第6話 青いモニュメント

実家から送った僕等の荷物が入っている10箱のダンボールは16時~18時の間に郵便局から届く予定になっている。

不動産屋から引っ越し先の家まではそう遠くない距離だ。

僕が思っていたより不動産屋が近かくて良かったと僕は思う。

ガス屋の立ち合いの16時に、ぎりぎり間に合う時間帯で僕は少し安堵する。

無口なタクシー運転手が運転するタクシーは細い住宅街を進む。

途中右に曲がったり左に曲がったりと、やたらと道を曲がって進むが方向が有ってるのかは僕には全く分からない。

それでもタクシーは信号に引っかかる事も無く淡々と進む。


「家に着いたら、まずはビールで乾杯でもしよう」と僕は再び目をつぶって窓ガラスに頭をもたれている嫁に声を掛ける。

「それで少し片付けしたら、夜は居酒屋でも探索してみようね」

少しだけ元気ぶった声を僕は出す。

嫁は薄目を明け「いいね。居酒屋楽しみ。やっぱり沖縄料理屋さん行きたいよねぇ」と疲れている中にも少し元気を取り戻してきたかのように見える。

タクシーは左手にコンビニのある交差点を右に曲がり公園の脇の細道に入る。

一方通行の道を走るタクシーのフロントガラスの向こうに青いモニュメントの様な物が見えてくる。

「あれ、なんだ?」僕は嫁に聞く。

タクシーはモニュメントに向かい走り続ける。

「何だろうね?何か青くて大きいけど」嫁も疑問で返してくる。

細道を走り続けるタクシーは、モニュメントのある公園の入り口に来て止まった。

「ここですね」と運転手が後ろを向き僕等に言う。

僕等はお金を払い荷物を下ろしてタクシーから降りる。

僕等は僕等の移住新居となるマンションを見上げて、それから公園のモニュメントに目を移す。

新居となるマンションは、白い壁が立ち上がった4階建てのマンションで所々に落下防止のアルミで出来た手すりが見える。

4階建てなのでエレベータは無いようだが、小奇麗な今風のよくあるマンションの造りだ。

僕等はマンションに入る前に公園の柵を超え公園の中へ向かう。

公園の入り口から少しだけ左に歩いていき、そびえ立つモニュメントを見上げる。

青色で所々ペンキが剝げ落ちた5、6メートルはあるだろう高さの古ぼけたモニュメント。

隣に立つ高架線よりも高さは高い。

滑り台の様なジャングルジムの様な作りは、公園の遊具の一部になっている様だが、「老朽化の為立入禁止」の看板が目の前に貼り付けられ、トラロープが周りを覆っている。

モニュメントの周りにその他の遊具は無く、周りには南国の木々が生い茂り、地面からは雑草がくるぶしの高さ程まで伸びている。

モニュメントを前に見る僕等の背中側には少し離れた場所にはウォーキングコースの様な場所が見える。

紫と緑のクッションマットが緑に繁った芝の周りを回っている。

「遊び場だったんだろうけど、今は入れないんだね」僕は看板を見ながら言う。

雑草に群れる虫が辺りを飛び回っている。

僕は虫を手で払いながら、きっと虫に刺されて手や足が痒くなるだろうと少し思う。

嫁は青いモニュメントを無言のまま見上げている。

嫁の周りを小さな黒い虫と白い蝶々が駆け回り、僕はポケットからタバコを出して火をつける。

周りは静かで高架線を走る車の音だけが聞こえてくる。

騒がしさの無い公園にそびえ立つこの古ぼけた巨大なモニュメントの姿が、何となく空回りしている目立ちたがり屋を想像させる。

モニュメントを見上げるのに飽きたようで、嫁が急に僕の方を向く。

そして、いつものように僕にわかるわけが無い事に対して僕に疑問を投げてくる。

「ねえ、なんでこんな場所にクジラなの?」

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