第120話「ハマるピース」

「…………」


 俺が考えてごとをしている隣で、明らかにシャーロットさんが不機嫌になっているのがわかる。

 幼いエマちゃんを利用したことが気に入らないのだろう。

 俺も同じ気持ちだ。

 いくら俺とシャーロットさんが仲良くするためとはいえ、幼い子をダシにされて思うところはある。


 だけど――お姉さんや、花音さんだって俺と同じ考え方の人間なのだ。


 エマちゃんを使うことに葛藤があったことは、言葉にしなくてもわかる。


 きっと、彼女が男に心を許すのは、大切な妹を守ってくれた相手しかいない、と考えていたのだろう。


 平然と今話しているのは、責められても仕方ないと受け入れているからだ。

 だったら、文句なんて言えるはずがない。


「もう一つ、お聞きしてもいいですか?」

「うん、なんでも聞いて。答えられることは答えるから」

「美優先生――俺とシャーロットさんの担任の先生と、いつから知り合いだったんですか?」


 俺はまっすぐシャーロットさんの母親を見つめる。

 それによって、シャーロットさんの母親は困ったように笑い、シャーロットさんは質問の意図が分かっていない様子だった。


「まったく……君も、困った質問をしてくれるね……。花澤先生がこの一件に関わっていた、と確信してるような言い方じゃない」

「もともとは気にも留めていませんでしたが、今では確信しています。なんせ、エマちゃんを確実に俺だけに会わせるには、学校側に協力者がいないといけなかったのですから」


「どういうこと、ですか……?」


 シャーロットさんは戸惑いながら聞いてくる。


「簡単なことだよ。シャーロットさんはエマちゃんがいなくなった日以降、もう絶対に勝手に外へ出ないよう対策をしていたよね?」

「はい、そうですが……」


「つまり、一回きりで失敗が許されないことだったんだよ。その一回で俺に会わせられなければ、次回以降はシャーロットさんに対策される。もちろん、それでもエマちゃんを外に誘導することはできるけど、さすがにそこまでしてしまうと、シャーロットさんが人為的なことに気付いてしまう。だから、学校側に協力者を用意した。俺はあの日、美優先生に罰だと言われて資材室の整理をさせられていたんだ」


 それで、シャーロットさんとの下校タイミングがずれた。

 何より、美優先生は俺がエマちゃんを連れてくるとわかっていた様子だった。


 妹がいなくなっているとシャーロットさんから連絡があり、銀髪の幼女を連れている俺を見かけたから、ピンッときてシャーロットさんに連絡した――と彼女は言っていたが、そもそも彼女の性格だと、シャーロットさんから連絡が来た時点で、他の先生に共有して彼女のもとに向かっている。


 それなのに、職員室に留まっていたことがおかしい。

 だから彼女はわかっていたはずだ。


 待っていれば、俺がエマちゃんを連れてくると。


 おそらく、俺がエマちゃんを保護した時点で美優先生に連絡は行き、タイミングを見てシャーロットさんに連絡したのだろう――というのが、俺の推測だった。


「美優先生にお願いしたんですよね? 俺を引き留めて時間を稼いでほしいって。だけど、あの人が親しくない人を信頼して言う通りにするとは思えません。だから、元から知り合いだったのではないですか?」

「…………」


 シャーロットさんの母親はジッと俺の顔を見つめてくる。

 そして――。


「本当に、君は凄いなぁ……。立派になったものだよ」


 俺の推測が合っていると言うかのように、彼女は仕方なさそうに笑った。


「先に一つ言っておくね。花澤先生が協力してくれたのは、それが明人君のためになるとわかってくれたからだよ。決して、私たちが知り合いだったからじゃない」


 彼女はそう前置きをすると、仕方なさそうな笑顔のまま言葉を紡いだ。


「それともう一つ。私は花澤先生を知っていたけど、別に親しいと言えるほどの仲ではなかった。彼女にも、いろいろと事情があるからね。だから、今回花澤先生にお願いしたのは、花音ちゃんなんだよ」


「花音さんが……? しかし、あの人は妹の亜紀とは親しくても、姉の美優先生とは面識がなかったはずですが……」

「そう見せかけていただけだよ、事情があってね。まぁその辺は私が気軽に言っていいことじゃないし、花音ちゃんや花澤先生も話しづらいことだろうから、触れないほうがいいかな」


 どうやら、そちらにも重たい事情がありそうだ。

 俺に今の高校を勧めてきたのは、花音さんだった。


 一番ノルマを達成しやすい環境で、地元から離れた場所だから知人も少ない、と説得されたのだ。


 彰は俺たちの地元から電車で1時間かけて通っているし、亜紀だって今は実家を出て美優先生の家に住むことで、来年は俺達の高校に通うつもりでいる。

 そういうことをしないと、通えない場所だから――ということで、俺は今の高校へ入るよう言われた。


 だけどそれは全て建前であり、本当は美優先生が教師をしている高校だったから、花音さんは勧めてきたのだろうか……?

 さすがに、考えすぎか……?


「話、戻そうか。無理矢理二人の仲を取り持とうとしたことは、勝手なことをしたと思ってるよ。でも、私たちは二人のためになると思ってた。それだけは信じてほしいな」




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【あとがき】


やっとこの話をかけたぁ!と、凄く嬉しいです(#^^#)


そしてそして…!!

『お隣遊び』4巻発売まで、後2日(4/25発売)…!!


書籍のほうはオリジナル展開満載ですが、

多くの方に楽しんで頂けますと幸いです♪


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