目指すは優勝と昇級。


 バスに揺られること8時間。途中、長めの仮眠休憩と朝食休憩をいれつつ半日かけてようやく到着。みんなはロッカールームで2度寝。前述したこともあるが、俺は収納魔法の空間に背中や腰や後頭部を沈め車体の揺れの影響を受けないように固定して移動によるダメージをなるべく抑えている。


 ホームチームが練習している間に軽く食事。記者さんたちがやってくる。由香さんたちは前泊したそうだ。地元の記者さんたちもいて、街の感想など聞かれる。来たの初めてだし。球場も割と新しくてロッカールームもまだキレイだ。


 フロリダ州ジャクソンビルはフロリダ半島の東側の付け根に位置する街である。クッキーズの親球団であるタンパベイ・レイザースは同じフロリダ州にあるセントピーターズバーグにある。ちなみに「タンパベイ」というのはタンパ市とセントピーターズバーグ市を中核とする都市圏の呼称で「タンパ湾岸地区」みたいな感じか。


「優勝に向けての意気込みは?」

 俺は記者さんたちに尋ねられて不思議そうな顔をしたに違いない。

「まだ独立記念日前ですけど?」

「いや健、そのころには前期が終わるからそれで良いんだ。」

ジョシュが俺の表情の意味を察してくれたようで説明してくれた。


 サザンリーグは138試合を69試合ずつ前後期に分けてそれぞれの地区優勝が決まる。

 それで「ポストシーズン」は前後期優勝チーム同士(前後期同じチームが優勝した場合は勝率が高かった方の2位)で年間地区優勝を争い、南北地区優勝同士でリーグ優勝を争うのだ。


 アメリカは6月がドラフト&卒業シーズン。早ければ7月には新人の補充が始まるため、AA以下は大幅に人員の入れ替えが予想される。つまりチーム内でもサバイバルが始まるのだ。


 「ちなみに日本でもパリーグで昭和40年から52年にかけて前後期シーズン制がとられていたことがあるのよ。」

 由香さんも注釈を入れる。

「へえ、由香さんも結構なお歳なんですねぇ。」

ごめん、俺の前世中の人はそれ知ってたからつい。


「健くん、足を踏ん張って歯を食いしばってもらえるかしら。」

由香さんが拳をに握った。

「ごめんなさい。⋯⋯調子にのりました。」


 冗談はさておき。7月中旬に行われるオールスターゲームの前日に行われるオールスター・フューチャーズゲームへ俺の出場が取り沙汰されているのだ。これはメジャー全傘下球団からメジャー1チームにつき2人が出場する。


 監督からはクッキーズでは俺とデズが推薦されていることを聞いていた。ちなみに俺は投手枠での推薦だ。もちろん、AAAからAまでの4クラスから二人なので必ずしも行けるとは限らない。


 「サンズにも健に負けないくらいの有望株が昨日上がってきたばかりなんだ。きっとミーティオスは彼をオールスターゲームに推薦するだろうね。」

地元記者さんたちも誇らしげなのだ。ちなみにサンズはナ・リーグ東地区のフロリダ・ミーティオス傘下だ。


 その名はジャンカルロ・スタンソン氏。俺より1年早くプロ入り、昨年は高卒新人ながらシングルAで39本塁打95打点をマークして本塁打王も獲得したパワーヒッター。今期も45試合で13本塁打をマークして昨日、AAに上がってきたばかりだそうだ。A+を抜かす飛び級になる。


「健のライバル登場だね。」

 俺もすでに31本をこのリーグで打ってますがな。すると記者たちの間でそれは球場が狭いからだ論争がはじまる。ちなみにメジャー球場と比べると


(メジャー)ロサンゼルス・ディガース。ディガースタジアム。

左翼105.8M 中堅126.5M 左翼105.8M

(AA)モンゴメリー・クッキーズ。リバーサイド・スタジアム。

左翼95.7M 中堅122.2M 右翼101.2M

(A)グリーンズボロ・グラスカッターズ。ニューブリックバンク・パーク。

左翼96.0M 中堅121.9M 右翼95.1M

参考までに甲子園球場は

左翼95.0M 中堅118.0M 右翼95.0M


 確かに狭いかも。だがスタンソン氏のいたところとはほぼ互角。ちなみにリバーサイド・スタジアムの左翼が狭いのはレフトスタンドのすぐ裏を線路が走っているためだ。


 くだんのスタンソン氏は4番左翼手でスタート。下から上がって来てすぐに4番起用とは周囲の期待の高さをうかがわせる。


 また平日にもかかわらず大勢のお客さんが詰め掛ける。話題の新鋭スタンソンを観に来たお客さんたち。


 もっとも俺もそれなりに注目はされている。練習後、アウェイにもかかわらずサインを求める人も多かった。もしかすると俺の「出世」を見込んで値が上がったタイミングで売り払う魂胆かもしれないが。


 1回、ビジターであるクッキーズが先攻。

一死一塁。最初の打順が回ってきた。

 


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