第143話「問いかけ」

『ロッティー、エマだけねさせた……!』


 俺の言葉に対し、エマちゃんは頬を膨らませて訴えてくる。

 あくまでシャーロットさんがしたことだ、と思い込んでいるらしい。


 まぁ自分は別の部屋で寝かせられていて、シャーロットさんは俺と仲良くしていたとなれば、この子がそう思うのも仕方がないのかもしれないけど……。


『エマちゃんを寝かせたのは、お母さんだよ?』


 俺はエマちゃんに事実を伝える。

 ソフィアさんがそうした意図としては、シャーロットさんと俺が二人きりになれるように――というのはあっただろう。

 だけど、ソフィアさん自身、エマちゃんと一緒に寝たかったはずだ。


 そこも、エマちゃんには理解してもらいたい。


『ママが、エマからおにいちゃんをとってる?』


 どうしてそんな解釈になったのか。

 エマちゃんは不満そうに眉をひそめてしまった。


「お母さんが、エマちゃんと一緒に寝たかったんだよ」


 とんでもない誤解を生んでソフィアさんに迷惑をかけそうだったので、俺は即座に訂正した。


『んっ……!』


 それによってエマちゃんは満足そうに頷く。


 危なかった……。


『エマ、おにいちゃんとねる……!』


 ソフィアさんの気持ちをエマちゃんは理解したようだけど、エマちゃんは俺と寝るとアピールをしてきた。


 でも俺は知っている。


 この子、ソフィアさんのことが大好きなのだ。

 俺ばかりと寝ていれば、絶対ソフィアさんと寝たがるに決まっている。


 とはいえ、ここでそういうことを言ってもエマちゃんは反発するだけだ。


『もちろん、いいよ』


 気分屋なのだから、ソフィアさんと寝たい時は勝手に自分からソフィアさんと寝るだろう。

 それ以外の時は俺と一緒に寝るというのは、今までがそもそも俺と寝ていたのだから大して問題はなかった。


 とはいえ、これでは今までと何も変わらないので、俺は話を続ける。


『でもね、たまにはシャーロットさんが甘えるのも許してあげてくれるかな? エマちゃんが寝ている時の話だからさ』


 俺は本題に入る。

 シャーロットさんと二人きりで寝る時もあると言うと、エマちゃんがまた自分が除け者にされていると思うだろうから、少しだけ言い方は気を付けた。


『……おにいちゃん、エマすきじゃない……?』


 しかし当然賢いエマちゃんは、俺が言いたいことをすぐに理解したようだ。

 だから、好きかどうかを聞いてきたんだろう。


 この反応も、織り込み済みだ。


『もちろん、大好きだよ』


 俺は間髪入れずに笑顔で返事をする。


『ロッティーとエマ、どっちがすき……?』


 だけど次の反応は、俺の予想したものではなかった。

 いつか聞かれる日が来るとは思っていたが、まさかこんな幼い年齢で聞かれる日がこようとは。


 今のエマちゃんには、自分よりもシャーロットさんのほうが大切にされているように見えているんだろう。


『俺は二人ともが大好きだよ。比べられるものじゃないんだ』

『…………』


 俺の答えに対し、エマちゃんは不満そうに見つめてくる。


 自分が一番じゃないことが気に入らないのか、それとも俺の返答が誤魔化したように見えて気に入らなかったのか。

 どちらかわからないけど、隣で見ているシャーロットさんがハラハラとしていて申し訳なくなってくる。

 あまり長引かせると、シャーロットさんが逆に気に病みそうだ。


 そう思った俺は、エマちゃんが理解する最短だと思う方法を選ぶ。


『じゃあエマちゃんは、俺とシャーロットさん、どっちが大切?』

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