第28話 第4階層 眷属


「ここが第四階層……ダンジョンの中に街がある……」


 ハヤトはあたり一面を見渡す。


 武器屋の看板に宿屋の看板。

 中世ヨーロッパ風の街並みが続いている。


「変ね……お店はたくさんあるのに誰もいないなんて……」


 リンは左右をキョロキョロして人を探す。


「ボクもそれが気になっていたんだ。ここらへんに生き物の気配はしない」


 ホノカは耳を澄ます。


「とにかく前に進むしかないな……」


 ハヤトは歩みを進める。


「フフフッ……みんなも既に気づいてるでゴザろう!? 拙者の刀が光っていることに!!」


 レンタロウは誇らしげに鞘に入った刀を掲げる。

 鞘から青白い光が漏れている。


「まったく……せっかくみんな見なかったことにしてたのに! どうせあんたの新スキルなんて役に立たないわよっ!」


 レナはレンタロウを睨みつける。


「心外でゴザル! この新スキルで強敵を倒せるかもしれぬでゴザルぞ?」


「どうせ『切腹』みたいに使えないスキルでしょ!? いいからさっさと先に進むわよ!」


「言ったでゴザルな? このスキルでレナ殿の窮地を救うことができても、助けてあげないでゴザルぞ!?」


「そんな状況絶対ないから大丈夫よ!」


「ぐぬぬ~……レナ殿、見るでゴザル! 拙者の新しいスキルを!!」


 レンタロウは刀を抜き、青白い光に包まれる。


「おめでとうございます! リーマン鈴木の討伐経験によりレンタロウさんは新スキル『燕返しつばめがえし』を習得しました」


 どこからともなく声が流れる。


「来たでゴザルゥゥゥウー!! あの大剣豪・佐々木 小次郎が得意とした剣技! 拙者もついに強力なスキルを体得したでゴザルぞ!! あれ? レナ殿はさっきなんて言ってたでゴザルかな~?」


 勝ち誇るレンタロウ。


「くっ……ま、まだ、スキルの説明が流れてないじゃないっ!」


「いやいや~レナ殿~往生際が悪いでゴザルぞー? 拙者の職業は武士。武器は日本刀。これで『燕返し』といったら一つしかないでゴザルよ!」


 レンタロウはニヤニヤしながらレナに詰め寄る。


「『燕返し』を発動すると、巣から落ちたツバメの赤ちゃんを安全に巣に戻すことができます」


「ほぇっ!?」


 ナレーションを聞いたレンタロウが間抜けな声を出す。


「へ~~、素敵なスキルねー。私の窮地をどうやって助けてくれるのかしら?」


 今度はレナが勝ち誇る。


「ぐぬぬぬ……き、きっと、悪い奴に魔法をかけられてレナ殿はツバメになってしまうでゴザルよっ! そこを拙者がこのスキルで助けるでゴザル!」


「どんな展開よ、それ! もうっ、あんたと話してるとレンタロウ菌が移るわっ! みんな、ツバメ侍は無視して先へ進みましょう!」


 レナはレンタロウを無視して先を急ぐ。



 ◇◆◇◆◇◆◇



 しばらく進むとハヤトたちは大きな広場に出た。


「あいつがここの敵か? 強そうだな……」


 ハヤトは広場の中央にいる大男に目を向ける。


 黒い甲冑を身にまとった騎士。

 漆黒の大剣を握っている。

 男には首から上が存在しない。


「頭のない騎士……デュラハンね。きっと強いわよ、みんな気をつけて」


 リンは手にしている古書を強く握る。

 古書の表紙には『剣豪列伝』と記されている。


「それにみて! あの太い腕に巨大な剣!! んんっ! どれだけ凄い攻撃なのかしらっ!? 盾の騎士として武者震いが止まらないわっ!」


 レナは頬を紅潮させ身もだえる。


「ほぅ……勇者たちよ、よくぞここまで辿りついた! ここがダンジョンの最下層。俺がこのダンジョンのボス・デュラハンだ!」


 頭のない騎士は大剣をハヤトに突きつける。


「ここが最下層! みんな、あいつを倒せばダンジョンをクリアできるぞ!」


 ハヤトはガッツポーズする。


「フッ……俺を倒すことができればなっ。それにしても、まさかリーマン鈴木がやられるとはな……んっ? 貴様、リーマン鈴木の生まれ変わりか!?」


 デュラハンは体をレンタロウに向ける。


「違うでゴザル! 拙者はレンタロウ! あんなオジサンとはなにも関係ないでゴザル!!」


「ほんとうにそうか? お前はリーマン鈴木にそっくりだが……」


「全然似てないでゴザルよっ! そもそも、デュラハン殿は目がないでゴザろう!?」


「たしかに俺には目がない。頭がないからな。しかし、だからこそ相手の本質が良くわかる! お前は間違いなくリーマン鈴木の後継者だ!!」


「言いがかりでゴザル! あんな男の後を継ぎたくないでゴザル! ハヤト殿、あいつをさっさとやっつけるでゴザル!!」


 レンタロウは涙目になってハヤトの後ろに隠れる。


「フッ……やれるものならやってみろ。だが、俺の眷属を倒せたならな。いでよ、シャドウ・ガーゴイル!」


 デュラハンが叫んだ。


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