第119話「種明かし」

「もしかして、お母さんが日本に来た本当の理由って……」

「うん、明人君を迎えに来たの。まぁ、岡山にある部署で仕事をしてるってのは、本当だけど」


 わざわざ俺のために、お姉さんが日本に来ていたなんて……。

 しかし、それなら疑問が出てくる。


「日本に来られてすぐに会ってもらえなかった理由は、なんでしょうか?」


 シャーロットさんが日本に来てから、随分と日は経っている。

 わざわざ隣の部屋に住んでいるのに、会ってもらえなかった理由が気になった。


「ん~、そこ話しちゃうと、いろいろと脱線しないといけなくなるんだけど……」


 シャーロットさんの母親は、人差し指を口に当てながら、小首を傾げる。

 そのポーズをかわいらしく感じてしまったのだけど、シャーロットさんが物言いたげな目を向けてきたので、笑顔で誤魔化しておいた。


「簡単に言うと、ロッティーと明人君に仲良くなってもらうためだね。そこに、私は邪魔だったの」


 俺たちのやりとりには気付いてないのか、それとも気にしていないのかはわからないが、シャーロットさんの母親は人差し指を立て、笑顔で教えてくれた。

 しかし、やはり疑問は出てくる。


「邪魔って……むしろ、お姉さんが仲介してくださったほうが、仲良くなれるのでは……?」

「それはないよ。そんなことしたら、ロッティーは明人君と一定の距離を保ち続けたと思う。この子って、こう見えて男の子を怖がってるところがあるからね。態度には出さないけど」


 母親の言葉により、シャーロットさんはバツが悪そうに目を逸らす。

 図星なのだろう。


 なるほど……だから俺たちが、自然に仲良くなるようにしたかったというわけか。

 となると、もしかしたら――。


「夏休み明けの初日、エマちゃんが迷子になったのは……事故ではなく、仕向けられたものだったんですね?」

「えっ!?」


 俺が言った言葉に対し、シャーロットさんは驚いたように俺の顔を見てくる。

 しかし、母親のほうは驚いていなかった。

 むしろ、仕方なさそうに笑っている。


「どうしてそう思うの?」

「シャーロットさんが男子と距離を取るというのは、学校で見ていてわかります。しかしそれは、隣に住んでいても同じでしょう。放っておけば、俺とシャーロットさんは挨拶しか交わさない関係になる。それを黙って見ているとは思えなかったんです」


 だから、俺たちの仲が近づくイベントを用意した。

 お姉さんはともかく、花音さんならやりかねない。

 そう思ったのだ。


 もちろん、俺やシャーロットさんが気付いていなかっただけで、エマちゃんの安全が第一に考えられていただろうけど……。


「何より、シャーロットさんと俺は帰るタイミングが違っただけで、同じ帰路を辿っています。それなのに、シャーロットさんはエマちゃんとすれ違い、俺がエマちゃんと鉢合わせしたってのが引っかかっていました」


 エマちゃんが迷いながら道を逸れてしまい、そのタイミングでシャーロットさんが通り過ぎてしまった可能性は考えられる。

 しかし、エマちゃんは大泣きをしていたし、シャーロットさんは常人離れしたレベルで耳がいい。

 本当にすれ違っているのなら、彼女が気付かないはずがないと思った。


「……凄いね、明人君の言う通りだよ。私たちは、わざとエマがロッティーを探しに出るように仕向けた。もちろん、不自然に見えない格好をした数人で、エマの周りは常に囲って守ってたけどね」


 つまり、俺がエマちゃんを見つけた時いた周りの人間たちは、英語がわからないからエマちゃんに声をかけないのではなく、俺が現れるのを待っていたわけだ。

 わざわざ戸惑ってる演技までして、手の込んだことを……。


 そしておそらく、協力者は学校にもいたはずだ。

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