第108話「懐かしい声」

「その……私、連絡先を交換して頂いています」

「なるほど、ね」


 どうしてシャーロットさんが言いづらそうにしていたのかわかった。

 俺がどうにか連絡が取れないかと悩んでいたのに、今更その手段があったことに気が付いたとは言いづらかったのだろう。

 ただこれは、俺も見落としていたものだ。

 花音さんたちがシャーロットさんに接触してきた時点で、連絡先も交換していると考えるべきだった。


「あの、ごめんなさい……こんな大事なことを伝え忘れていて」

「うぅん、大丈夫だから気にしないで。それよりもありがとう、これで連絡が付くよ」


 さすがにシャーロットさんからの連絡となれば、あの人も無視はしない。

 自分には厳しく、他者には優しいという人だ。

 何よりも礼儀を重んじる人だから、手が離せない状況になっていない限り電話は取るだろう。


「シャーロットさん、悪いんだけど取り次いでくれるかな? 俺からかけると問題があるだろうからね」

「わかりました。少々お待ちください」


 シャーロットさんはそれだけ言って、スマホを操作し始めた。

 すんなりと頷いてくれたけれど、彼女の表情から緊張していることがわかる。

 当然だ。

 今日知り合ったばかりの相手な上、これから大事な話をするための切り口を任せてしまっているのだから。


 それからほどなくして、シャーロットさんの電話が相手へと繋がる。


「――はい、それではお代わりいたします」


 そして、シャーロットさんは緊張した面もちで俺にスマホを渡してきた。


「もしもし」

《はい、もしもし》


 電話越しに聞こえてきたのは、昔とあまり変わらない大人のような美しい声。

 俺は懐かしさを覚える半面、ギュッと胸を締め付けられる思いにかられた。


「お久しぶりです、花音さん」

《相変わらず他人行儀ですね。お姉ちゃんと呼んでいいのですよ?》


 ふざけているのか……?

 俺がなんのために電話をしているのかわかっているだろうに。


 電話ごしに聞こえてきた呑気な声に対し、俺は疑問を抱く。

 しかし、よく思い出せばこんな人だったかもしれない。

 何かと、お姉ちゃん呼びにこだわっていたからな。


「すみません、それは無理です」

《そうですか……。では、なんのためにお電話をしてきたのですか?》

「そうですね……本題に入る前に、少しよろしいでしょうか?」

《かまいませんよ、時間は取ってありますから》


 時間は取っている――やはり、俺が電話をしてくることまで織り込み済みか。

 ならどうしてここまで回りくどいことをしているんだ……。




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あとがき


新作短編、

『氷の女王様と呼ばれる美人教師と半同棲生活してるなんて言えるわけがない』

を公開致しました!


甘々系+ギャップ萌えラブコメです!!


ネコクロの趣味全開です(*´▽`*)


是非とも、読んで頂けますと幸いです!

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