第6話 第1階層 ゴーレム その2


「フッ……そろそろ拙者の出番でゴザルか」


 レンタロウは静かに日本刀を抜く。

 ゴーレムと対峙する。


「あんたの出番なんてないわよっ! 邪魔だから引っ込んでなさいっ!!」


「レナ殿、拙者を案じてくれるのは嬉しいでゴザル。誰だって惚れた男が怪我するのは見たくない。しかし、拙者は武士! 敵から逃げるなどという醜態を見せるわけにはいかぬでゴザルっ!!」


「微塵も惚れてないんですけどっ!? ってかさっきから醜態しか見てないわよっ!?」


「自分を誤魔化そうとしても、自分の心に嘘はつけないでゴザルよ、レナ殿?」


 髪をかきあげるレンタロウ。

 勝ち誇った目でレナを見つめる。


「私はすっごく自分の心に素直ですけどっ!? それとさっきからチラチラと私の胸元をみてんじゃないわよっ!!」


 レナは盾で自分の胸元を隠す。


「愛する女性たちのため……いざ、尋常に勝負でゴザルっ!!」


 レンタロウは頭の上で刀を構えた。


 ゴーレムが大ぶりの右パンチを繰り出す。

 レンタロウは右ステップでパンチを避ける。

 ゴーレムに隙が生まれる。


「もらったでゴザルゥゥウ!! 必殺・一刀両断!」


 レンタロウは刀を真っ直ぐ振り下ろす。

 刃がゴーレムの額に直撃する。


「ふん……つまらぬものを斬ったでゴザル……」


 刀を鞘に戻すレンタロウ。

 振り返ってゴーレムを確認する。


 ゴーレムはピンピンしていた。

 ライフが10から7になっている。


「ほぇっ? そんな……拙者の刀は直撃したでゴザルよっ!? たったの3しかライフが減ってないでゴザルかっ!?」


 レンタロウは取り乱す。

 ゴーレムはレンタロウを捕まえようと手を伸ばす。


「ひ、ひぃ~っ!! 怖いでゴザル~~っ!! ここは戦略的な撤退でゴザルゥゥゥー!!」


 レンタロウは敵に背を向け一目散いちもくさんに逃げだす。


「は、はやいっ!! あいつ、逃げ足だけは武闘家の俺より早いぞ……」


 ハヤトが目を丸くする。


「あんたの相手はこのわたしよっ! よそ見してるんじゃないわよっ!!」


 レンタロウに気を取られているゴーレムの横腹に、レナが盾をぶつける。


「モガァァアー!!」


 ゴーレムのライフが0になり、煙となって消える。


「ふふふ……拙者の攻撃がやっと効いてきたようでゴザッたな! 拙者の攻撃は『お前はもう死んでいる』的な感じで時差攻撃なのかもしれぬ」


 レンタロウはやりきった表情で汗をぬぐう。


「私がおもいっきり盾で攻撃しましたけどっ!? 胸元を覗き込むなっ!!」


 レンタロウの頭をレナは盾で殴る。


「ペルゥゥゥー!!」


 レンタロウのライフが60から50になる。


「あらっ、仲間を攻撃してもライフが減るのね! 良いこと知ったわ。これでさっきからチラチラ見てくる男子を思うぞんぶん殴れるわっ!」


 レナがニヤニヤしながらハヤトとヨウスケに視線を向ける。

 二人はとっさに視線をそらす。


「と、とにかく敵は残り一体だ! 俺とホノカで倒す! みんなはマジックポイントを温存してくれっ!」


「ハヤト殿、拙者は攻撃に参加したほうが良いではゴザろうか? 時差攻撃によって敵はもがき苦しむでゴザろう!!」


「え、あっ、いや……レンタロウもその……いろいろ温存しておいてくれ! イカ墨も貴重だしなっ!!」


「しょうがないでゴザルな~。拙者のイカ墨はもしものために温存するでゴザルぞっ!!」


「どんなもしもよ、それっ!! いいからあんたは黙ってなさいっ!」


 レナはレンタロウを睨む。


