第125話「美少女留学生が日本に来た本当の理由」

「どういうことですか……?」

「簡単に説明しますと、シャーロットさんに日本へ来て頂いた本当の理由は、明人の許嫁になってもらうためだったのです」


 来て頂いた、ということから、おそらく花音さんが呼んだのだろう。

 もちろん、直接シャーロットさんに話がいったのではなく、お姉さんのほうに連絡したのだろうが。


 しかし、それでは……。


「戸惑うのも仕方ないのですが、明人に許嫁を作るという話が出た際に、私がお姉様を頼らせて頂きました。これ以上、お父様の好きにさせないためと、明人の自由を奪わせないためにです」


 戸惑う俺とシャーロットさんに対して、花音さんは真剣な表情で言葉を続ける。

 嘘ではないのだろう。


「許嫁だと明かさなかった理由は、そもそも彼女が日本に来た段階では、許嫁と決まっていなかったからですか?」

「私たちが関与せず、二人に仲良くなって頂きたかった、というのはあります。しかし、明人のおっしゃる通りですね。お姉様は、日本に来られてからお父様に対して、明人の許嫁にシャーロットさんを――と話を持ち掛けられたのですが、お父様が頷かれなかったのです」


「なぜですか?」

「いろいろと、警戒をされていたのです。お父様も、お姉様を昔からよく知っておられ、頭がキレることや、やり手だということはご存じだったので。何より、自分の娘を政略結婚させようとする方ではない――ということで、酷く疑っておられました。それに、企業としての規模は、お姉様の会社のほうが大きいというのもあります」


 会社の命運を握っている以上、相手の思惑が読めない以上、話は引き受けられないだろう。

 ましてや、自分の会社よりも格上なら、当然の判断だ。


「しかし、だからこそ、安易に断ることもできませんでした。昔から関係のある大事な取引相手でしたし、取引をやめられて困るのは私どものほうなので」


 それで、許嫁の話が停滞していた、というわけか……。

 企業に関しての力関係は、さすがに疎い。

 だけど、あの姫柊社長が、お姉さんを無下にしていないのがその証拠だろう。


 姫柊社長は五十歳手前だったはずだから、お姉さんとでは一回り近く年齢が離れていそうだが、それでもお姉さんのほうが立場が上に見えたくらいだし。


「もしかして、許嫁の話が進んだのは――」

「はい、あなた方が恋人になったからです。明人にゾッコンとなっているシャーロットさんを見られて、お父様も大丈夫だと判断されました」


 ゾッコンと言われ、シャーロットさんが恥ずかしそうに顔を真っ赤に染める。

 そして、俺の腕に押し付けるようにして、顔を隠してしまった。

 照れ屋でとてもかわいい。


「聞いている限りだと、何も問題はなかったように思うのですが……どうして、俺とシャーロットさんの仲を、裂きかねないことをしたのですか?」


 俺とシャーロットさんが恋人になり、姫柊社長が許嫁と認めた以上、有紗さんが差し向けられた理由がわからない。

 それも、わざわざ俺が、シャーロットさんじゃない人を許嫁だと思うような、言い方までしていたのだ。

 何かしらの意図があったにち違いない。


もともとは・・・・・、お父様にとって余興みたいなものでした」

「余興……?」

 

 思わぬ言葉に、俺は思わず眉を顰めてしまう。


「明人に許嫁は誰か明かしていなかったので、明人が恋人と自分の利益、どちらを取るのか。私どもから、賭けを持ち掛けたのです。もちろん、お父様は自分の利益を選ぶ側で、私たちは恋人を選ぶ側ですけどね」


「賭けたものはなんですか?」


 もともとは、と言っていたことから、先程行われていた賭けとは別のはずだ。


「お父様が勝てば、新たに私どもの会社と、お姉様の会社で始めようとしていた、新事業での提携の際、姫柊財閥が圧倒的に有利な条件での契約をする、ということでした。そして、私どもが勝てば――明人の解放でした」


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