第15話 第2階層 ボス


「みんな、気をつけるんだっ! あの神社の中から凄まじい気配を感じる……。敵はあの中にいるよっ!」


 ホノカは弓を引いて神社の扉に狙いを定める。


「良くここまで来よった! わらわがこの階層のボス・九尾きゅうびじゃ」


 神社の中から声が聞こえる。

 神社の扉がゆっくりと開く。


「先手必勝! 一発必中!!」


 ホノカは矢を放つ。


「フン、小娘が……妖術・火達磨ひだるま!」


 扉の奥から炎が噴き出す。

 矢は跡形もなく燃え尽きる。


「このわらわが倒せるかのう?」


 扉の向こうから巨大な狐が姿を現す。

 2m近い体高。純白の毛並み。

 九本の尻尾がヒラヒラと揺れ動く。


「『九尾の狐』……中国神話の霊獣ね。知性があって妖術も使えるなんて、厄介な相手ね……」


 リンはため息をつく。


「妖術使いの狐でゴザルか……。拙者に任せるでゴザルよ」


 レンタロウは親指を立てる。


「レンタロウくん、懲りないのね。レンタロウくんが何をやっても無駄だと思うわよ」


「リン殿、拙者には秘策があるでゴザルよ。成功すれば、拙者たちの攻撃力がアップするでゴザルよ!」


「凄いな! でもお前にそんなスキルないよな?」


「ハヤト殿、落ち着くでゴザル。拙者の秘策をしかと見届けるでゴザルよ☆」


 レンタロウは勝ち誇った表情で髪をかきあげる。

 九尾に向かって悠然と歩いていく。


「ほう。わらわを前にしても臆さぬとは大したやつじゃの」


 九尾はレンタロウを凝視する。


「九尾殿は狐でゴザルな? ならば他の生き物に化けれるでゴザルか?」


「当然じゃ。化けるのは狐の十八番おはこ。わらわは千年生きた狐の霊獣じゃぞ。化けることなぞ朝飯前じゃ」


「フッ、それは頼もしい限りでゴザルな……」


 レンタロウはゆっくりと地面に膝を着く。


「後生でゴザル!! 裸エプロンの金髪美女に化けて下され!!!」


 レンタロウは土下座する。


「……は? そ、そなたは何を言っておるのじゃっ!?」


「九尾殿が裸エプロンの金髪美女に化けてくれれば、拙者たちの戦うモチベーションが上がるでゴザルよっ!! 九尾殿だって、どうせなら強い相手と戦いたいでゴザろうっ!!」


