第7話 第1階層 ボス


 地面から単眼の巨人が現れた。


「ギリシア神話に登場する怪物サイクロプスね。あの巨体、そうとう強いわね……」


 リンはサイクロプスを睨む。


「ボクに任せてっ! 先手必勝だよ! 一発必中!!」


 ホノカはサイクロプスの単眼めがけて矢を放つ。


 こん棒を一振りしてサイクロプスは矢を弾き返す。


「これでどうだっ!!」


 その隙にハヤトがサイクロプスの腹に正拳突きを打ち込む。


 サイクロプスのライフが100から97に減る。

 ハヤトの攻撃でもサイクロプスは微動だにしない。

 一つしかない大きな目でハヤトを睨む。


 サイクロプスのこん棒がハヤトに向かって打ち下ろされる。


「危ないっ! 私に任せてっ!!」


 レナはハヤトの前に立つ。

 サイクロプスの一撃を盾で受けとめる。


 ブラウスのボタン全てが光ったあとに弾け飛んだ。

 レナの豊満な胸やスラっとしたお腹があらわになる。

 ブラウスの下には真っ赤なビキニトップスを着ている。


「ヒャッホーー!! ナイスでゴザるっ、サイクロプス殿!!」


 レンタロウはガッツポーズする。


「バカ言わないでっ!! こいつほんとにヤバいっ! 凄いパワーよっ! こんなの何度も防げない……。みんな、できるだけ攻撃を避けるようにしてっ!!」


 レナの額に汗がにじむ。

 こん棒を受け止めている腕がカタカタ震えている。


 「わかったよ! 一発必中!!」


 ホノカは矢を放ち、サイクロプスの左肩に命中させる。

 サイクロプスのライフが97から96になる。


 サイクロプスはホノカめがけてこん棒を水平に振る。


「あぶないっ、ホノカ!!」


 ハヤトはホノカを押し倒してこん棒をかわす。


「ヤレヤレ……しょうがないでゴザルな。そろそろ拙者の出番でゴザルな……」


 レンタロウは刀を抜く。


「早まるな、レンタロウ! お前のライフはあと50。サイクロプスの一撃で終わる可能性があるぞっ!!」


「ハヤト殿、安心するでゴザル。一撃で終わるのはサイクロプスのほうでゴザルよ。拙者、まだスキルを使っておらぬよ? スキル『イカ墨』でサイクロプスは終わりでゴザル!!」


「何言ってんだ! イカ墨でサイクロプスを倒せるハズないだろっ!!」


「落ち着くでゴザルよ。スキル名が『イカ墨』なだけでゴザル。多分、刀を振ったら漆黒のドラゴンが召喚されるでゴザル。それか青色の魔人が出てきて願い事を三つ叶えてくれるでゴザルよ」


