第106話「は、恥ずかしくて言えません……」

「その、私今日お嬢様らしき方と、メイドさんと廊下でお話ししたんです……」

「なんで……?」

「たまたま、すれ違った際にお声をかけられたんです」


 なるほど……そういうことか。

 確かに有紗さんが来たタイミングはシャーロットさんが出て行って少ししてからだった。

 その間二人で話していたとしてもおかしくない。


 ……いや、有紗さんは花音さん以外興味がない人だから、声をかけたのは花音さんか。

 シャーロットさんが俺の部屋から出て行くところを見ていたのなら関心を持ってもおかしくない。


「変なことを言われなかった?」

「いえ、まるで大和撫子のように上品な御方でしたので……」


 大和撫子――そうシャーロットさんが口にした瞬間、有紗さんと一緒にいた女性が花音さんだと確信する。

 俺の部屋に顔を出さなかったのは顔も合わせたくないということなのか、それとも有紗さんがけしかけてきた内容が内容だったからか。


 それはわからないけれど、一つわかるのは有紗さんをけしかけてきたのは花音さんで間違いないということだ。


 しかし、どうしてそんなことを……という疑問と同時に、いくら有紗さんだとはいえそんな汚い役を花音さんがやらせるとは思えない、という矛盾も抱えてしまう。

 本当に、いったい何が起きているんだ……?


「ちなみに、どういう話をしたの?」

「あっ、えっと……お幸せそうですね、とか、メイドさんに興味がおありなのですかって話になりました」


 うん、どうしてそんな会話になったんだ?

 全く話の流れが読めないんだけど……。


「なんでそんな会話に?」

「それは――あっ……」


 話の流れが読めなかったのでどういう流れからそんなことになったのかを聞くと、シャーロットさんは何かに気が付いたようにハッとした表情をした。

 そしてみるみるうちに顔が赤くなり、モジモジと恥ずかしそうに身をよじり始める。


 終いにはシャーロットさんはチラチラと俺の顔を見るようになり、俺たちの会話を黙って見ていた彰が凄く物言いたげな目で俺の顔を睨んできた。


 いや、うん。

 俺は無実だ。


「シャーロットさん、いったいどんな話をしたの……?」

「は、恥ずかしくて言えません……」

「よし明人。お前ちょっと表に出ろ」


 シャーロットさんが恥ずかしそうに両手で顔を隠してしまったため、彰がまるで般若のような顔で俺の肩を掴んできた。

 普通に凄く痛いんだけど、どれだけ嫉妬してるんだこいつは。


「別に何もしてないって。それにもうシャーロットさんとは付き合ってるし、彰も応援してくれてたじゃないか。だからお前が怒るのはおかし――」

「それとこれとは話が別なんだよ! 羨ましいに決まってるだろうが、馬鹿が!」

「――っ!? わ、悪かった。俺が悪かったから泣くなよ……」


 怒る彰は急に悔し泣きを始め、俺はちょっと引きながらそう彰を落ち着かせようとした。

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