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「…お帰りなさいませ、サガ様。久しぶりの人間界は如何でしたか?」
そう尋ねながらも麗しく笑うのは、その外見もがそれに比例した、美しい金髪の女性。
「……」
対して、自らの住む世界、そしてその住んでいる場所…
そして己の住む部屋へと戻ったサガは、赤と黒の二色で構成された室内で、その女性に優しい瞳を向けられながらも、口を開くこともなく黙りこくっていた。
「…サガ様…」
反応が返らないことから、その女性の表情は徐々に曇りを見せてゆく。
それにサガは、はっとしたように反応を見せると、その女性の顎を唐突に自らの親指で持ち上げ、そのまま荒々しく唇を重ねた。
「…っ、ん…」
女性が、ゆっくりとサガの体に手を回す。
しかしサガは、一頻り口付けると、静かにその女性の腕を解いた。
「!…サガ…様?」
「…、例の人間の側に、俺の兄が… 懐音がいた」
「!な… 懐音様が!?」
その女性は、ただでさえ大きめな目を、零れそうなまでに大きく見開く。サガは頑なに頷いた。
その瞳が、本来の魔が持つ…
闇を支配し、切り裂くような、鋭くも残酷な…
特有なものへと、徐々に変化を遂げてゆく。
「これは何者かに図られたと見るべきだろうな。
死神の長…あいつなら何か、こちらの知らぬ情報を知っているか、掴んでいるかしていそうだが…
とにかくこの件は、一度、父上に報告する必要がありそうだ…」
歯切れ悪く呟いたサガの瞳に、僅かながら薄冷めた狂気が投影される。
それに傍らの女性は、ぞっとしたものを自らに抱えながらも、それでもそんなサガをやんわりと抱きしめる。
サガは今度はその手を振り解かなかった。
それどころか、くすくすとさも楽しげに笑み、その湧き上がる感情を何かにすり替えたかのように、先程とは打って変わって、その女性と睦み始める。
…女性の美しい髪をその手に絡めながら、サガは緩やかに、見た者が瞬時に背を凍らせるような、冷酷な笑みを見せた。
「…兄上…
貴方に人間界は似合わない。
貴方と違って、人などはすぐに朽ちる…
貴方に相応しいのは、この世界。
──冥界の王の息子が住まう場に相応しいのは…
紛れもなく、この世界のみなのだから」
そんなサガの低い呟きは、いつしか女性の嬌声にかき消され、流れていった…
→TO BE CONTINUED…
NEXT:†忘却†
【後書き】
スペースが余ったので後書きです。
この小説は、私が書いているものの中では、長さ的にはかなり珍しい、中編あたりですね。
この内容では、短編では纏まらない、かといって長編にするほどでもなく、むしろそうしたら、だらだら書きになってしまうかと思い、結果的にこの長さになりました。
とはいえ、その中に得手なものは特にありません。
元々、一人称が得意ではないので、短編だとどうしてもその視点移動から、油断すれば長くなってしまうし、長編では下手をすると、大風呂敷を広げすぎて回収しきれなくなってしまう。
この作品は、個人的には長さでいえば、これでも短編寄りですが、まあ…伏線は張りましたが、それなりには纏まったのではないかと思えるものではあります。
とはいえ、ヒーローとヒロインの名前に同じ漢字、『音』を使ったことで、若干の紛らわしさは自分の中でもありましたね…
懐音はともかくとして、朱音の方は『茜』でも良かったのではないかと思われる方がおられるかとは思いますが、当時も今も、私は一文字の名前は、ほとんど使いませんので…
この作品に限っては、紛らわしいのは自分でも承知しておりますので、この場を借りてお詫び致します。
読みづらくて申し訳ございません。
ちなみにNEXTは、初っ端からヒロインが暴走していますので、ダークファンタジーの定義は何処に?な、状態になっておりますし、正直なところ、現時点で未だ完成には至っておりませんが、よろしければお目通し頂ければ幸いです。
ではまた次作品で…
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