第135話「意味深な笑顔」

『おにいちゃん……!』


 俺を見つけると、エマちゃんはタタタッと駆け寄ってきた。

 それに伴って、シャーロットさんが俺の膝の上から降りてしまう。

 顔は、物寂しそうな表情をしていた。


 意図せず、お預けを喰らったからだろう。


『エマちゃん、起きたんだね』


 俺は足にくっついてきたエマちゃんを抱き上げると、膝の上に座らせた。

 すると、ドアから花音さんとソフィアさんが申し訳なさそうに入ってくる。


「ごめんなさい、突然目を覚ましたもので……」

「明人君がいないことに気付くと、ベッドから起きて駆け出しちゃって……」


 まぁ、知らない部屋で目が覚めたから、不安に襲われたんだろう。

 ソフィアさんが若干ショックそうなのは、母親である自分がいるのに、エマちゃんが俺を探しに行ってしまったことだろうな。


『んっ……』


 エマちゃんは俺を見つけて安心したのか、俺の胸に顔を押し付けてきた。

 多分、また寝ようとしているのだろう。


 少しして、エマちゃんからかわいらしい寝息が聞こえてきた。


「どうしましょう……?」

「う~ん……また起きた時、明人君がいなかったら同じことになるけど……」


 ソフィアさんは困ったように笑いながら、チラッとシャーロットさんを見る。

 シャーロットさんは相変わらず、物欲しそうな表情で俺のことを見つめていた。

 キスの寸前だったから、消化不良になっているようだ。


「まぁ、起きたら起きたかな。この子、そう簡単には起きないし」


 そう言って、ソフィアさんは俺の腕の中から、エマちゃんを抱き上げようとするのだけど――。


『…………』


 ギュッと俺の服を掴んで、放さなかった。

 寝ているため、無意識に掴んでいるようだ。


「いなくならないように、掴んでるのかな……?」

「そうかもしれませんね……」


 ソフィアさんと花音さんは困ったように顔を見合わせる。

 しかし――。


「まぁ、幸い寝ていることですし――明人、羽目を外さなければかまいませんよ?」


 花音さんは、意味深な笑顔を向けてきた。

 うん、完全に見透かされているな、この顔は。


「変なことは想像しないでください」

「変なこと、ですか?」


 一応否定しておくと、花音さんは意味深な目でシャーロットさんを見る。

 シャーロットさんは顔を赤くしており、物欲しそうな顔のまま、ソワソワとしていた。


 待ちきれない――というのはわかるが、完全にアウトだ。


「お姉様、行きましょうか?」

「そうね、お邪魔のようだし」


 そして二人は、意味深に笑いながら、部屋を出て行ってしまうのだった。


 ――いや、うん。

 凄く気まずいんだけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る