第12話 喜びの唄

沖縄移住2日目の朝は、軽やかな春晴れの朝。

沖縄には春や秋が無く、夏が来て冬が来ると言う人が多いが、沖縄の空にも確かに春晴れや秋晴れはあり、今朝の空は春晴れと言う言葉が間違いなくピッタリ来てると思う。

目を覚ました僕は、横で寝ている嫁を起こさないように寝室を抜け、ベランダで出て一伸びした後にタバコに火を付ける。

風は爽やかで空は僕等を迎えてくれているかの様な青空の快晴だ。

こんな天気なら毎日でもずっとでも外に居て走り回っていたいと思う。

部屋の中に籠っているには勿体ない天気だ。

僕は東北から持ってきたキャンプ用のイスに座り、空に向けてタバコの煙を大きく吐く。


腰が少しだけ重く感じる。昨日の夜頑張り過ぎたせいか。

東北で引っ越し作業に追われていた僕等の2週間ぶりの夜の営みは、沖縄に移住して来て気持ちが高ぶっていたのか、疲れているはずの嫁の声がいつもより大きく、甲高い声が寝室に響き渡った。

その声と嫁の腰の動きに反応するように、僕も思わずいつもより我慢もして頑張った。

嫁は水泳選手のような息継ぎをし、僕は短距離選手のような無酸素運動を繰り返した。

そして僕等の沖縄移住初日の夜は、いつにもまして親密で快楽に飛んだ夜だった。


”ネコのマーキング”


腰を伸ばしながら僕はベランダから見えるクジラに向けてタバコの煙を吐くと、タバコを灰皿で揉み消し、リビングに戻りコーヒーを沸かしてテレビを付ける。

嫁はまだ起きてこない。

昨日は色々な事があり過ぎて嫁は疲れてしばらくは起きて来ないだろうと僕は思う。

辺りは静かで考え事をするには向ている朝だ。


沖縄はテレビのチャンネルが少なく、東北とはテレビのチャンネルも違う。

芸能人の不倫問題を流す8チャンネルをそのままにしたまま、キッチンでコーヒーをカップに入れて僕はまたベランダへ出る。

ベランダの手すりに寄っかかり、目の前の誰も活動していない高校のグラウンドを眺めながらコーヒーを啜る。


沖縄はまだ僕によそよそしい。

少し遠慮しているような、言いたい事を我慢しているような。


”他人行儀的”


沖縄で生活していく間、暫くはこの感覚が消えないのであろう。

この感覚は、今まで色々な場所に引っ越しをしているが、あまり感じたことが無い感覚だ。

それが、今までより遠くに来たからなのか、沖縄だからなのか、何なのかは分からないが。。。


本土と沖縄の感覚は分度器で図ると60度位違う。

これから沖縄で生活していき沖縄の事を知っていく中で、僕の中の分度器は30度を指すかもしれないし120度になるかもしれない。

でも、それが普通であり、移住する上で僕が求めてきた物でもある。

角度は沖縄生活を過ごしていくほどに変化していくであろう。

そして、それはいつの日か日々の日常に変わっていく。


ベランダから見るグラウンドに飽きた僕はリビングに戻ると残っているコーヒーを啜りながら携帯を弄り音楽を掛ける。

リビングに置いてあるスピーカーからリズムの良い静かな音が流れ始め、その音が突然大きく激しさを増し、英語と日本語の混じり合った僕等の沖縄生活にふさわしい曲に変る。

Dragon Ash「Ode to joy」 喜びの唄

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南の端に陽が沈む 楽写遊人 @KO1_LS

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