第116話「あなたの負けです」
俺の記憶にある顔よりも、少しだけ歳を感じさせる。
しかし、それでも若く見えた。
だけど、シャーロットさんの次の一言で、俺に衝撃が走る。
「お母さん……? なんでここに……?」
「――っ」
お母さん?
ということは、お姉さんがシャーロットさんのお母さんなのか……?
その言葉をきっかけに、俺の中で今まで不思議だった部分が全て繋がり始める。
どうして、シャーロットさんを憧れの女性とソックリだと思ったのか。
どうして、シャーロットさんはお金持ちなのに、俺と同じマンションに住んでいるのか。
どうして――花音さんのようなお嬢様が、幼少期に俺に声をかけてきたのか。
どうやら俺たちは、花音さんとお姉さんの手のひらで踊らされていたようだ。
「大きくなったね、明人君」
お姉さん――いや、シャーロットさんの母親は、ニコッと笑みを向けてきた。
俺は戸惑いつつも照れくさくなり、思わず視線を外してしまう。
逆にシャーロットさんは、驚いたように俺と母親の顔を交互に見始めた。
「いえ、お久しぶりです……」
「うん、まぁ積もる話はあるし、説明しないといけないことも沢山あるんだけど……先に、一つだけ言っておくね」
シャーロットさんの母親は、そう言いながら俺の前に来る。
そして、俺の頬にソッと手を添えてきた。
「約束を守りにきたよ。十年近くかかっちゃったけどね」
「もう、忘れてるのかと思ってましたよ……」
「忘れるわけないじゃん。君とした、大切な約束なんだから」
俺は胸や目頭が熱くなるのを感じながらも、なんとか我慢する。
まだ、気を緩めてはいけないからだ。
「あの、お母さん……どういうこと……?」
「ちゃんと後で説明するよ。それよりも、今はこの件を決着させないと」
シャーロットさんの母親はまたニコッと笑みを浮かべると、俺たちに背を向けて姫柊社長と向き合った。
姫柊社長の表情からは、明らかな動揺が見て取れる。
彼女の母親が登場したからではないだろう。
これは、怯えている表情だ。
「先程姫柊社長の目の前で行われた通り、明人君はお金や地位ではなく、シャーロットを選びました。お約束通り、今後明人君と花音ちゃんは自由にさせて頂きます」
どうやら、俺たちの知らないところで賭けが行われていたようだ。
賭けの内容は言葉にしている通り、俺がシャーロットさんを選ぶか、お金や地位を選ぶか――だったのだろう。
現段階で俺と花音さんの将来を握っているのは、姫柊社長だ。
だから、その関係を壊そうとしてくれているようだ。
もしかして、有紗さんが俺の前に現れたのは、俺を傷つけそこにシャーロットさんが関与することで、俺たちの絆を深めようとしたのか……?
そしたら、絶対に俺がシャーロットさんを選ぶから……。
「ま、待ってくれ! まだ説得を――!」
「いいえ、明人君の答えは変わりませんよ。彼はお金や地位よりも、人を選ぶ子なのですから。明人君の本質を理解していなかった、あなたの負けです」
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