第2話 ドキドキッ! 宇宙人のダンジョン☆攻略大作戦!!
ハヤトが教室に入ると、教室内は騒然としていた。
同級生たちは夢中になってなにか話している。
「おはよう。ハヤトくんも昨日、変な夢みた? みんな夢のこと話してるんだよ」
コミュ障なハヤトの数少ない友達だ。
「おはよ、ヨースケ。変な夢? そういえば、なんか見たような……」
「やっぱり! ボクも見たんだ! 全員が同じ夢みるなんて不思議だよねっ!」
「でも昨日は深夜までネトゲやり過ぎたからな~。爆睡してイマイチ覚えてないな……」
「あはは、ハヤトくんらしいね。昨日の夢はね、宇宙人がでてきたんだ。宇宙人が作ったゲームを攻略できたら、どんな願いでも叶えてくれるって!!」
目を輝かせてイキイキと話すヨウスケ。
「うさんくさっ! なんかのイタズラじゃないのか? お前、そーいうのホント好きだよな~」
ハヤトは呆れた顔をヨウスケにむける。
「と・こ・ろ・がっ!! 高校生全員のスマホに知らないアプリがインストールされているんだよっ! 削除できない謎のアプリだよ!!」
ヨウスケはスマホをハヤトの前に突きだす。
一つのアプリが表示されている。
その名は――
【ドキドキッ! 宇宙人のダンジョン☆攻略大作戦!!】
「嘘つけ! 朝から変な冗談いう……」
自分のスマホを見て絶句するハヤト。
同じアプリがインストールされている。
インストールした記憶なんてない。
「グッドモーニングでゴザルよ、諸君。昨日は夜中まで精進してて寝坊したでゴザル」
ポニーテールに結んだ紫色の長髪。長身細身の学生がハヤトとヨウスケに話しかける。
ハヤトの同級生・
「精進って。どうせくだらないことでもしてたんだろ」
投げやりな態度でハヤトはレンタロウに顔を向ける。
「くだらないとは失敬なっ! 拙者が保有するエロ動画を『女子高生』から『団地妻』までカテゴリーで分類し、カテゴリーごとに連番をふったでゴザルぞっ!!」
「守備範囲広すぎんだろっ!」
「ハヤト殿、えり好みしないで何事にも挑戦してみる。そうやって人は成長するでゴザルぞ」
「た、たしかに……」
「落ち着いて、ハヤトくん! レンタロウは何にも良いこと言ってないよ!? ただ自分の性癖を公開しただけだよ!」
ヨウスケがハヤトをなだめる。
「フンッ、ヨウスケ殿にはこのロマンスが理解できぬとな! 武士の風上にもおけぬでゴザル」
「そんな武士いやだよっ!!」
「でもいいでゴザル。このゲームをクリアすれば、拙者の願いは叶うでゴザル!!」
レンタロウはふたりにアプリ『ドキドキッ! 宇宙人のダンジョン☆攻略大作戦!!』を突きつける。
「レンタロウくんのスマホにも入ってたんだね! ボクとハヤトくんのスマホにも勝手に入ってたんだよ!!」
ヨウスケは嬉しそうにアプリを見せる。
「レンタロウくんはもしゲームをクリアしたらなにを叶えてもらうの?」
「聞かなくていいだろ、そんなもん。どうせコイツのことだから、『透明人間になって女風呂を覗きたい』とかだろ」
「さすがハヤト殿! 卓越した洞察力の持ち主でゴザル。
「オイッ! そんな同盟結んだ覚えないぞっ!」
「ボクもないよっ!!」
ハヤトとヨウスケは慌てて否定する。
「しかーし、ハヤト殿の推測はハズレでゴザルよ。最初は透明人間も考えたでゴザル。しかし、覗きなど卑劣な行為。拙者、犯罪には手を染めぬでゴザル!」
「レンタロウくんがまともなこと言った!!」
「そんな『クララが立った』的なテンションで言われても困るでゴザルよ、ヨウスケ殿。拙者、現在に生きようとも心は常に戦国時代にゴザル」
「うるせぇよ。で、結局、お前は何を叶えてもらうんだ?」
「ふふふ……この高尚な志に打ちひしがれるがよい! 拙者、上杉 錬太郎の願い! それは、女子高生が乗る自転車のサドルになるでゴザルよっ!!」
「「は……?」」
ハモる二人。
「ふっ、感銘を受けて言葉もでぬでゴザルか。サドルになれば女子高生に毎日座ってもらえるでゴザル! しかも、サドルの役割はご主人様に座られること! まったくやましいところがないでゴザルよっ!!」
「ちょっ、落ち着いてよ、レンタロウくん! サドルになったら喋ることも動くこともできないよ!」
