お姉さんといっしょ?
5月の2週目のミシシッピ州からの遠征から帰ってくると、もう午前0時を過ぎていて、クルマで家に帰ると部屋の真ん中に大きな段ボール箱が積まれていた。あ、亜美に頼んで置いたやつか。
んー、遠征帰り明けなので今日はオフか。一応バスの中でも睡眠は取っているので中を確認してから寝よう。
送り主は亜美と妹と母の名義になっていた。荷物の中にメモがある。
球団のスタッフさん向け、チームメイト向け、マフィン家と由香さん宛てのものになっていた。そして最後に俺用にも一箱。
俺用のはプロテインとかがほとんど。こっちの方が安いけどやっぱり日本メーカーの方が味が良いのだ。あとは自炊用なのかカレールーとか。クルマがあるのでアジア系スーパーまで行けばいいのだろうが、南部はよそに比べてアジア系の住民が少ないのでバーミングハムまで行かんとないから助かる。お、唐揚げ粉もあるじゃん。
朝、母屋のダイニングに行く。
「おはよう。」
「おはよう、健。昨日は遅かったのだろ?起きても大丈夫かね。」
ジョニーに心配される。大丈夫だと伝え、荷物を受け取ってくれたことにも礼を言う。
「ずいぶんと大荷物だったね。実家からの救援物資かい?」
「そんなとこです。」
「健、コーヒーはいかが?」
ルビーさんがコーヒーを淹れてくれた。
「ルビーさん、遅くなりましたが母の日のプレゼントです。」
マフィン家用に送ってもらったコーヒー豆。
「あら、ありがとう。とても嬉しいわ。」
喜んでくれて何より。
「家内に気を使ってもらってありがとう。」
「ジョニーにはこれです。」
俺はジョニーにも渡す。ジョニーは包みを乱暴に開けると大喜び。
「OMG!」
関西系のソース詰め合わせだ。お好み焼き粉もある。こっちは長芋がないからね。
「お好み焼きできるな。懐かしい!僕はこいつが大好きだったんだ。
ルークには「食玩」の詰め合わせ。
「ふぉーーーーーーー」
テンション上がってなにより。
ライリーには⋯⋯
「私、そういうの要らないから。」
やっぱりそう来ますか。
「いや、これは俺からじゃなくて、俺の妹の美咲からだよ。」
ファンシーな封筒に入ったメモと共に包みを彼女の前に置く。すぐに開けなさいよ的な顔の両親から目を逸らしてから言った。
「後で、部屋で開けるわ。」
「それで構わないよ。俺じゃなくて妹からのだから。」
ライリーの俺への態度の悪さの原因についてはジョニーからすでに聞き及んでいたのだ。
マフィン家ではアラバマ州立大への日本人と南高麗人の留学生を受け入れていたが、ライリーが南高麗人留学生にいたずら(レイプ未遂)をされたことがあったのだ。それも小学生に上がって間もないころとか。
未遂で終わったのが幸運なレベル。それ以降、アメリカ国内での事件を調べた結果、これは個人というよりは民族性の問題であることを悟ったジョニーは南高麗からの「男子」留学生の受け入れをやめたのだ。そして、ガレージの上の作業場を改造してそこを留学生用の部屋にして母屋と分離したのだ。
「同じような事件が全米の至るところで起きていたことがわかってなかった私たち親にも問題があったのだが。しかも彼は自分が『日本人』だと頑なに主張していてね。」
海外で悪いことをしてバレた時は「自分は日本人だ」と主張するように、という家庭教育が南高麗では一般的に広く行われているのは事実として知っていたが、こうやって我が身に跳ね返ってくると
さて、午前中は休養し、午後は軽くトレーニングをするために球場へ。
ついでに球団スタッフ用のお菓子も持っていく。意外に羊羹とかがウケがよかったりする。
「砂糖で甘く煮た豆のペースト」とか言うと「甘い豆なんて気持ち悪い」という否定的なリアクションをとる人もいるが食べたらハマる人もいるのだ。
球団内のジムで軽く汗を流しているとエレインがやってくる。
「健、スタッフに差し入れありがとうね。」
気にせんといてください。
「日本のお菓子美味しいわ。せっかくだから月末のメモリアルデーの試合で、健のイベントを何かやりましょう。」
メモリアルデーとは5月の最終日曜日。いわゆる戦没者記念日である。南部であるアラバマでは南北戦争の戦没者もあるので割と盛大にやるらしい。
「いや、俺は旧敵国の日本人ですが。」
エレインはそれを聞くと大声で笑う。
「まあ、そんな歴史もあったわねぇ。でも、今じゃアンタの人気でこの球団にお客さんを集めているんだから良いのよ。なんか良いアイデアない?」
「それなら由香に相談してみたら?」
俺は先日のお返しにと由香さんに面倒事をおっかぶせることにした。
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