第5話 第1階層 ゴーレム


 床が盛り上がり、3m近いゴーレムが4体現れた。


「こっちに走ってくるぞっ! みんな、戦闘準備しろっ!」


 ハヤトは構える。


「ボクに任せてっ! 一発必中!!」


 ホノカは弓を引き絞り、先頭のゴーレムに向けて矢を放つ。


 矢は緑色に輝きながら一直線に飛んでゆく。


 ゴーレムの右膝に矢が突き刺さる。


「グゴォォォオッ!!!」


 ゴーレムは野太い唸り声をあげて前のめりに倒れる。

 ライフが100から70になる。


 二体目のゴーレムがハヤトに飛び掛かる。

 ハヤトはゴーレムの腹に拳を叩き込む。


「ガァァァアッ!」


 ゴーレムは腹を抱えてその場にうずくまる。

 ライフが100から50になる。


 三体目と四体目のゴーレムが同時にハヤトに飛び掛かる。


 ハヤトは三体目のゴーレムのパンチをかわす。四体目のゴーレムの蹴りを回し蹴りで打ち返す。反動でハヤトはバランスを崩し、後ろに倒れた。


 立ち上がろうとした瞬間――

 二体目のゴーレムが後ろからハヤトに抱きつく。


「しまったっ! クソ、はなせっ!!」


 ハヤトはジタバタするが、ゴーレムは放れない。


 三体目のゴーレムがハヤトに向かってパンチを打ち込む。


 鈍い音が部屋中に響く。


「ハヤト、大丈夫っ!? 私が攻撃を防ぐわっ!」


 ゴーレムのパンチをレナは深紅の盾で受け止める。

 レナのライフは100のままだ。

 しかし、白いブラウスのボタン2つが光ったあとにはじけ飛んだ。

 レナの豊かな胸元があらわになる。


 …………


 男性陣の視線が一斉にレナの胸元に集まる。一瞬時間が止まる。


「なっ、なにみてんのよっ! いいから早く攻撃してっ!!」


 レナは胸元を左手で隠す。


「隙ありぃぃぃいい!!」


 誤魔化すように大声を上げて、ハヤトは後ろから抱きついているゴーレムを背負い投げる。


 ゴーレムのライフが0になる。

 『ボンッ』という効果音ととも煙になって消えた。


「隙があったのはハヤト、あんたでしょっ! こんな状況で私の胸にくぎ付けなんて……さてはあんた童貞ねっ!?」


「れれれ、レナさんっ!? そういう話は落ち着いたあとにしましょうかっ!! 俺は今、ゴーレムのことしか考えらえないからっ!!」


 早口になり目が泳ぐハヤト。

 でもレナの胸元はしっかりチラ見する。


「レナ殿! 拙者もゴーレムに攻撃されそうでゴザルっ! 防御してほしいでゴザル!」


 レンタロウは頬を紅潮させて三体目のゴーレムの前に立つ。


 ゴーレムは右拳を高々と上げてレンタロウの頭に狙いを定める。


「盾の騎士・レナ殿☆ 拙者、まさに殴られる寸前でゴザルよ? 誰か拙者を守ってくれる盾を持った騎士はおらぬでゴザルかな~?」


 目を輝かせてレナを振り返るレンタロウ。


「あんたは守る価値ないわっ! このイカ墨侍!!」


 レナは冷たく言い放つ。


 ゴーレムの拳が振り下ろされる。


「黒船ぇぇぇええ!!」


 ゴーレムの拳がレンタロウの頭にめり込む。

 レンタロウのライフが60になる。


「さて、私の本は何かしら」


 リンは古書を開く。


『スライム大図鑑』


 1ページ目にそう書かれている。


 「ふふ、面白そうな本ね……」


 リンはパラパラとページをめくる。


「これなんていいわね……具現化! 泥スライム!!」


 古書から強い光が放たれ、大きなスライムが現れる。

 茶色でドロドロしている。


「泥スライム、ゴーレムの動きを止めて!」


 リンは自分のマジックポイントが100から70になったことを確認しつつ、泥スライムに命令する。


 泥スライムはレンタロウの前にいるゴーレムに飛びつく。ゴーレムを体内に取り込んだ。

