第11話 片付けリバイバル

僕等は家に着くと荷物の片付けに入る。

僕は自分の机を組み立てたり洋服を片づける。嫁はキッチンへ向かい、ダンボールから食器やら料理道具を片づけている。

間取り1LDKで広さ40m2程の部屋に荷物を詰めていく。

引っ越し準備をしている時に、沖縄で生活していく上で僕等が必要最小限だと思う物を厳選して詰めたダンボール10箱の荷物は、少ないと思っていたが意外と多く部屋がドンドン埋まっていく。

片付けをしながら、家具付きの家でホントに良かったと僕はつくづく思う。

これで電化製品や家具まで運ばれてきたら、片付けだけで3日が過ぎてしまう。

キッチンからは嫁の、あれが足りない、これが足りない、などの独り言が聞こえてくる。

そんな嫁の声を気にしながら僕は片付けを進める。


洋服をクローゼットに掛けながら、ボンヤリと明日の事を考える。

僕は明日は新しい職場へ挨拶に行く予定でいる。

職場は家から徒歩5分にある、沖縄を拠点とする小さな設計事務所だ。

通常なら勤務初日まで挨拶になど行かない僕だが、沖縄へ引っ越してきて初めての職場であり、面接に行った時に、沖縄ではそれが普通なのか、僕が移住者だからか分からないが、妙に家庭的な雰囲気を感じたので挨拶に行った方が後々楽かと思い僕は挨拶に行くことにしている。

職場にアポは取っていない。アポや時間を約束すると他の事をしている時もアポや約束の時間が気になり目の前の事に集中できなくなるので、僕は元からあまりアポや時間の約束はしない。家からも近い事だし、明日直接行ってみるつもりで僕はいる。

会社なのだから行けば誰かしらいるだろう。


挨拶に行くのもそうだが、明日は朝から家の周りを散歩してみこの辺りの地理状況を掴みたいと思う。

新しい土地に来たら、その辺りを散歩するのは僕にとって準備運動のようなものだ。

その土地の雰囲気や歩いている人々を観察しながら街をブラブラする。

お気に入りのパブやカフェを見つけたり、良い風が流れる公園や海辺を探す。

これから生活をして行く上で僕に必要な場所を、本格的な始動が始まる前に目星をつけておく。

これが僕の引っ越しの際のルーティーンの一つだ。

さっき居酒屋の帰りに見つけた沖縄料理の定食屋で、明日のランチに沖縄そばを食べるのも良いかとも思う。

せっかく沖縄に来たのだから、沖縄料理にも親しみたい。

そうなると、職場へ挨拶に行くのは午後でも良いだろうと僕は考える。

沖縄での初職場と言う事はあるが、会社は所詮会社であり僕の全てに責任を追ってくれる場所ではない。僕の中で会社と言う場所は、単純に言えば僕の時間や成果をお金と交換する場所と変わりない。


「どう、片付いてきた?」嫁が寝室を覗いて僕に聞く。

僕は明日の事を考えるのを中断し「まあまあかな」と洋服を畳んでクローゼットにしまう。

「すごーい!ほとんど片付いてるじゃん。こっちなんてまだまだだよ。さすがは引っ越し隊長!」

笑顔で嫁はそう言い残すとまたキッチンへ戻っていく。

部屋の中は冷房が効いていて、外とは違いカラッとしている。

明日は晴れだと良いなと少し思う。

沖縄の太陽は内地とは違い、太陽は自然の産物だと言う事を思い出させてくれる。

そんな太陽の下、海や緑を見ながら生活することはこの上ない贅沢な一瞬だと僕は思う。


僕は洋服をしまい終わると、作り付けのベッドにシーツを敷きベッドメイキングを始める。

ベッドはパイプで出来た枠にマットが敷いてある造りでサイズはシングルだ。

始めは小さいかなと思ったが、僕等は付き合っているときからずっとシングルサイズのベッドで寝てきたので、それほど違和感無く寝れそうな感じでもある。

ダンボールの中から枕を出して並べる。枕は合うものと合わない物の差が激しいので僕はいつも枕は自分用を使う。

枕にカバーを掛け、ベッドの準備も終わると嫁の個人的道具以外の寝室の片付けは終わり、僕はキッチンに行く。


わっせわっせと動いている嫁の片付けを邪魔をしないように台所で泡盛の水割りを作り、イスに座りって水割りを啜る。

嫁はキッチンの片付けに嫁的なこだわりを発揮しているようで、独り言を言いながら一向に進まない不毛な片付けを行っている。動作はスピーディーに動いているのだが、何かを棚の中にしまっては何かを取り出している。

”永遠の謎の片付け”

僕は嫁の片付けを見ながら、泡盛の水割りって旨いなと思う。

さっき行ったサンエーに色々な泡盛が売っていたので、色々試してみるのも楽しそうだとも思う。

沖縄の楽しみがもう1つ増えたと思う僕は、嫁の結末の無い片付けを見ながら風呂を沸かしに行く。

給湯器のスイッチを入れ、温度を42℃にセットする。

浴槽の蛇口をひねりながら、ユニットバスの空間がひんやりしていない事にふと気が行く。

東北の3月はまだ風呂場がひんやりとしていて、ヒートショックと言う事例も多い。

暑い場所に来たんだなと今更ながらに思い、給湯器の温度を39℃にセットし直すとキッチンにいる嫁に声を掛ける。


「風呂入るぞー」

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