第13話 第2階層 吊り橋


 吊り橋の下は深い谷。

 谷底には濁流が流れる。

 吊り橋に手すりはなく、落ちれば命はない。


「ここは危険でゴザル! 男女ペアで吊り橋を渡った方が良いでゴザルよ! か弱い女子を守るのは男子の役目!」


「あなたは吊り橋効果を期待しているだけでしょう? でもね、それは同じ種族間での話よ。残念だけれども、人族と資源ゴミ族の間では恋愛感情は生まれないわ」


「リン殿!? だから拙者は人間でゴザルっ!! 資源ゴミ族ってなんでゴザルか!?」


「大声出さないでちょうだい。不燃ゴミ族へ降格させるわよ?」


「そんな種族ないでゴザルっ!!」


「降格確定ね……。その反抗的な態度により二階級降格を言い渡すわ。レンタロウくん、今日からあなたは資源ゴミ族からレンタロウ族に降格よ!!」


「レンタロウ族!? 不燃ゴミ族のほうが階級が高いでゴザルかっ!!」


「当然よ。だってレンタロウ族よ?」


「何が『だって』でゴザルかっ!?」


「二人とも、そこまでよっ! 気持ち的にはリンの言い分に賛成だけど日本は法治国家よ。レンタロウも法律的にはギリ人族よ。それよりさっさと橋を渡ってもっと強い刺激……いえ、敵を倒すわよっ!」


 二人を止めに入るレナ。


「そうだな、先を急ごう。でも男女二人組はいい案だと思うぜ。何かあったときお互いに助け合えるしな」


「ボクもハヤト先輩の意見に賛成だ。罠があるかもしれないよ! 助け合おうじゃないかい!」


「みんなもそれでいいか?」


 ハヤトはみんなに確認する。

 みんなは頷く。


「じゃあ、ジャンケンして同じ手になった二人がペアだ。いくぞ! ジャンケン、ポン!」


 ハヤトの掛け声に合わせてみんなが手を出す。


「やった! ボクはハヤト先輩とだ!! キミと一緒ならボクは地の果てだって行くよ。今度はボクがキミを守るんだ。ボクはキミの絶対的味方だからね!」


 ホノカは親指を立てる。


「チョキを出すなんて人生最大の不覚だわ……」


 リンは自分の手を見つめる。


「そこは喜ぶところでゴザルよ! 拙者は武士。弱きを助け強気をくじく男でゴザルぞ!!」


 レンタロウは誇らしげに胸を張る。


「レナさんはボクとだね。よろしくね!」


「よろしく、ヨウスケ。私は小学生には見えないと思うけど、呪うならパーをだした自分を呪ってちょうだい」


「えぇ! それまだ引っ張るの!? ボク、魔法使うのが怖くなって来たんだけどっ!?」


 アタフタするヨウスケ。


「いくぞ、みんな!」


 ハヤトとホノカが二人並んで吊り橋をゆっくりと進む。

 次にレンタロウとリン、最後にヨウスケとレナのペアが続く。


「今は橋の真ん中あたりか。揺れるけどなんとか進めてるな。手すりがないから落ちたらアウトだけどな……」


 ハヤトは対岸を見つめる。


「……ん? ハヤト先輩、何か聞こえないかい?」


「……いや、俺には何も聞こえないけど」


「そうかい? なんかこう……風を切るような音がするんだ。ハッ! まさかっ!!」


 真上を見上げるホノカ。


 4つの真っ黒な物体が急降下して来る。


「しまったっ! 罠だよっ!! 一発必中!!」


 ホノカの放った矢は黒い物体に向かって飛んで行く。


「ギャァァアアッ!!」


 矢が黒い物体に突き刺さる。

 黒い物体は鳴き声をあげて煙となる。


「巨大なカラスだ!! あと三匹! みんな、攻撃をよけるな! 吊り橋を壊されるぞ。あいつらが吊り橋に到達する前に迎え撃つんだ!!」


 ハヤトは叫ぶ。


 一匹の巨大カラスがくちばしを真下に向けてハヤトの上に落ちてくる。


「さぁぁあ!!」


 巨大カラスのくちばしがハヤトに触れるよりも早く、カラスの眉間にハヤトはパンチを打ち込む。


「カァアアアッ―!!」


 巨大カラスは黒い煙となって消える。


「あぁっ! 凄い衝撃!! 重力加速度ってす、凄いわっ!!」


 レナは巨大カラスを盾で受け止める。

 レナの頬は紅潮し、瞳はうっとりしている。

 衝突の衝撃でカラスは煙となる。


「あと一匹! 俺じゃ間に合わないっ! レンタロウ、頼むぞ!!」


 ハヤトは最後のカラスに向かって走る。

 カラスはレンタロウの真下に落ちてくる。


「任された! いくでゴザルよ! スキル・真剣白刃取り!!」


 レンタロウは頭の前で手のひらを重ねる。

 カラスのくちばしを受け止めようとする。


 ドンッ!!


 目を開けるレンタロウ。

 両手にはカラスのくちばしが挟まっている。


「レンタロウ、ナイス!! せいっ!」


 くちばしを挟まれて動けないカラスにハヤトは蹴りを入れる。

 カラスは煙となる。


「見たでゴザルか~? 拙者だってみんなの役に立ってるでゴザルよ?」


 レンタロウはニヤニヤしながらリンに詰め寄る。


「……悔しいけど、レンタロウくんに助けられたのは事実ね。さっきは言い過ぎたわ。ごめんなさい」


 リンは頭を下げる。


「そ、そんなっ、いいでゴザルよっ」


「いいえ。私は助けられた身……誠意をもって対応したいの。レンタロウくん、改めて本当にありがとう。お礼に昇格させます。レンタロウ族から不燃ゴミ族へ昇格よ!」


「誠意はどこにいったでゴザルかぁぁぁああっ!?」


「あら? 階級が一つ上がったのよ? 一体何が不満なのかしら?」


「もっとカッコイイ族が良いでゴザル! サムライ族とかないでゴザルかっ? 拙者の刀さばきを見るでゴザル!」


 レンタロウは刀で空中を切りつける。


 ピュッ!!


「えっ……?」


 ホノカは態勢を崩しながら短い声を発する。

 足にイカ墨がベッタリくっついている。


 ホノカの体が完全に浮き、吊り橋から落ちる。


「ハヤト、セン……パイ……」


 ホノカは遠ざかっていく吊り橋を見上げながら右手を伸ばす。



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