第18話 第3階層 空想料理人


「ここが第3階層か……普通のダンジョンって感じだな」


 ハヤトはダンジョンの中を歩きながら呟く。


 長方形の岩が積み重なってできたダンジョン。

 一本道がずっと続いている。


「油断禁物よ! 敵が襲ってくるかもしれないわ」


 レナは鋭い視線であたりを見渡す。


「レナ殿、安心するでゴザル! 拙者がついてるでゴザルよ」


「微塵も安心しないわよっ! むしろ私の足を引っ張らないでよねっ!?」


「拙者だってたまには役に立ってるでゴザル! そ・れ・に!! なんとなんと、新しいスキルを獲得してしまったでゴザルよ?」


 レンタロウは誇らしげに鞘に入った刀を掲げる。

 鞘から青白い光が漏れている。


「どーせ、役に立たないスキルでしょ?」


 ため息をつくレナ。


「そんなことないでゴザルよっ! きっと一撃必殺の強力なスキルでゴザル!」


「はいはい。誰も期待してないからさっさと剣を抜きなさいよ」


「ぐぬぬ……そう言ったことを後悔するでゴザルよっ! 見よ、これが拙者の新スキル!!」


 レンタロウは刀を抜く。

 青白い光にレンタロウは包まれる。


「おめでとうございます! 九尾討伐によりレンタロウさんは新スキルを習得しました。新スキルは『切腹』です」


 どこからともなく声が流れる。


「せ、切腹でゴザルかっ! なんてハードなスキルでゴザル……しかし、それに見合う効果があるでゴザルよっ!!」


「『切腹』を発動すると発動者のライフが0になります。その代わり、その場がちょっとしんみりします」


「「「「「「は?」」」」」」


 全員がハモる。


「おおお、おかしいでゴザルっ! 切腹して拙者のライフが0になるのに、効果は『その場がちょっとしんみり』でゴザルかぁ!!」


「レンタロウくん、落ち着いて。あなたが敵にやられても何も感じないわ。割り箸が綺麗に割れなかったときくらいの残念さね。でも切腹したらほんのちょっぴりその場がしんみりするのよ。凄い効果だと思わない?」


「思わないでゴザル! リン殿、拙者は割り箸じゃないでゴザルっ!」


「えいっ」


 リンは古書でレンタロウを殴る。


「あいたっ! な、なにするでゴザルか?」


 レンタロウのライフが100から99になる。


「レンタロウくんのライフは残り少ないわ。そろそろ『切腹』を使ってもいいのよ? 遠慮しないで頂戴、レンタロウくん」


「拙者はまだピンピンしてるでゴザル! リン殿はどれだけ拙者を殺したいでゴザルかっ!!」


 他愛もない会話をしながらハヤトたちはダンジョンを突き進む。



 ◇◆◇◆◇◆◇



「なんだこの建物は?」


 ハヤトは目の前の建物を見つめる。


 建物はダンジョンを塞いでいる。

 看板には『空想料理レストラン』と書かれている。


「嫌な予感しかしないけれど……入るよりほかに選択肢はないわね」


 リンは古書を握り締める。

 表紙に『四字熟語辞典』と書かれている。


「みんな、準備はいいかっ? 入るぞっ!」


 ハヤトはみんなに目配せする。


 みんなが頷く。


 ハヤトたちはレストランに突入する。


「キッチン……?」


 ハヤトは怪訝な顔をする。


 色とりどりの野菜に果物。

 肉に魚。

 調理器具も綺麗に並べられている。


「良くここまで来たンヌ。私がこの階層の門番、空想料理人・フランソワですンヌ」


 金髪碧眼の男がキッチンの真ん中に立っている。

 白くて長いコック帽。

 白い調理服を着ている。


「どこからでもかかってこい! 俺たちはダンジョンをクリアする!!」


 ハヤトは拳を前に突きだす。


「落ち着いてくださいンヌ。ここでは私のルールで戦ってもらいます。私には物理攻撃は効かないし、魔法も使えないンヌ」


「一発必中! ……あれ?」


 ホノカが放った矢は床に落ちる。


「フランソワの言ってることは本当のようね。私の本も開けないわ……」


 リンは古書を開こうと両手に力を入れる。


「ここでの勝負は空想料理でありンヌ。私よりも美味しい空想料理を3つ作ることができたら、階層のボスに会わせてあげるンヌ」


「本当だな!? どうやって空想料理を作ればいいんだ?」


 ハヤトは食材と調理器具を見つめる。


「作り方は簡単ヌ。このドームカバーに手を置いて想像するだけです。試しにショートケーキを想像してみるンヌ」


 フランソワは金属製の半球型ふたに手をおく。

 フタを開けるとショートケーキが現れた。


「えっ? あの……食材とか調理器具とかいらなくないですか?」


 ヨウスケは整然と並んでいる食材と調理器具を指さす。


「……ワタシ、日本語分かりませンヌ」


 フランソワは肩をすくめる。


「さっきペラペラ喋ってましたよね?」


 ヨウスケは聞き返す。


「ナンノコトデスカ? ホント、ニホンゴ難しいンヌ」


「いや、このキッチンとか意味あるのかなーって思って……」


「ダ・カ・ラ! ニホンゴ、わからないヨ! しつこいよ! 御託を並べるな! 地獄に落ちろっ!!」


「えぇっ? キレられたっ!!」


 フランソワに親指を下に向けられ、ヨウスケは叫ぶ。


「そこの二人は審査員になってもらうンヌ。嘘をついても無駄ンヌよ」


 フランソワに促されてレナとリンは審査員席に移動する。


「まずはキミからンヌ。実在する料理はダメです。味と想像性の二つで点数が決まりンヌ」


 フランソワは皿に乗ったドームカバーをハヤトに渡す。


 ハヤトはドームカバーに手をおく。

 目を閉じて料理を空想する。


「できた!」


 ハヤトはレナとリンの前でドームカバーを開ける。


 ワイングラスに入った青色の液体が皿の上に現れる。


「『ごんぶとソーダ』だ! さあ、新鮮なうちに飲んでくれ!」


「『新鮮なうち』ってどういう意味よっ! ってか『ごんぶと』ってなにっ?」


 青色の液体をレナは気持ち悪そうに見つめる。


「山奥にいる青色の珍獣『ごんぶと』を搾って作ったソーダだ。『ごんぶと』はちょっと搾ったくらいじゃ死なないから安心してくれ!」


「『ごんぶと』の心配なんてしてないわよっ!」


「でも、搾る時に『プギャーッ!!!』って鳴くんだぞ!?」


「どうでもいいわよっ!!」


 レナは机を叩く。


「なかなかいい出来ンヌ。料理を細部まで空想しているのがトレビアーン!!」


 フランソワは拍手する。


「気乗りはしないけど……リン、いくわよっ」


 レナはリンと目配せし、ごんぶとソーダを飲む。


「ん……不味くはないわね。けっこう甘いわ」


 レナは意外そうにごんぶとソーダを見つめる。


「そうね。でも微かに獣臭がするわね……。搾りたてなら臭みがないかもしれないわね」


 リンはグラスに鼻を近づける。


 ピカッ! ピカッ!


 審査員席の後ろにある電光掲示板が光りだす。


 味:40点

 想像性:80点

 合計:120円


 電光掲示板に得点が表示される。


「次は私の出番ンヌ」


 フランソワはドームカバーを開けた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る