラーがアメリカチーム。」
ちなみにフューチャーズゲームはアメリカ対世界(アメリカ国籍以外)でチームわけされるのだ。なので胴元である出版社が一元で選ばないとチーム編成などとてできないというわけだ。
「しかし、あんたもせっかく亡命したのに扱いが外国人というのもな。」
俺が気の毒そうに言うと
「まだ国籍が取れてないんだよ。」
あっけらかんとしてる。彼らは自分より先に亡命した縁者を頼ることが多い。合法的にアメリカ社会に来た俺よりも溶け込む素地はデカイのだ。
彼のようなキューバからの有望な選手の亡命というのは毎年のように起こる。キューバではプロ選手も同じ国民と比較すれば遥かに良い暮らしをしているのだがメジャーリーグなら報酬はケタが3つほどは違うのだ。
今回フューチャーズゲームに招待された「外国人チーム」の1/3はキューバ人というのも凄い。もちろん全員が全員「亡命者」である。既にメジャーリーグの選手の一大サプライヤーになっている。
「さ、ここからは敵味方だぜ。監督がコッチを睨んでらぁ。」
手を振って別れたのはいいが試合前から陽気キャラを作り続けた俺はとっぷりと疲れる。主に精神的に。
「お前、
ジョシュが感心したように言う。真面目なというかほぼムッツリな感じのジョシュはアメリカ人らしからぬ落ち着きがある。山鹿さん的な雰囲気かな。
「たしかに日本語を話している時がいちばん落ち着いてますわな。言語で性格が作られるってのは割とありますよ。」
さて、この対決で大きく優勝が近づくか、あるいは混戦となるかが決まる。個人成績も大事ではあるがチームの勝利への献身的な姿も上層部に見せておく必要がある。
それには試合中に声を出したり、全力プレーを見せることなど、正直言って日本では中学高校生の段階で既に身に着けているべきレベルの協調性である。そこはすっ飛ばしているのが「個人主義」社会のアメリカなのだ。
特にDH(指名打者)で出場する俺は守備につかない分、厳しく求められているのだ。まあ、リリーフで出る時は試合の後半はブルペンだけど。
試合は初戦はクッキーズが勝ち、2戦目はヴィスカウンツが勝利。3戦目はこちらもエース、ヘル吉を立てて勝ち越しを目指す。
観ている分には楽しいがやってる分には気が張る僅差の攻防。ヘル吉は6回1失点で切り抜け、そこからセットアッパー二人が打たれるもなんとか4対3で9回裏、俺に回してくれる。
「健、100マイル出るかどうかなんか気にしなくていいからとにかく制球な。頼むぞ。俺の勝ち星がかかってんだから。」
ふふふ、見透かされてるな。
「安心しろ。俺だってセーブポイント欲しいからな。」
とは言え、あちらは一番からの好打順。
今日は右投げの日。マイナーリーグとは言え相手もパワーがあるので真ん中あたりに投げるのはやはり
思い切り腕を振っても狙ったところへ行く。たとえ時速100マイルのボールが投げられても、コースに決めるためには速度を抑える必要がある。でも魔法制御なら思い切っていけるのだ。
一番二番を浅い外野フライに打ちとり、二死無走者でピシエド氏。左にも右にも打てるいわゆる
すまんな。魔法制御のおかげで腕の振りが寸分
この勝ち越しで優勝がグッと近づいてきた。
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