第117話「最善ではない結末」

「私は認めない……! こんな結末、絶対に認めないぞ……!」


 姫柊社長は、醜くも抗う。

 まるで、ここで折れてしまえば、全てが終わってしまうかのような必死さだ。


 シャーロットさんの母親と一緒に登場した、花音さんのお祖父さんはまだ何も言わない。

 口を開いたのは、花音さんだった。


「元々は、私と明人を自由にして頂くための賭けでした。しかし、賭けが行われている中、私どもも予想をしていない事態が起きましたね」


 そう言う花音さんは、チラッと俺を見る。

 まず間違いなく、今世間を騒がせていることだろう。


「現在、姫柊財閥の悪評はかなり広まっています。各会社の売り上げにも影響していることでしょう。その原因を生んだあなたには、責任を取って頂きます」


 どうやら元々の賭けの内容は、花音さんが言った通りのようだ。

 それが変わったのはおそらく、俺たちのことがSNSで話題になった際に思いついたのだろう。


 だから、テレビ局も巻き込んで、姫柊社長を追い込むことにしたんだ。

 今後、俺たちに手を出せないように。


 多分話の流れ的に、俺がシャーロットさんを選ばなかった際は、姫柊社長のことも不問に処す約束だったのだろう。


「私が退いて、誰が後を継ぐ……! 社会を知らないお前なんかに、付いていく人間などいないぞ……!」


「心配はいりません、私が後を継ぐまでの間、お祖父様が代理になってくださいますので。これは、株主総会で正式に決まったものです」


 花音さんが答えると、お祖父さんはコクリと頷いた。

 株主総会――詳しくは知らないが、普通ならトップの姫柊社長の言葉に皆従うのだろう。

 だけどお祖父さんがいるということは、実質トップはこのお祖父さんだ。

 その上、姫柊社長は不祥事も起こしているため、どちらに付くかは明らかだと思う。


「私は……! 私は、これまで会社のために尽くしてきたんだぞ……! それなのに、こんな仕打ちをしていいのか!?」


 必死に訴える姫柊社長。

 しかし、花音さんにその言葉は届かない。

 そして、今まで沈黙を貫いていたお祖父さんが、ゆっくりと口を開いた。


「どこで間違えてしまったのか……。この競争社会、上に昇りつめるために策を講じるのはいい。だが、他人を陥れ、利用することしか考えていない男など、誰も付いてこんよ。実の娘に裏切られたのが、その証拠だ」

「父さん……」


 お祖父さんの言葉に対して、姫柊社長は俯いてしまった。

 やはり、お祖父さんに頭が上がらないようだ。

 それを見届けた花音さんは、父親に何かを言うことはなく、俺とシャーロットさんの手を取った。


「あなたたちに内緒で、裏でこんなことをしていてごめんなさい。詳しくは私のお部屋で話しましょう」

「これでよかったんですか……?」

「最善ではなかったでしょう。もしかしたら明人なら、誰も不幸にならない手を思いついたのかもしれません。しかし、ごめんなさい。私にはこの結末しか選べなかった」


 選べなかった――それは、彼女が置かれている環境に理由があるのかもしれない。


 子が親に逆らうのは容易ではない。

 大手財閥なら不可能に近いものだろう。


 しかし彼女は、俺と自分の自由のために頑張ってくれた。


 おそらくは、自分のことなどついででしかなく、俺のために動いてくれたんだと思う。

 この人は、昔からそういう人だ。


「それでは、先にお姉さまと一緒に私のお部屋に行ってくださいますか? 私はまだ、ここでやらなければいけないことがありますので。かわいい天使さんも、おねんねしながらあなたたちのことをお待ちしているでしょうし」


 花音さんにそう促された俺は、シャーロットさんと彼女の母親と共に、花音さんの部屋に移動したのだった。






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【あとがき】


いつもお読みいただき、ありがとうございます!


4月25日には、4巻が発売されますので、

是非お手に取って頂けますと幸いです♪

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