「たわけ者がっ! わらわは変態となんぞ戦いたくないわっ!!」


「そこをなんとかっ! 現実世界に戻ったら、近くの神社に油揚げを奉納するでゴザルよっ!!」


「油揚げは最初の300年で食べ飽きたわっ! 去るがよい、変態侍よ!」


 九尾の前に火の玉が一つ現れる。

 レンタロウに向かって火の玉が放たれる。


「ひ、ひぃ~~! 怖いでゴザル~!!」


 レンタロウは光の速さでハヤトたちのもとに逃げ戻る。


「ハヤト殿、ヨウスケ殿、すまぬ!! 二人の願いは叶えられなかったでゴザル!」


 レンタロウはハヤトとヨウスケの肩に手を置く。


「「頼んでない!」」


 ハヤトとヨウスケはレンタロウの手を払う。


「俺が攻撃する! ホノカは援護を頼む。レナはヨウスケとリンを守ってくれ!」


「分かったわ! 任せなさいっ」


 レナは深紅の盾を前に突き出す。


「ヨウスケとリンは待機してくれ。ふたりともあと1、2回しか魔法を使えないからな。いざとなったら魔法を頼む」


 ヨウスケとリンはハヤトの指示に頷く。


「ハヤト殿、拙者はどうすればよいでゴザルか?」


「えっと……お前はライフがあと15だ。一撃食らったら終わりだからレナの後ろで待機しててくれ」


「御意! レナ殿の見事なお尻を凝視するでゴザル!」


「やかましいっ!」


斎藤 一さいとう はじめ!!」


 レナに盾で殴られるレンタロウ。


「みんな、準備はいいなっ! いくぞっ!!」


 ハヤトは九尾めがけて一直線に突き進む。


「火達磨!!」


 九尾の口から炎が噴き出す。


 「あぶねっ!」


 ギリギリでかわすハヤト。

 そのまま前進して九尾の胸にパンチを打ち込む。


土盾どじゅん!!」


 九尾の足元から土が盛り上がり壁となる。


 ハヤトの拳は壁にぶつかる。

 壁は壊れるが、九尾には届かない。


 ニヤリとする九尾。

 右前足を大きく振り上げ、ハヤトに狙いを定める。


「なっ! こざかしい真似をっ!」


 九尾の右前足に矢が突き刺さる。

 動きが一瞬止まる。

 その隙にハヤトは攻撃をよける。


「息のあった素晴らしい攻撃じゃのう」


 九尾は右前足に刺さった矢を抜く。

 ライフが95になる。


「まずはそなたが邪魔じゃのう」


 九尾はホノカをジッと見つめる。


「そうはさせるかっ!」


 ハヤトは九尾に回し蹴りを打ち込む。

 九尾はハヤトの攻撃を後ろに飛び跳ねてかわす。


「蟻地獄!」


 九尾は呪文を唱える。


 ハヤトの足元に大きな蟻地獄が現れる。

 サラサラの砂はハヤトの足を飲み込む。


「そなたの相手はあとでしてやるぞ」


 勝ち誇った顔で九尾はハヤトを飛び越える。

 ホノカに向かって突き進む。


「くそっ、待ちやがれっ!」


 ハヤトはなんとか蟻地獄を脱出する。

 全力で九尾のあとを追う。


「一発必中!」


 ホノカは迫りくる九尾に矢を放つ。


「フンっ!」


 九尾は左前足でたやすく矢を撃ち落とす。


「受けてみよ! 火達磨!!」


 九尾はホノカに向かって口を大きく開く。


「させるかぁぁぁあ!!」


 ハヤトは九尾に飛びつく。


「かかりおった!」


 九尾は首を曲げて後ろを振り向く。

 ハヤトめがけて炎を吐く。


「ぐぁああっ!!」


 ハヤトは炎に包まれて後ろに吹き飛ぶ。

 ライフが30になる。


「ハヤト先輩ー!!」


 ホノカが叫ぶ。


「フフフ……バカ者めが。仲間を思うあまり冷静な判断を欠くとはのう……」


 九尾はゆっくりとハヤトに近づいてゆく。


 ハヤトは地面に倒れたまま起きない。

 気を失っている。


「ボ、ボクが魔法を使うよ! バロンくん、ハヤトくんを目覚めさせる魔法をお願い! ランダム魔法!!」


 ヨウスケは杖を高く掲げる。

 ヨウスケのマジックポイントが40になる。


 杖の上に文字が浮かび上がる。


『魔法:朝ナンデス!』

『発動条件:前回指名した一番タイプな女性をくっさいセリフで口説け』


「来たぜ、朝ナンデス! これならハヤトの旦那も目を覚ますぜ、相棒!!」


「うーん……なんか毎回思うけど、発動条件がヒドすぎないっ!?」


「分かってねぇな、相棒は! 魔法は強力な武器だぜ! どんな状況でも覆せる力がある。そんな強力な魔法が簡単に使えるわけねぇだろう!」


「理屈は分かるんだけど……なんか釈然としないな~」


 腕を組むヨウスケ。


「ヨウスケ先輩! 早くしてくれ! ハヤト先輩が九尾にやられてしまうよっ!!」


 ホノカがヨウスケにしがみつく。


「ホ、ホノカさんっ! 顔がち、近いよっ! わかってるよ、ボクやるよ!」


 ヨウスケは顔を赤くする。


「ありがとう、ヨウスケ先輩! 恩に着るよ!」


 ホノカはヨウスケを抱きしめる。


「えっ! ちょっと、あのっ……アワワワワ」


 ヨウスケの顔がますます赤くなる。

 ホノカの胸がしっかりとヨウスケに当たっている。


「2年B組 飯田 陽介、くっさいセリフでホノカさんを口説きますっ!!」


 ヨウスケは地面に生えているタンポポの花を摘む。

 花をホノカの目の前に持ってくる。


「ホノカさん! き、キミの瞳に乾杯☆ ボクと一緒にアバンチュールに出かけよう!!」


 顔を真っ赤にするヨウスケ。


「えっ、あ……うん」


 ホノカは少し困った顔をする。


「うわっ……聞いてるこっちが恥ずかしいわよっ!」


 レナは耳を赤くする。


「プーッ! クスクスッ! いや~ヨウスケ殿はロマンテックでゴザルな~」


 レンタロウは口に手をあてて笑う。


「ヨウスケくん、飲み物も持たずに『乾杯』とはどういう意味かしら? それともヨウスケくんにとってタンポポは飲み物なのかしら? きっとお花を飲み過ぎて頭の中がお花畑になってしまったのね」


「リンさん、可哀そうな人を見る目でボクを見ないでよっ! みんなのために頑張ったんだよっ!?」


「あら、ごめんなさい。あんまりにもクサかったから、ついイジりたくなってしまったわ」


 リンは自分の頬に手を添える。


「相棒、さすがだぜぇ! あんなくっさいセリフ、相棒じゃなきゃ言えねえぜ! よっ、日本一!!」


「全然嬉しくないよっ!!」


「そう照れなさんな! 相棒は男の中の男……いや、クサさの中のクサさだぜ!」


「照れてませんけどっ!?」


「とにかく発動条件クリアだぜ! いくぜ! 朝ナンデス!」


 バロンの掛け声とともに空中に巨大な目覚まし時計が現れる。


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