 ゴーレムは手足を振り回して泥スライムを振りほどこうとする。しかし、振りほどけない。


 ハヤトはその隙を見逃さない。

 身動きが取れなくなったゴーレムに右ストレートパンチを浴びせ、続けて左キックを打ち込んだ。


「グバァァアッ!!」


 ゴーレムは大声で叫び、ライフが100から0になり煙となった。

 泥スライムも役目を終えて光の粒となって消えていく。


「残り二体! ボクもみんなの役に立たなくっちゃ!」


 ヨウスケは手にしている杖をじっと見つめる。


 使い方が分からない……。


「攻撃魔法、発動!!」


 杖を前に振ってみる。


 何も起きない……。


「それじゃぁダメだぜ、相棒!」


 どこからともなく声がする。


 ヨウスケはあたりを見まわす。

 声の主が見つからない。


「ここだよ、ここっ! 自分の手元をしっかり見るこったぁ!」


 ヨウスケは自分の手元を見る。

 杖を握っている。


 杖の先端の丸くなっている部分に口が付いているっ!!

 目や鼻は見当たらない。


「おいらはバロン! 杖の妖精みたいなもんだ! よろしくな、相棒っ!!」


 バロンは口をパクパク動かす。


「よっ、よろしくね、バロンくん。魔法を使うにはどうすれば良いか知ってるの?」


 ヨウスケは杖に向かって話しかける。


「あたぼうよっ! 相棒の魔法はランダム魔法。自分で使う魔法を選べねぇ。それに魔法を発動するには条件をクリアしねえとならねぇよ!」


「そ、そうなんだ……。とにかくやってみるよ! ボクもゴーレムを攻撃しないとっ」


「わかったわかった。んじゃ、杖を上に掲げて『ランダム魔法』って叫んでみ」


「ランダム魔法!」


 ヨウスケは杖を掲げる。


 杖の上に文字が浮かび上がる。


『魔法:ファイヤーボール』

『発動条件:子どものときの恥ずかしかった体験を再現しなさい』


「えっ、なにこれっ!?」


「わがままをいっちゃダメだぜ、相棒! 魔法は強力な武器だ。発動するにはそれなりの代償がつきものだぜ? ゴーレムを倒したいんじゃねぇのかい?」


「そうだけど……なんか思ってたのと違うような……」


「相棒っ! 敵は待っちゃくれねぇぜ! やるかやめるかとっとと決めな!」


「わ、わかったよ! ボクやるよ! 2年B組 飯田いいだ 陽介ようすけ、子どものときの恥ずかしかった体験を再現しますっ!」


 顔を赤らめながらヨウスケはレナのほうを向く。


「ねぇ、お母さん! あっ! ごめんっ、レナさんっ!!」


「あ、あんたねっ! 言われるこっちが恥ずかしいわよっ!!」


 レナも顔を赤くする。


「カッカッカ! こいつぁいいや! 相棒、上出来だぜ!! 子どものときに誰でも一度は経験する間違い。それを高校生にもなって再現してくれやがったぜ!」


「笑わないでよっ! ただでさえ恥ずかしいんだからっ! それより早く魔法を発動したいよ!」


「わかったわかった。んじゃ、いくぜ! ファイヤーボール!!」


 杖の上に大きな火の玉が一つ現れる。

 ヨウスケのマジックポイントが100から70になった。

 火の玉は一体目のゴーレムに向かって飛んでゆく。


「グギャァァァアー!!」


 火だるまになったゴーレムはもがく。ライフが70から20になる。


「いまよっ! くらえぇぇ!!」


 レナは深紅の盾でゴーレムを力いっぱい殴る。

 ゴーレムのライフが20から10になる。


「ダメねっ……期待してなかったけど私は攻撃力ないわね……」


 ゴーレムのライフを見つめてレナは唇を噛む。


「フッ……そろそろ拙者の出番でゴザルか」


 レンタロウは静かに日本刀を抜く。

 ゴーレムと対峙する。


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