「かまわぬっ! 武士道とはサドルになることと見つけたり!」
「見つけちゃダメだよっ!! そんな特殊性癖な武士道ないよ!」
「いや、ある! ヨウスケ殿も一緒にサドル道を極めようではないか!!」
「極めないよっ!!」
「やけに反対するでゴザルな……さてはヨウスケ殿も同じことを考えておったな! 友達のよしみでゴザル。ゲームをクリアしたら一緒にサドルになるでゴザルよ」
満面の笑みでレンタロウはヨウスケの肩に手をおく。
「絶対に嫌だよっ!!」
ヨウスケはレンタロウの手を振り払う。
「ふふ、照れ隠しでゴザルか。しかしっ、いくらヨウスケ殿と言えどサドルの尖った部分は譲れぬでゴザルよ!! ヨウスケ殿はサドルの後ろ側の丸い部分になるでゴザル」
レンタロウは真剣な眼差しをヨウスケに向ける。
「黙れ、サドル侍。お前に健全な答えを期待した俺がバカだったよ。……まあ、みんなどんな願いを叶えてもらうかめっちゃ盛り上がってるけどな」
ハヤトは教室を見回す。
「でも、
ヨウスケはリンに視線を向ける。
クールな美少女が一人静かに読書をしている。
紺色のストレートロングヘアー。切れ長の涼しい目。
周りの騒ぎなどまったく気にしていない。
「グフフフ……相変わらずリン殿は美しいでゴザル。あの周りに媚びない性格にグッとくるでゴザル」
「お前はほとんどの女子にグッと来てるだろうが。クラスの女子にフラれまくってるやつがよく言うぜ。リンにも告白したのか?」
「当然でゴザル! 休み時間の10分間、リン殿をひたすら口説き続けたでゴザルよ。拙者の口説き文句を無言で聞き続けたリン殿は最後に一言だけこう言ったでゴザル。『あら、カメムシだと思ったらレンタロウくんだったのね』とっ!!」
レンタロウは机を叩く。
「うゎ……さすがにそれはキツイな……」
「うん。ボクもそれはリンさんが言いすぎだと思うよ」
ハヤトとヨウスケはレンタロウをなぐさめる。
「否!! もっと拙者を
レンタロウは頬を紅潮させて語気を強める。
「お前、ほんとブレないな……」
「当然でゴザル。拙者の心は日本刀。真っ直ぐ芯が通っているでゴザルよ! ところでハヤト殿、さっきから気になっていたでゴザルが……。ハヤト殿の右手から良い香りがしますぞ。まるで女子の香りでゴザル」
(コイツは犬か!!)
(言えない……童貞という絆で結ばれたこいつらに、激かわ女子高生(しかも幼なじみ)のおっぱいを揉んだなんて……)
ハヤトは必死で言い訳を考える。
「よく見ると、ハヤト殿の右手に微小繊維が付着してゴザらんか? 女子高生のブラウスに由来した繊維っぽいでゴザル」
(お前は一体なんなんだっ!?)
ハヤトの額から汗が噴き出す。
「ハ・ヤ・ト殿!? これは一体どういうことでゴザルか??」
レンタロウの顔は世界滅亡を目の当たりにしたように深刻だ。
「いや……それは、その……」
「そのなんでゴザルか!? まさかだとは思うが、『漫画みたいに曲がり角でぶつかって、その流れで女子高生の胸をわしづかみにした』などとは言わぬでゴザルなっ!?」
(お前はエスパーかっ!?)
(もうダメだ。素直にほんとのことを言うしかない)
ハヤトが諦めて口を開いたとき――
「みんな、静かにしなさいっ!」
長身の女子生徒が教室に入るなり叫んだ。
真っ赤な瞳。腰までまっすぐ伸びた燃えるような赤髪。
その細身に似つかわしくないほど豊かな胸が歩くたびに揺れる。
「学級委員長の
レンタロウは恍惚とした表情でレナを見つめる。
「先生方は例の不審アプリのことで職員会議中よ。朝のホームルームと1時限目の授業は自習とします。くれぐれもあのアプリを触らないようにっ!」
レナはピシャリと言い放ち、クラス全員を睨みつける。
「以上よ。みんな着席して自習を始めて」
レナが自席に向かおうとしたとき――
クラス全員のスマホが振動し始める。
『ドキドキッ! 宇宙人のダンジョン、攻略大作戦☆』が勝手に起動する。
強烈な光がスマホから発せられる。
生徒たちの体がふわっと宙に浮いてそのままスマホの画面に吸い込まれた。
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