フェスティバル!フェスティバル!!

 遠征後の金曜日。珍しく休みのはずなのに球団から緊急召集がかかる。これは強制力のない「招集」ではなく、強制的な「召集」である。


 「なんやねん。ゆっくり寝たかったのに。」

ケータイで叩き起こされたデズはプンプンであった。

「まったく⋯⋯ふぁ」

同じく俺もあくび混じりで同意する。


「さあみんな、集合よ!今日はよく来てくれたわ。」

駐車場の奥で召喚主のエレインが拡声器でがなり立てる。ちなみにこの駐車場は選手と球団スタッフ用でお客さんには入場口のすぐ近くに立体駐車場がある。


 彼女の後ろには大きなトラックが。いやな予感。

「日曜日は戦没者記念日メモリアルデーなのは当然知っているわね。明日からの土日、我が球団は日本フェスティバルをするのよ。その設営よ。」

選手たちからブーイング。当然、監督のドノバンやコーチのティムらコーチングスタッフは来ていない。


「さあ、トレーニングの一環として頑張ってちょうだい。」

そんなんで野球は上手くならんやろがい。むしろ明日ダブルヘッダーなんだが、疲れが取れんがな。


「みんなでやればすぐ終わる。ちゃんと今日のミールマネーも出るし、終わったらお昼も出るわよ。」


「まぁ、さっさと終わらせようぜ。」

俺たちは諦めて手伝うことにする。

 この球団の経営母体は「経営委員会」みたいな複数の企業の合弁。だから市政府も一枚噛んでいる。お役所から助っ人も来ていた。ちなみにジャパンフェスティバルでなくてもこのメモリアルデーの週末には毎年何かしらのフェスティバルはやってるそうだ。


 観客席のピクニックエリアにフードトラックが入る。「お好み焼き」?「たこ焼き」?などなど。ほんとに大丈夫なんだろうか。アメリカでは日本食は人気があるが、経営者やコックはたいてい中国人や南高麗人で、味が本物と似てもにつかわないというのはあるあるである。だがソース味なら何人なんぴとが作っても大して差はない⋯⋯はず。当日は買いに行こう。


 納入されたのはたぶんフードトラックで使う食材。また、球場に入っているファストフード店で使う食材。売店で売るグッズなど様々。それを一列に並び、手渡しで搬入していく。さすがはアスリートばかり。昼前には終わってしまった。


「健、どのフードがお薦めなんだい?俺も買ってみるよ。」

ヘル吉もデズも興味津々そう。とりあえず日曜日の試合前にみんなで食って見ようぜ、と言うことに。日曜の午前中は教会堂へ礼拝に行く人が多いからわりといているはず。


 結局、午後はジムで軽く汗を流して帰ることにした。


夕飯時。

「健、フェスティバルが楽しみだね。」

マフィン家も日曜日の試合に来てくれるそうである。

「健、僕も応援に行くからね。絶対に本塁打ホームラン打ってね。」

ルークも嬉しそうだ。

「ルークは『健は僕の家にいるんだ』って学校でクラスメートに自慢してるのよ。」

ルビーさんが教えてくれる。なんか飼われてる大型犬みたいなカンジやな。


 土曜日は大勢の人が試合を観に来てんだかフェスティバルに来てるのか、それはそれは超満員。ただ、あまり席に座って試合観戦というよりは立ったり座ったり全く落ち着いて座っていない。しかもフードトラックからソース系の香ばしい匂いがベンチまで漂ってくるのにはかなりまいった。


「健。俺はちゃんと食ってきたのに匂いだけで腹が減ってきたよ。どうしてくれるんだよ?」

デズの意見には激しく同意。もし高校の野球部だったら後輩に買いに走らせてしまいそうだ。いや、たぶん伊波さんあたりに俺が走らされているはず。


「明日まで我慢できそうか?」

「いや、無理。」

「俺もだ。」


 3連戦の相手はウエストテン・ダイアモンドジャックス。シアトル・マトリクス傘下だ。あちらのベンチもチラチラ外野スタンドのフードトラックを見てる。気になって仕方がない模様。うーん、この匂いテロ。


 第一打席、四球で出たデズがすかさず盗塁。二塁ゴロの間に三塁へ。きっちりと右翼への犠飛。最低限の仕事。ちなみに一撃魔法クリティカルの不発。

「あーあ、走ったら腹が減っちまったよ。あーオコノミヤキ食いたい。」

余裕のタッチアップだったはずのデズに文句を言われる。

「それお前の仕事な。」

ヘル吉に突っ込まれていたが。


 


 


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