メジャーの異変と沸き立つマイナー
5月22日。トップチームのレイザースでは二塁を守る磐村さんが併殺崩しを狙った走者と交錯。昏倒してしまう。翌日、左膝の靭帯の断裂と診断される。故障者リストへ。
同じ日にベテラン
他人とは言え、同じレイザースの選手の立て続けの怪我を喜ぶわけにはいかないが、チーム内には少なからぬ期待がよぎる。
「なんか『オラわくわくすっぞ。』健ならわかるよなぁ。日本人だし。」
デズの鼻息も少し荒め。うん。前世の時観てたわ。
「うん。でもボールを『集める』のは俺たちの仕事じゃないけどな。」
「俺は7個集めてメジャー行きてぇ!」
いや、そっちの方が難しいだろ、常識的に考えて。
「デズ、そうやって他人の不幸で喜ぶやつがケガをする。やめておいた方がいい。」
ジョシュに注意されてやんの。
「そういうジョシュが実はいちばん意識してるくせに。」
デズに言い返されると「それは⋯⋯」と口ごもる。
今日からバーミングハムでヴィスカウンツとの直接対決。モンゴメリーからは片道1時間半なので、宿泊無しで毎日通い。それはそれで辛い。
「あれ、今日はポサダじゃないんだ。」
前日、エースが投げていたので順当に行けば二番手先発の彼が出てくるはずなのだが。
「ポサダとベッカムは上に呼ばれたらしいぞ。」
コーチのティムが口を挟む。まじっすか?
「シャーロットですか?」
ノースカロライナ州シャーロットにホワイトアックス傘下のAAA球団、シャーロット・ホワイトナイツがある。しかし、ティムの答えに一同騒然。
「いや、シカゴだ。」
そう、2人はAAAを飛び越していきなりメジャーに合流したのだ。
「くっそ。」
ジョシュが悔しそうだ。打率こそ及ばないが打点と本塁打ではベッカム氏より上なのだから。
「焦んな、って言ったのはジョシュだぜ。」
デズがやれやれと言った表情をする。
「だよなぁ。でも、ヤツらが上がれるんだ。俺たちにもチャンスはあるぜ。しっかりしてくれよキャプテン。」
ヘル吉もジョシュの肩に手を置いた。とは言え、顔見知りがメジャーに上がるなんて聞くとやはりこちらも気合がはいる。
そういえば、ジョシュはどうしてAAなんかにいるのだろう?確かにメジャーのクリーンアップには荷が勝ちすぎているかもだけど、下位打線や代打なら十分に通じるはずだ。かつてのドラフト全体1位に選ばれた素質は伊達ではない。
「ところでジョシュはメジャーには何年いたの?」
俺が聞くと突然デズが俺の腕を引っ張る。
「健、ドリンクはどうだ?」
「いや、さほど喉は渇いてないけど。」
「バカだなぁ健は。のどの渇きを感じる時にすでに身体は脱水症状なんだぜ。こまめの水分補給がいいんだぜ。」
おい、俺だってそれくらいの知識は⋯⋯。ん?もしかしてはぐらかされたのか?
目下、
ヘル吉によれば
「そりゃそうさ。健を討ち取れば注目されるからな。しかも健は登録が『投手』だからな。同じ投手に打たれてたまるかってね。」
もちろん、チームの勝ち負けよりも個人の勝ち負けが優先されるわけではない。
投手としてもまだ失点なし。ワンポイントで使われたりクローザーで使われたりと2試合に1度の登板だ。
チームプレーを教え込むための
今日の相手の先発はA+のウインストン-セーラムから上がってきたばかりのジョーンズ投手。本格派右腕。スリークオーターなんだけどテイクバックがなんだか『砲丸』投げみたいに見える。
「さぁ、『ホーガン』にAAの凄さを教えてあげようじゃないか。」
「健、ホーガンじゃねぇ、ジョーンズだ。いったいどこからホーガンが出てくるよ?」
すまん。それ日本語だったわ。昭和にハルク・ホーガンというプロレスラーがおってな、と中の人は言いたい。
ベッカム氏の抜けた打線はやはり迫力にかける。俺たちはヴィスカウンツ相手に
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