第110話「けじめ」
「えっと……まず最初に言わせてほしいんだけど、俺も許婚の話は今日聞いたばかりなんだ」
今まで隠していた、と思われたくなかった俺は最初に必要なことを伝える。
さすがにシャーロットさんもその辺はわかってくれていたのか、コクリと頷いて先を促してきた。
どうやら、一旦話を全て聞くつもりらしい。
「そして、許婚のことを認めたつもりもないよ。俺にはもう、シャーロットさんがいてくれるからね」
「明人君……」
笑顔で言うと、シャーロットさんはとても嬉しそうに笑みを浮かべて俺の胸に顔を押し付けてきた。
安心してくれた、ということでいいのかな?
――そう思った俺だけど、十分ほど経って顔を上げたシャーロットさんの頬は膨らんでいた。
「明人君」
「えっ、どうしたの?」
「どうして、お話をお聞きされた時にご相談頂けなかったのでしょうか?」
納得してくれた――そう思ったのに、シャーロットさんは納得していなったようだ。
表情から見て、完全に拗ねてしまっている。
「えっと……」
「彼女ですから、女の子関係のことは相談して欲しかったです……」
なるほど、だから拗ねてるのか……。
もう俺の表情や話から大丈夫だということは理解しているけど、自分が何も知らない間に話が終わっていたのが嫌だったんだろう。
正直心配をかけたくなかったというのがあったんだけど、シャーロットさんが話してほしいのなら今後は話さないといけないな。
――いや、そもそも今後こんな話はあがってこなくていいのだけど。
「ごめん、心配をかけたくなかったんだ」
「それはわかりますけど……やっぱり、寂しいです」
「うん、ごめん。今度からはちゃんと何かあったら相談するから許してくれないかな?」
「…………」
許してほしいと言うと、シャーロットさんは無言で頭を差し出してきた。
それが何を意味するのか、今の俺にはすぐに理解することができた。
「これでいいかな」
「はい……」
優しく頭を撫でると、シャーロットさんは体を俺へと預けてきた。
本当に、甘えん坊になったものだ。
出会った頃からは想像もできなかったよな、こんなの。
俺はそんなかわいい彼女の体を優しく抱きしめながら、丁寧に頭を撫で続ける。
この後用事があるけれど、もうそんなの放っておいてこのまま二人だけの時間を堪能したいくらいだ。
……まぁそんなことをすれば後で地獄を見ることになるので、当然移動するのだけど。
「じゃあ、行こっか。許婚のことに関してもきっちり断ろう」
「はい……!」
左手を差し出しながらシャーロットさんにそう言うと、彼女は嬉しそうに頷いて俺の手を握ってくるのだった。
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