第124話「許嫁の正体」

「試練、とは……?」


 シャーロットさんは、様子を窺うように花音さんへと尋ねる。

 これは、俺の口から説明したほうがいいんだろう。


「とある大学への特別推薦を得ること、だよ。その推薦をもらえるのは、特定の高校で優秀な成績をとった生徒だけなんだ。だから、それをもらえるくらい優秀であれば、姫柊財閥の一員として認めるって言われたんだよ」


 その推薦は、俺たちの高校だと数年に一人もらえる生徒が出るかどうか、というほど難しい。

 俺が勉強を頑張っているのも、それが理由だった。


 中学時代、花音さんを傷つけ、失望させてしまったから、その償いとして、せめて姫柊財閥の一員になり、彼女の役に立てるようになりたかったのだ。


「もしかして、明人君の苗字が青柳のままだったのは……」

「まだ、姫柊財閥の一員だと認められてないんだ」

「…………」


 シャーロットさんは悲しそうに目を伏せる。

 多分、同情されているんだろう。


 だけどこれは、仕方がないことだった。

 あの社長が、孤児の人間をそう簡単に引き受けるわけがないのだから。


「ですが、夏休みまでの成績で、明人が有能だということは証明されていました。全国共通テストで一桁に入っていましたし、教師陣からの評価も高かったですからね。もともと中学時代の成績も耳に入っていますし、明人が推薦をとる可能性は高い。そのため、明人を迎え入れた時の準備を始めたのです」


「それが、許嫁だったと?」


「はい。政略結婚は、家を大きくするのに有効な手段ですからね。もともと、女の子しか生まれなかったこともあり、男の子である明人を利用しない手はないと考えたのでしょう」


 少し、引っかかる言い方だな。

 俺が知る限り、花音さんは一人っ子のはずだ。

 わざわざ“女子”と表したことが気になるが――まぁ、わかりやすく性別で話しただけか。


「その後は、どうなったのでしょうか……? 許嫁は、既についてしまったようですが……」


「先に結論から言いましょう。あなたの許嫁は、シャーロットさんですよ」


「「えっ……?」」


 思いがけぬ一言。

 俺とシャーロットさんは、思わずお互いの顔を見てしまった。

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