「いくぞ、ホノカ! 俺がゴーレムを攻撃する! ホノカは弓で援護を頼むっ!」


 ハヤトはワンステップでゴーレムの前に躍りでる。

 ゴーレムの腹に正拳突きを食らわせる。


「グゴォォォオー!!」


 ゴーレムは唸り、ライフが100から50に減る。右手を大きく振り上げハヤトに向かって打ち下ろす。


「そうはさせないよっ! 今度はボクがハヤト先輩を守るんだっ! 一発必中!!」


 ホノカは矢を放つ。

 矢はゴーレムの右手にあたり、ゴーレムの攻撃を弾き返した。


 ゴーレムのライフが50から20に減る。


「サンキュー、ホノカ! 助かったぞっ!!」


「もちろんだよ! 今朝、言ったじゃないか。ボクはいつだってキミの絶対的味方だって」


 ホノカはニッコリと微笑む。


「とどめだっ!!」


 ハヤトはゴーレムの懐に潜り込む。

 左拳を突き上げてゴーレムの顎を打ち抜く。

 ゴーレムの首が後ろにのけ反り、そのまま地面に倒れる。

 ライフが0になり、煙となって消えた。


「さすがハヤト先輩だっ! 見事な攻撃だったよ!! 早くキミのスキル『憤怒の拳』が見てみたいよっ!!」


 ホノカはハヤトに抱きついてぴょんぴょんと嬉しそうに飛び跳ねる。


「おっ、おい! いいから一旦離れろっ!! みんな見てるぞっ!」


 顔を赤らめるハヤト。

 ハヤトの体にはホノカの柔らかい胸が押し付けられている。


「それにしてもっ! ハヤト先輩は移り気じゃないのかい!? ボクというものがありながら、レナ先輩の胸元をチラチラ見るなんて! 今朝だって道端でいきなりボクの胸を揉みしだいたばかりじゃないかい?」


 ホノカはハヤトに抱きついたまま頬を膨らます。


「ハヤト殿……今なにか戯言が聞こえた気がしたが……。拙者の気のせいでゴザルな?」


 レンタロウが後ろからハヤトの肩に手を置く。

 レンタロウの殺気がハヤトにまとわりつく。


「あれ、おかしいな? 今朝もみんなで話したけど、その話は聞いていないよ。ねぇ、ハヤトくん?」


 ヨウスケはニコニコしているが、目は全く笑ってない。


「お前ら、ちょっと待て! 違うんだっ!!」


「『違う』とはどういうことだい、ハヤト先輩? 今朝、ボクが登校してたら、ハヤト先輩が突然現れてボクを押し倒してボクの上に乗ってきたじゃないかい?」


「ホノカっ!? そういう言い方は良くないと思うぞっ!?」


 ハヤトの額から汗が流れる。


「道端で後輩を押し倒して胸を揉むなんて。ハヤトくんは素敵な趣味をしているのね」


 ゴキブリを見るような目でリンはハヤトを見つめる。


「ちょ、待ってくれっ! あれは不可抗力だったんだよっ!!」


「ハヤトくん、残念だけれど性欲を抑えきれないのは不可抗力とは言えないわ。詳しい話は警察署で語ってちょうだい」


「だから! 違うってのっ! 誤解だ! 俺は今朝、食パンをくわえて走ってたんだ!」


 ハヤトは大声で弁解する。


「最低ねっ、ハヤト! あんたが中学時代にキレて、教師や生徒から避けられてたって聞いたことあるけど……高校2年になっても治ってないのねっ!」


 レナはハヤトを睨む。


「むっ! それは違うぞ、レナ先輩。あのときハヤト先輩はボクを守ってくれ――」


 ドゴォォォォオ!!!


 耳をつんざく音にホノカの言葉が遮られる。

 地面が大きく揺れる。


 巨大な右腕が地面から飛びす。

 腕だけで大人ほどの大きさだ。

 大きなこん棒を握っている。


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