第2話 到着

那覇空港に着き、飛行機を降りたその瞬間、瞬く間に南国の香りに僕は包まれた。

”めんそーれ沖縄”横長の横断幕が高らかに掲げられ、

笑顔のうちなんちゅーのお出迎え。

パイナップルやマンゴーなどの果実の匂いにヤシの木から漂ってくる甘ったるい

香り、そして身体にまとわりつくような湿気感と時折吹く塩辛い生ぬるい風。


”ザ・沖縄!これが南国!これが僕が感じたかった空気感だ!!”


僕は晴天の空を仰いで沖縄の空気を吸い込む。

満面の笑みの僕の横には、笑顔の中に少しの緊張感を漂わせた嫁の姿。

頭の中はきっとこれからの事がグルグル周っているのだろう。

他人には無口でふてぶてしい僕の嫁は案外考え込みで緊張しいなのだ。

「やっとついたなぁ、やっぱり沖縄はいい匂いだ!」

大きな息を吐き僕は言う。

沖縄の匂い。それは東京や東北では絶対に嗅げもしない魔法の匂いだ。

人工都市に香る密集した人混みの匂いや空調機から吐き出される機械的な匂いと

違い、沖縄の南国感あふれるその香りは空気感や風の中に居るだけで心が躍る。

「そんな顔してないで、暑いんだからその上着脱いだほうがいいぞ!」

そうそうにヤッケを脱いでTシャツに短パン姿の僕ははしゃぎながら

嫁に声を掛ける。

嫁は寒い所から沖縄に来ました感満載の毛糸の上着を脱いで、東北美人系の特徴でもある白い二の腕に毛糸の上着を掛ける。

「さぁ、沖縄だ」

僕が小さな声で呟くと、ようやく嫁は沖縄の空気を思いっきり吸ったようで、

緊張感が消えてホントに嬉しい時に見せる満面の笑みを僕に向けてくる。

その笑みを見て満足した僕は、嫁の手を握ると空港の出口へ向けて歩き出す。


僕は大きなパックバッグを背負い、嫁は一人旅行用のスーツケースを引きずる。

ヤッケを腕に掛けながら歩く僕の周囲には、時代遅れの免税店と人恋しそうなコーヒーショップが立っている。

飛行機から降りた人々は一刻も早く沖縄に出たいようで、それらの店が存在しないかの様な早足で僕の先を歩く。

周りではしゃぐ子供達は空港の中からすでにバカンスだ。

僕は遊歩道をのんびり歩きながら、ここ何か月のゴチャゴチャと過ごしてきた日々を少し思い出す。

もったいないと思う事もあれば、このまま東北にいればすんなり進む事もあった。

毎日がそうそう代り映えの無い生活だったがそれなりに充実感もあり、楽しいひと時も沢山あった。

でも、満面の笑顔でキョロキョロしながら隣を歩いている嫁の顔を見ると、

やっぱり僕は間違っていなかったと思う。

今までも色々な事があったし、沖縄でも色々な事があるだろう。

ようやく沖縄に着いてスタートラインに僕等は立った。

僕は早々と少しの達成感を感じながら、心の奥で思う。


”そうなのだ!この満面の笑顔をずっと浮かべていて欲しくて、

僕は嫁を沖縄に連れてきたのだ!!”

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