「お前が落ち着けっ!! ってかせめて前を向けよっ!」


 レンタロウはサイクロプスを目の前にしてずっと横を向いている。視線の先はブラウスのはだけたレナの胸だ。


「サイクロプス殿にはもう少しレナ殿を攻撃して欲しかったでゴザルが……。しょうがない。この一撃で楽にしてあげるでゴザル!」


 レンタロウはサイクロプスの懐に飛び込む。

 サイクロプスはこん棒を水平に振り回す。


 レンタロウは高くジャンプしこん棒をかわす。

 サイクロプスの顔の前におどりでる。


「さらばでゴザル!! 上杉流奥義・イカ墨!!」


 レンタロウは刀を振りぬく。


 ……ピチャ。


 刀の先っぽからコップ一杯ほどのイカ墨が飛びだしサイクロプスの額に付着した。


 ……何も起きない。


 サイクロプスの額からほんのり磯の香りがする。


「しっ、信じられぬっ!! こ……これ、本当にただの『イカ墨』でゴザル……」


 涙目でレンタロウはハヤトたちを振り返る。


「信じられないのはお前の思考だよっ! いいから早く戻ってこいっ!!」


 ハヤトは叫ぶ。


 サイクロプスは長い舌で額を舐めて、イカ墨の味を楽しんでいる。


「ひ、ひぃぃぃ~~!! 怖いでござるよ~ハヤト殿~~~!」


 レンタロウは腰を抜かして四つん這いになって逃げる。

 レナの後ろに隠れた。


「火力が必要ね……これなんてどうかしら? 具現化! 爆弾スライム!!」


 リンの古書から十数匹の真っ赤なスライムが飛びだす。

 サッカーボールほどの大きさだ。

 リンのマジックポイントが70から30になる。


 爆弾スライムたちはぴょんぴょん飛び跳ねながらサイクロプスに近づく。


 サイクロプスがこん棒で先頭の爆弾スライムを叩きつぶした瞬間――


 爆弾スライムは爆風とともに爆発する。

 サイクロプスのこん棒が弾き返される。


 残りの爆弾スライムはサイクロプスの体中に張り付く。

 サイクロプスは爆弾スライムを引きはがそうとする。

 爆弾スライムに触れた瞬間――


 爆弾スライムが爆発する。

 他の爆弾スライムも連鎖的に爆発する。


 「アガガァァァァアアー!!」


 全身が炎に包まれ、サイクロプスは身もだえる。

 ライフが96から70になる。


 サイクロプスはハヤトたちを睨む。こん棒を振り上げた。


 「みんな、よけてっ! あいつの攻撃を何度も防げないわっ!」


 レナは叫ぶ。


 こん棒が振り下ろされる。


 ハヤトたちは右に飛び跳ねてかわす。

 こん棒は床に激突し、床の破片があたりに飛び散る。


 サイクロプスは攻撃を続ける。

 こん棒をハヤトたちめがけて水平に振る。


 ハヤトたちはジャンプしてこん棒を避ける。


 サイクロプスがニヤリとする。

 こん棒を握っていない左手を打ち下ろす。


 ハヤトたちはジャンプ中で避けられない。


「私が防ぐわっ!」


 レナは盾を上に向け、サイクロプスの左手を弾き返す。

 レナのブラウス全体が光る。ブラウスが飛び散る。

 レナの上半身は真っ赤なビキニトップスだけだ。


 全員が地面に着地する。


 サイクロプスは再びこん棒を振り上げる。


「なに見てんのよっ!! 早く攻撃を避けないとっ!」


 レナはハヤトたち男性陣を睨む。

 ハヤトたちの視線はレナの体にくぎ付けだ。

 サイクロプスの攻撃に気づくのが数秒遅れる。


 こん棒が打ち下ろされる。

 攻撃を避けられない。


「まったく……これだから童貞は困るわね。具現化! 風船スライム!!」


 リンがため息混じりに本を開く。

 一匹の白いスライムが本から浮かび上がる。

 リンのマジックポイントが30から0になる。


 スライムは勢いよく空気を吸い込み巨大化する。

 ハヤトたちを包み込んだ。


 こん棒がスライムに直撃する。


 パンッ!!


 爆風とともに風船スライムが弾け散り、こん棒を弾き返す。

 爆風でハヤトたちは部屋の隅まで飛ばされた。


 サイクロプスがハヤトたちの前に立つ。


「しまったでゴザルっ! 隅に追い詰められた!! リン殿のマジックポイントも0でゴザル……」


 レンタロウは涙目になる。


「部屋の隅に追い詰められたのも、私のマジックポイントが0になったの、あなたたち童貞男子が逃げ遅れたからでしょう?」


「ど、どどど童貞なんてひとぎぎが悪いでゴザルっ!」


「そ、そうだ、リン! 今はお前の邪推に付き合っている暇はないっ! そんなことよりこの窮地をなんとかするぞっ!!」


 ハヤトも続く。


 サイクロプスがこん棒を打ち下ろす。

 ハヤトたちは避けられない。


「ふざけんじゃないわよっ! こうなったらやけよっ!!」


 レナはこん棒を受け止める。

 レナの真っ赤なミニスカートが光り、弾け散った。

 真っ赤なビキニボトムスがあらわになる。


「れ、れ、レナ殿はもうビキニしか着ていないでゴザルゥ!! 次に攻撃を受けたらどうなってしまうでゴザルかぁぁぁあー!?」


 頬を紅潮させたレンタロウは心底嬉しそうに叫んだ。


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