第121話「偶然ではなく必然」
「それについては、疑ってませんが……」
チラッとシャーロットさんの顔を見る。
やはり、彼女は不満そうに母親の顔を見つめていた。
それを言葉にしないのは、俺たちの会話の邪魔になると思って、呑み込んでくれているのだろう。
「なかなか家に帰らなかったのも、俺たちのためだったんですか?」
「私が帰ると、二人が明人君のところに遊びに行けなくなるでしょ? 特にロッティーは、男の子の家に遊びに行くなんて言えない子だし」
シャーロットさんはシャイだ。
きっと、母親の目があったら、俺の部屋には来づらかっただろう。
何より、遅くまで俺の部屋に居座るなどはまずできない。
そういう理由があって、シャーロットさんの母親は帰らないようにしていたようだ。
それにおそらく、俺たちの仲が深まる前に俺と鉢合わせて、全てが人為的なものだったとバレるのを避けたのだろう。
「質問ばかりして申し訳ないですが……シャーロットさんも、エマちゃんも寂しい思いをしていたと思います。それに関してはどう思っていたんですか?」
「明人君がその穴を埋めてくれると思っていたし、寂しさを感じる分それを埋めようと、別の何かを求めようとするでしょ?」
つまり、よりシャーロットさんとエマちゃんが俺を求めるようになる、という計算か……。
「そこまでして、どうして俺たちをくっつけたかったんですか? 何か理由があるんですよね?」
彼女たちの思惑はなんとなくわかる。
だけど、タイミングが解せない。
何より、彼女たちがやったことは、急いているように見えた。
まるで、すぐにでも俺たちをくっつけないと駄目だ、という感じにだ。
だからこそ、強引な手段をいくつも使ったのではないかと思う。
「くっつけたかった理由としては、明人君との約束を果たしたかったからだよ。つまり、君を息子として迎え入れるために、自然な形を選んだの」
「シャーロットさんの気持ちを無視してまでですか?」
「もちろん、ロッティーの幸せについても考えてる。君がどういうふうに育っているかは、ずっと花音ちゃんに教えてもらってたからね。君ならきっとロッティーの力になってくれると思ったし、ロッティーも幸せになれると思ったんだよ。何より、ロッティーの好みに合ってるはずだし」
表情などを見ている感じ、嘘を言っているようには思えない。
本気で、シャーロットさんの幸せも考えていたようだ。
つまりそれは、花音さんの発言を信用するだけの関係であったことを意味する。
「それに、ロッティーが君を選ばなかったとしたら、別の手段を考えていたしね」
「どういう感じにですか?」
「君次第ではあるけど、私かエマでもいいかなっとは思ってたよ」
「……冗談、ですよね?」
さすがに、言葉をその通りには受け取れなかった。
というか、受け取るわけにはいかない。
隣に座っているシャーロットさんが、凄く怖い雰囲気を放っているのだから。
「エマだって、明人君に凄く懐いているから、あの子が結婚できるまで待ってくれるなら全然よかったよ。私の場合は、まぁ君が許せるならって感じで考えてた」
「――もう私は明人君と付き合っているんだから、そんなたらればを言っても仕方ないよね?」
いい加減我慢の限界だったのか、シャーロットさんが俺の腕を抱きかかえ、母親を牽制するように見つめ始めた。
どうしよう。
拗ねるを通り越して、ガチおこだ……。
「そうだね、不毛なことだと思うよ。とまぁ、そういう感じで君たちをくっつけたかったわけだけど――そう思ったのは、日本に来る少し前なの」
シャーロットさんの反応はわかっていたのか、母親のほうは気にした様子もなく話を進める。
さすがに肝が据わってるなぁ、とは思いつつも、この子をどうにかしてほしい。
まだ牽制しているんだけど……。
「ということは、やはり何かあったんですか?」
「うん、それが今回の始まりだった。正直言うとね、明人君には悪いけど、私は花音ちゃんに君のことを任せようと思ってたんだよ」
そう言うと、シャーロットさんの母親は懐かしそうに天井を見上げる。
「花音ちゃんに君を紹介したのはね、私なの。もうすぐ日本を離れないといけないって時に、君を一人残すのはよくないって思ったから。だから、当時弟か妹をほしがってた花音ちゃんに、君を紹介したわけ」
俺と花音さんが出会ったのは、お姉さんに買ってもらったサッカーボールを使って、公園でサッカーの練習をしている時だった。
その時に、たまたま俺を発見したように話しかけてきたのだけど――思えば、あれはお姉さんがいなくなった翌日のことだった。
つまり、最初から仕組まれていたわけだ。
「とはいえ、最初から君をすべて任せようと思ってたわけじゃないの。君が大きくなって英語を問題なく話せるようになったら、迎えにいくつもりでいた。だけど――嬉しそうに君の近況を報告してくる花音ちゃんを見てて、君を迎えに行くのは可哀想だなって思ったの」
俺が英語を問題なく話せるようになったのは、いつだっただろうか?
あまり覚えていないが、中学に上がった時にはもう日常的な会話レベルであれば、問題なく話せたと思う。
その勉強に付き合ってくれたのは花音さんで、俺が施設で自主勉できるように教材を用意してくれたのも、彼女だった。
偶然がいろいろと重なっている、とは思っていたけれど――すべて、導かれたものだったわけだ。
いくつもの偶然が重なる場合、それは偶然ではなく必然だ、とはよく言ったものだな。
「約束してたのに、ごめんね。私にとっては、花音ちゃんも娘みたいなものだったから」
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【あとがき】
いつも読んで頂き、ありがとうございます(≧◇≦)
いよいよ明日4巻が発売されます(´▽`*)
嬉しい限りです♪
是非是非、興味を持っていただけた方は、お手に取って頂けますと幸いです(≧▽≦)
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