第19話 第3階層 空想料理人 その2



「次は私の出番ンヌ」


 フランソワはドームカバーを開ける。


 皿の上に白いシチューが現れる。


「『ホロロ鳥のパンテューニュ』でありンヌ。さあ! マドモアゼル、召し上がれ!」


「美味しそうね……でも『ホロロ鳥』と『パンテューニュ』って何かしら?」


 リンはシチューを覗き込む。


「『ホロロ鳥』は常夏の楽園に生息してる鳥で、『ホロロ~ン♪』って鳴きンヌ。『パンテューニュ』の意味はないです。語感がいいだけンヌ」


「語感だけっ!? でも空想料理だからルール通りよね……」


 レナはシチューを口に運ぶ。


「美味しいっ! なんて柔らかいお肉なの! 一口噛むたびにホロロ鳥の『ホロロ~ン♪』って鳴き声が頭の中でこだまするわっ! それにこのクリーミーなスープ! 何とも言えない懐かしい味がするわ……」


「そのスープには『パンテューニュ』がどっさり入っているンヌ。パンテューニュ感がハンパないンヌ」


 フランソワは満足そうに何度も頷く。


「たしかに美味しいスープね。この味がパンティーニュ……」


 リンもスープをすする。


 電光掲示板に得点が表示される。


 味:80点

 想像性:60点

 合計:140円


「この勝負、私の勝ちンヌね」


 フランソワは得意げに胸を張る。


「なっ! 俺のライフがっ!!」


 ハヤトのライフが100から80に減る。


「勝負に負けるとダメージを受けるンヌ」


 ニヤッと笑うフランソワ。


「ハヤト殿、安心してくだされ! 次は拙者でゴザル。フランソワ殿より美味しい料理を作るでゴザル!」


 レンタロウはドームカバーに手を置く。


「あなたも作るの? あなたの料理を食べると変態がうつりそうで怖いのだけれども」


 リンは自分の体を抱きしめる。


「変態はうつらんでゴザル! それに拙者は変態ではゴザらん! 己の信じた道を突き進む求道者なるぞっ!」


「どんな道なのかしら?」


「エロス道でゴザル!!」


「道を間違えたわね」


「そんなことゴザらん! エロスとは人間の本質! この道を突き進めば、女子にモテモテでゴザル!」


「求道者のくせに下卑た動機ね。レンタロウくん、あなたには期待してないわ。さっさと不味い料理を出して頂戴」


 リンは指で机をトントンする。


「言ったでゴザルな!! 拙者の料理がフランソワ殿に勝ったら謝って貰うでゴザルよ!」


「いいわよ。まあ、あなたが美味しい料理を作れるなんて想像できないけれども」


「拙者だってやるときはやるでゴザル! これが本気になった拙者の実力でゴザル!!」


 レンタロウはドームカバーを開く。

 鍋が現れる。


「鍋ね……具材は何かしら?」


 リンは赤くて薄い肉のようなものをつまみ上げる。


「……レンタロウくん、これは一体なにかしら?」


 リンはつまみ上げたものをレンタロウに突き出す。


「エルフのおパンティーでゴザル! この料理は『エルフのノーパンしゃぶしゃぶ』!! エルフが脱いだパンツを鍋に入れて食す! これぞノーパンしゃぶしゃぶ!!」


「食べ物じゃないでしょうがぁぁああ!!」


「熱いでゴザルゥゥウウー!!!」


 レナはレンタロウの頭に鍋をぶっかける。


 味:0点

 想像性:80点

 変態性:100点

 合計:反則負け


 電光掲示板に表示される。


「食べ物じゃないから反則負けンヌ」


 フランソワは肩をすくめる。


 レンタロウのライフが80になる。


「次はボクの番か……2年B組 飯田 陽介、空想料理に挑戦します!!」


 ヨウスケはドームカバーを開く。

 皿の上にステーキが現れる。


「ヨウスケくん、これはなんて料理かしら?」


 リンはステーキをナイフで切りながら訪ねる。


「マンモスのステーキです! どうぞ召し上がれ!」


「『マンモスのステーキ』ねぇ……なんていうか、発想が普通ね……」


「味も普通よ。せいぜいファミレスのステーキってとこね」


 レナは肉を噛みながら評価する。


「えぇ! 普通じゃダメなの!?」


「ヨウスケくん、ダメじゃないわよ。でも……普通なキャラが普通の料理を出しても面白みがないじゃない?」


「そ、そんな! ボクに面白みを求めないでよっ!」


「まあ、普通の中の普通、ヨウスケが作ったならこんなもんか」


 レナはステーキの大部分を残したままナイスとフォークを置く。


「ボク、レナさんとリンさんになにかした!?」


「安心して、ヨウスケくん。あなたは普通で良いのよ。普通のキャラ。普通の成績で普通の大学に入る。普通の会社で普通に働く。そして普通に死ぬ。それがあなたよ!」


「普通に死ぬってなにっ!? ってかそんなに普通を連呼しないでよっ!」


 電光掲示板が光りだす。


 味:50点

 想像性:50点

 合計:100点


「得点もやっぱり普通ンヌね。さて、私の出番です。普通さんは下がってくださいンヌ」


「ボクの名前は『ヨウスケ』です!!」


「興味ないンヌ」


 フランソワはヨウスケを無視してドームカバーを開ける。


 煮立った白い鍋。

 一口サイズにカットされたパンと野菜が添えられている。


「『ミルクスライムのフォンデュ』でありンヌ。ミルクスライムは牛乳しか食べないスライムです。スライムの中でミルクが発酵して濃厚なコクを生み出すンヌ」


「チーズフォンデュのスライム版ね。甘い香りがするのね」


 リンはパンを鍋に浸し、口に運ぶ。


「意外ね……チーズみたいにしょっぱくない。むしろ甘くてデザートみたい。美味しいわ」


「私もそう思ったわ。お肉を食べたあとだから箸休めに丁度いいわ」


 レナも頷く。


 電光掲示板が光る。


 味:80点

 想像性:70点

 合計:150点


「あぁっ、ボクのライフが……」


 ヨウスケは頭を抱える。

 ライフが80になる。


「次はボクの番か……みんなのためにも頑張るよ!」


 ホノカはドームカバーを開く。


 緑色のソースのかかったステーキが現れる。


「『黒毛オークのマンドレイクソースがけ』だよ。さあ、食べてみてくれ!」


 ホノカはレナとリンの前に皿を置く。


 レナはステーキを口に運ぶ。


「えっ! お、美味しい……今まで食べたお肉の中で一番美味しいわっ!」


 レナはステーキをどんどん口に運ぶ。


「素晴らしいわ。黒毛オークの獣臭がマンドレイクのソースと調和してスパイシーないい匂いになっている」


 リンは深く頷く。


 電光掲示板が光りだす。


 味:95点

 想像性:80点

 合計:175点


「すごいよ、リンさんっ! 高得点だよ!」


 ヨウスケは目を丸くする。


「えへへっ、褒められると照れるなっ。ボクはたまに家で料理するんだよ」


 ホノカは恥ずかしそうに頬をポリポリとかいた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る